トランプ大統領がセッションズ司法長官を解任した理由

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月8日放送)にジャーナリストの北丸雄二と上智大学総合グローバル学部教授の前嶋和弘が出演。セッションズ司法長官解任の報道を含め、アメリカ中間選挙の結果について解説した。

アメリカ中間選挙~下院は民主党が奪還して議会はねじれに

アメリカの民主党選挙は野党民主党が下院で8年ぶりに過半数を奪取した。一方、上院は与党共和党が議席を伸ばす勢いで、1月からの新議会は4年ぶりの「ねじれ議会」としてスタートする。

飯田)まずは現地の様子をニューヨークにいるジャーリストの北丸雄二さんに伺います。ニューヨークは現在17時過ぎですよね。中間選挙の報道は落ち着いて来た感じですか?

北丸)いいえ。きょうもまた、大きなニュースが飛び込んできました。

セッションズ司法長官解任はロシア疑惑調査の強制中止が狙い

北丸)「セッションズ司法長官の解任。その後任に首席補佐官のマシュー・ウィテカー氏を代行させる」というニュースです。このウィテカー氏は、かつてロシア疑惑のとき「モラー特別検察官はトランプ大統領の財務状況を調べるのを止めなければならない」と言った人なのです。つまり、ロシア疑惑調査の強制中止を狙って、下院が変わる前にやってしまいたいということです。これにアメリカのメディアがかなり騒いでいます。大問題になりますね。

飯田)一報だけでは分かりませんでしたが、人事にそういう裏があったのですね。

北丸)セッションズさんはロシア疑惑に関与できないから、その下のローゼンスタイン司法副長官が管轄しています。しかし、セッションズさんと交代するウィテカーさんは、ロシア疑惑に手を着けることができるのですよ。

飯田)自身は絡んでいないからですね。

北丸)したがってローゼンスタイン副長官は、ロシア疑惑の管轄から外れることになります。そういう背景があるのです。

飯田)日本で言うと「指揮権を発動して警察の捜査を止めさせる」みたいな感じですか?

北丸)そうです。指揮権が変わってしまうのです。

飯田)つまり、それくらいトランプ政権にとって今回のこの結果は痛手なのですか?

北丸)まさにその通りです。下院が変わる来年になる前に手を着けたいのですよ。それだけ焦っている。つまり、今回の中間選挙は実質的に民主党の勝利だったということです。

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2017年2月、米ホワイトハウスで開かれたセッションズ司法長官(右)の就任会見で話すトランプ大統領(ロイター=共同)=2018年11月8日 写真提供:共同通信社

実質的に民主党が勝利したと言える

北丸)前述のように、今回の中間選挙は民主党の実質的勝利です。
なぜなら、上院がいくら議席数を拡大しても、すでにトランプさんがやりたかった「最高裁の連邦判事を全部保守派に置き換える」作業はほとんど終えているのです。上院はすでにその仕事を終えているから、今回議席数を増やしてもあまり変わらない。
しかも、これまでトランプさんが支持する州は2桁台の差を付けて勝っていたのが、今回いろいろと差が詰まり、1ポイントとか100ポイントとか、それほどの接戦になっている。「トランプ離れ」は目に見えないところで進んでいるのが読みとれるのです。

飯田)「郊外の方々の支持が変わった」とか「女性やマイノリティの方が民主党に行った」とか報道されていますが、現地ではどのような分析がされていますか?

北丸)投票所に行っても、若者たちの感じが違いました。いままでの中間選挙はだいたい投票率が30~35%くらいでした。今回の中間選挙はどこも軒並み、1、2時間待つのが当然のように並んでいました。ニューヨークも同じです。

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米ニューヨークで、支持者に語り掛ける民主党のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員候補(アメリカ・ニューヨーク)=2018年11月6日 写真提供:時事通信

民主党はイスラムやLGBTなど「多様性の議員」が多く当選

飯田)ニューヨークではオカシオ・コルテスさんが台風の目のように注目されていますが、どんな人ですか?

北丸)バーテンダーをやっていた、ヒスパニック系の移民の方で、29歳の女性です。彼女はニューヨークで圧勝して、すぐに頭角を現しました。彼女が今回の民主党が下院を抑えたことの象徴的な存在として言えるのが、まず「若者」であることです。若者たちの67%が民主党に票を入れました。そして、女性たちの61%が民主党に票を入れました。最終的に女性議員の百数十人が下院で当選することになりました。これまでは84議席が最多でしたが、ついに100人を越えました。
それだけでなく、今回はコルテスさん以外にもイスラム教徒の議員やアメリカ先住民の議員、それからレズビアンやゲイの人たち。そうした人たちが、民主党側に「多様性の議員」として多く当選している。これを読みとると、やはり今回の民主党の裏の勝利は、トランプさんにとって大打撃だと思います。下院を取った民主党が、すべての下院の委員会の権限を掌握することになり、トランプさんを好きなように調査できるのです。召喚状を出して公聴会も開けるし、ロシア疑惑以外にも利益相反問題とか、数々の違法行為を暴くこともできる。さらに、弾劾の発議もできるようになります。
つまり、トランプさんの暴走をストップさせたかった民主党は、その力を持つことができた、ということですね。

オバマ政権のように政府閉鎖が発生

飯田)前嶋さん、この結果でとりあえず民主党はトランプさんを止めていく形になるわけですか?

前嶋)そうですね。民主党としては、下院を取ったからトランプさんがやることをストップしていく流れです。ただ、民主党の方で新しく盛り上がったとしても、まだ上院の共和党がありますからね。トランプさんの動きがどこまで止まるか。逆に言うと、なかなか妥協できないところで政策が動かない。そんな動きになる気がします。

飯田)こうしてねじれたときに予算が通らず、政府機関が閉まってしまう「政府閉鎖」という事例がオバマ政権のときにありましたよね。これが起こるのですか?

前嶋)いつ発生してもおかしくないでしょう。トランプさんとしては、アメリカとメキシコに国境の壁を作りたいわけです。ただ、莫大な予算がかかります。国境線の長さは北海道から沖縄までの長さくらいありますからね。そして多くの場所は私有地だったり砂漠だったりしますから、とてもできないけれど、トランプさんとしては絶対に「インフラ投資」としてやりたい。民主党は「インフラ投資はやるけれど、壁作りは嫌だ」です。まさにお金の問題ですから、政府閉鎖の候補ですね。この辺で揉めると思います。

飯田)民主党の下院トップのナンシー・ペロシさんが会見で「インフラ投資はできる!」と伝えていましたが、実際は牽制球として言っているのですか?

前嶋)そうです。トランプさんへ「インフラはできるけれど壁は入れないで」というメッセージですね。

飯田)「トランプ大統領は選挙で負けたから、過激化するのでは?」と言われていますが、どう思いますか?

前嶋)過激化すると思います。選択肢は2つ。民主党と妥協するか、敵を作って戦って行くか。後者だと思います。94年にクリントンさんが中間選挙で大負けしたとき、民主党のクリントンさんは共和党にすり寄りましたが、そのパターンではないと思います。

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