2199年の今日10月9日、宇宙戦艦ヤマトが発進~作詞家:阿久悠が見抜いた『宇宙戦艦ヤマト』の核心

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君は覚えているか! ヤマトの、あの熱き血潮を!「無限に広がる大宇宙。静寂な光に満ちた世界。死んでいく星もあれば、生まれてくる星もある。そうだ宇宙は生きているのだ……」あの忘れえぬオープニングナレーションと透明感あふれる川島和子のスキャットに導かれて始まるアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(第1作/1974年)の物語。時に西暦2199年、ガミラスの遊星爆弾による無差別攻撃によって、最後の時を迎えようとしていた地球。謎の美女:スターシャから差し伸べられた唯一の救い手は、14万8,000光年の彼方、大マゼラン雲にあるという惑星イスカンダルまで、放射能除去装置を受け取りに行くというものだった。人類の命運を懸けて地球最後の船:宇宙戦艦ヤマトが発進するのは、テレビアニメ版では第3話「ヤマト発進!!29万6千光年への挑戦!!」でのこと。人類滅亡まで、あと363日。日付で言うと2199年10月9日。つまり、181年後の今日……ということになる。

オープニングテーマ「宇宙戦艦ヤマト」、およびエンディングテーマ「真赤なスカーフ」の歌詞は、作詞家:阿久悠の手によるもの。歌謡曲のマエストロとして多くの人に記憶されている阿久悠の作品史において、子ども向けの歌というとピンと来ない方も多いかもしれない。しかし、1971年の「ピンポンパン体操」(第14回日本レコード大賞童謡賞)を筆頭に、「ワイルドセブン」(1972)、「デビルマンのうた」(1972)、「ミクロイドS」(1973)、「ファイヤーマン」(1973)、「ウルトラマンタロウ」(1973)、「レッドバロン」(1973)、「マッハバロン」(1974)、「ウルトラマンレオ」(1974)など、「ヤマト」と同時期だけでもこれだけ多くのアニメ・特撮・子ども番組の歌を手掛けていることに注目しておきたい。振り返ってみれば、そもそも阿久悠のシングルA面デビュー曲は「トッポ・ジージョのワン・ツーかぞえうた」(1966)であり、さらに遡れば、作詞家への道は、当時、『月光仮面』(1958)が大ヒット中だった製作プロダクション:宣弘社に脚本家志望として入社したことに端を発している。阿久悠と子どもの歌・子ども番組との絆は、むしろ深く強いものだったと言えるだろう。


だからと言って、子ども向けの分かりやすく優しい歌詞に終始するかというと、決してそうはならないところが、さすが阿久悠といったところ。『宇宙戦艦ヤマト』の物語全体を踏まえた上で、主題歌「宇宙戦艦ヤマト」「真赤なスカーフ」の歌詞をいま一度、じっくり眺めてみてほしい。「ヤマト」のストーリーが内包する、決意、別離、重責、挑戦、希望、望郷、愛……といった要素が、ごく限られた言葉数のなかにほとんど封じ込められてはいないだろうか。もしも阿久悠が「ヤマト」を、「宇宙を飛ぶ戦艦が敵をやっつけるお話」と単純に捉えていたならば、絶対にこうはならないはずである。

テレビ番組主題歌の作詞作業とは、当然、番組放送開始前に行われるため、本編は1度も視聴しないままの作業がほとんど。しかも、企画書や数話分のシナリオ、アニメの場合、設定画が少しばかり……という程度の、数少ない資料や情報しか与えられないなかで、物語の主題や製作者の狙い、番組の魅力の中枢を嗅ぎ取り、言葉に紡いでいくという、通常の歌謡曲の作詞に輪をかけて難しい作業となることが常である。しかし阿久悠は「ヤマト」において、まるで全話のフィルムを観終わった後に、じっくりと内容を振り返りながら書いたかのように歌詞を仕上げている。わずかな情報から物語全編を見通す力、「番組の魅力の中枢を嗅ぎ取る」能力がズバ抜けて鋭いのだ。これもやはり、脚本家を目指して宣弘社に入社し、短い映像、短い言葉で最大限の訴求効果を求められるテレビCMの製作現場で鍛えられたという、阿久悠の経験の成せる技だったのだろう。

ところで、主題歌「宇宙戦艦ヤマト」「真赤なスカーフ」の2曲の歌詞に共通して現れる言葉がいくつか存在することにお気づきだろうか。「宇宙」、「旅立つ」、「はるばる」、「かならず/帰る」、「男」、「ロマン」等がそれだ。もはやこのワードを眺めているだけでも、「ヤマト」の物語の本質が見えてくるような気さえしてくる。そしてこのなかで、ひときわ目立つ存在感を放っている(違和感と言ってもいい)のが、「ロマン」である。他の言葉は物語設定の外郭を表現する言葉であり、男児向けテレビアニメ主題歌としては極めて素直なものである。しかし「ロマン」は違う。キャラクターの内面やストーリーが持つ“マインド”のようなものに迫らないと出てこない言葉であり、同時に、子どもに対して向けられたものではない、「大人の言葉」である。1974年時点のテレビアニメで「ロマン」を声高に謳う作品などありはしなかったのだ。阿久悠がその鋭い嗅覚で嗅ぎ分け、あらゆる言葉を削ぎ落として辿り着いた、これまでのアニメにはなかった、「ヤマト」の魅力の真の中心核。その結論の一言こそ、この「ロマン」だったのではないだろうか。


それまでの日本のテレビアニメの常識を覆す、本格的なSFアニメに仕上げるという、スタッフの並々ならぬ決意の元に製作された『宇宙戦艦ヤマト』。実際、この作品により「テレビまんが」は「アニメ」へと脱皮したと言われ、視聴層を「子ども」から「青少年」にまで引き上げることに成功する。「アニメは子どものもの」という常識を打ち破る……「ヤマト」が果たした、この歴史的な変革を番組開始前にひっそりと予見し、そのキーワードを主題歌2曲の両方に、隠しコマンドのように埋め込んでいた阿久悠の眼力と、その大胆不敵さ。今や星となった彼が、宇宙の彼方からこちらを眺めてニヤリと微笑んでいる……そんな憎らしい顔が目に浮かぶ。

ささきいさお「宇宙戦艦ヤマト」「トッポ・ジージョのワン・ツーかぞえうた」ジャケット撮影協力:鈴木啓之

【著者】不破了三(ふわ・りょうぞう):音楽ライター、CD企画・構成、音楽家インタビュー 、エレベーター奏法継承指弾きベーシスト。CD『水木一郎 レア・グルーヴ・トラックス』(日本コロムビア)選曲原案およびインタビューを担当。

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