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そのルーツは「紙芝居」「貸本」の時代にまで遡るという、水木しげるの漫画を原作とする妖怪アニメ作品『ゲゲゲの鬼太郎』。その第1作目がテレビ放送されたのは1968年1月3日から1969年3月30日にかけてのこと。カラーテレビの本格普及以前(カラーテレビの普及率が白黒テレビを上回るのは1973年のこと)の作品のため、全65話がモノクロで製作されている。このアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の放送をきっかけに巻き起こった「妖怪ブーム」は、1966年放送のテレビ特撮『ウルトラQ』を発端とする「第一次怪獣ブーム」をも終わらせる一因となったと言われるほどのものであった。その後、あまり間の空かないうちに製作された第2作目は、1971年10月7日から1972年9月28日にかけて全45話が放送されており、このシリーズから晴れてカラー化が果たされている。このテレビアニメ第1、第2シリーズに共通する主題歌「ゲゲゲの鬼太郎」(作詞:水木しげる、作曲:いずみたく、編曲:大柿隆)を歌っているのは、俳優・声優・演出家である熊倉一雄。彼のつぶやくように絞り出される歌声は、妖怪という存在への畏怖の念と、身近に忍び寄る静かな恐怖という、『鬼太郎』の描く世界観を見事に形にして見せていた。その熊倉一雄は2015年、享年88歳で惜しくもこの世を去っている。本日10月12日は、名優:熊倉一雄の命日である。
熊倉一雄による「ゲゲゲの鬼太郎」は、実はこれらのアニメ作品のために作られたものではなかったことをご存じだろうか。アニメ第1作が放送される約半年前の1967年7月。当時、原作漫画が連載中だった『週刊少年マガジン』の企画として、キングレコードが発売したLPレコード『少年マガジン・マンガ大行進』への収録のために作られた歌というのが本来の姿。後のアニメ化に際してそのまま流用されたのだ。当初の曲名は当時の原作漫画同様、「墓場の鬼太郎」だった。原作漫画の人気の高まりとともに、この曲の出来栄えの良さもテレビアニメの企画成立を後押ししたと言われている。そしてご存じのとおり、アニメ作品『ゲゲゲの鬼太郎』は、この第1、第2シリーズに留まることなく、2018年の現在に至るまで作られ続けていくこととなるのだ。
アニメ第3作が登場するのは80年代。1985年10月12日から1988年2月6日まで、全108話放送という人気を誇ったシリーズだ。主題歌「ゲゲゲの鬼太郎」は熊倉一雄の手を離れ、そのバトンはなんと、前年に「俺ら東京さ行ぐだ」がスマッシュヒットし、注目を集めていた吉幾三の手に渡る(編曲:野村豊)。吉が「雪國」の大ヒットによってNHK紅白歌合戦に初出場し、本格演歌路線への転向を果たすのは1986年のこと。言ってみれば『鬼太郎』第3シリーズ放送中に、世間における吉幾三のイメージは、コミックソング歌手から大物演歌歌手にガラリと変わってしまったのである。
続くアニメ第4作は1996年1月7日から1998年3月29日まで、全114話が放送されている。ここでまたしても意表を突くシンガーに次のバトンが手渡された。関西随一のブルース・バンド「憂歌団」が主題歌を担当したのだ(編曲も)。前作の吉幾三版がいかにも80年代的なアップテンポのポップス風アレンジだったのに対し、憂歌団は、うらぶれた熊倉一雄の歌い方の原点に回帰するかのような、翳りのある歌とアレンジを繰り出し、それでいてしっかりと「ブルース・バンド」の音であるという、さすがは憂歌団という年季と貫禄を見せつけた。
そしてアニメ第5作は2007年4月1日から2009年3月29日まで全100話を放送。3作続けて100話に届く放送を達成するという、鬼太郎人気の根強さと安定感を決定的にしたシリーズでもあった。このシリーズの主題歌は泉谷しげるが歌っている。編曲はフュージョン・ユニット『堀井勝美PROJECT』等で知られる堀井勝美が担当し、ブラスを前面に立てたジャズファンク風という、泉谷しげるとの不思議なミスマッチ感にあふれたものだった。また第5作では放送中期に主題歌の変更が行われている。後期は「ザ50回転ズ」が担当(編曲も)するガレージロックな音がする「ゲゲゲの鬼太郎」という、これもまた180度方向性の違うアレンジが登場。第66話「さら小僧!妖怪ヒットチャート」では、このザ50回転ズが妖怪の歌「ぺったらこ」をパクってしまうという話(実は、モノクロ時代の第1作目から存在する鬼太郎伝統の名エピソード)が作られ、メンバー3人は本人役として声の出演も果たしている。
2010年代に入っても鬼太郎は健在だ。アニメ第6作は2018年4月1日より放送が開始され、現在もなお放送継続中である。SNS、スマートフォン、「働き方改革」など、今現在ならではのアイテムやエピソードも多数登場する、まさしく「現代を生きる鬼太郎の姿」が描かれている。本作の主題歌は、演歌の貴公子:氷川きよし。同じ時間枠での前番組『ドラゴンボール超』後期主題歌「限界突破×サバイバー」に続いての担当である。田中公平による編曲は、熊倉一雄の初代主題歌を思い起こさせるような、闇に沈み込んでいくが如き静謐さを湛えながら、その奥には重厚なフル・オーケストラが潜んでいるような深遠なサウンドを構築。まさに2010年代ならではの「ゲゲゲの鬼太郎」を見事に演出している。
お気づきのとおり、テレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』とは、1960年代、70年代、80年代、90年代、2000年代、2010年代の全てに新作シリーズを送り込み続けている、まさしくオバケコンテンツなのである。さらに上記のアニメ全作の他、「ゲゲゲの鬼太郎」と題された実写ドラマ、実写映画などは、様々なアレンジに着替えはしているものの、全てが作詞:水木しげる、作曲:いずみたくによるこの主題歌「ゲゲゲの鬼太郎」を採用し続けているということにも、あらためて驚かされる。ゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダー等、長年にわたってシリーズが展開し続けている映像作品は少なくないが、1950年代の「紙芝居」、1960年代の「貸本」の時代から作品が続いていること、原作者の水木しげるも熊倉一雄と同じ2015年に逝去していること、息の長い「飛び石」式のシリーズ連続性等を考えると、「時代を超えた作品」の真のチャンピオンとは、この『ゲゲゲの鬼太郎』なのではないかとさえ思えてくる。そして企画レコードから始まり、それらの作品にずっと寄り添い続けている主題歌「ゲゲゲの鬼太郎」と、さらにそれを生み出した水木しげる&いずみたくの、50年という歳月を軽々と飛び越えて皆の胸に刺さり続ける創造力の強さにも、あらためて最大級の賛辞を送りたい。
「墓場の鬼太郎」LPレコード『少年マガジン・マンガ大行進』からのシングルカット盤、熊倉一雄「ゲゲゲの鬼太郎」ジャケット撮影協力:鈴木啓之
【著者】不破了三(ふわ・りょうぞう):音楽ライター、CD企画・構成、音楽家インタビュー 、エレベーター奏法継承指弾きベーシスト。CD『水木一郎 レア・グルーヴ・トラックス』(日本コロムビア)選曲原案およびインタビューを担当。