ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」（11月16日放送）に外交評論家・キャノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。イギリスのEU離脱について解説した。

イギリス政府がEU離脱案を了承

イギリス政府は14日閣議を開き、EU（ヨーロッパ連合）からの離脱の条件を定めた協定の合意案を承認した。EUはイギリスの承認を受け、25日にEU臨時首脳会議を開く方針で、この場で双方が署名することになるが、15日にはイギリス側の離脱交渉責任者のラーブEU離脱相ら閣僚2人と、閣外相ら4人合わせて6人がこの合意案に反発して辞任するなど、政権は混迷を深めている。

飯田）今週半ばにドラフトが出て来て事務方で合意という話になって、閣議が行われました。閣議も5時間以上やって。揉めていますね。

宮家）大英帝国の黄昏ですよね。世界の7つの海を支配し、自由で開かれた世界をアメリカと作り、先駆けをやっていたでしょう。この体たらくは何でしょうか。EUが無くてイギリスが生きて行けるわけがない。イギリスは海洋国家でヨーロッパは大陸だから、発想が違うのです。その気持ちは分からないでもない、だけど離脱してどうするのと。日本みたいな国だってイギリスがEUだから投資していたものを、「離脱なんてふざけるな」という声は必ずあるのです。そうすると、メイさんも揺らぐ。EUは「出るのはいいけれど、あれもこれもやれよ」と散々条件を付けた結果がこれでしょう。そしたら強硬派の連中は「話が違うじゃないか、全然離脱していないじゃないか」と言う。そんなことできるわけがないのに、無責任も甚だしいのです。EUには苦渋の選択で入って、いままで何とか持ち堪えて来たのでしょう。これで出て行って単独でやれるかと言うと、簡単に行くわけがないですよ。
イギリスも落ちたね。こんなことをやっていたら、そのうちスコットランドとイングランド、アイルランド、ウェールズでバラバラになってしまいます。連合王国の連合が壊れてしまうような危機感が一時期ありました。産みの苦しみなのか分からないけれど、メイさんには同情します。

飯田）メイさんはもともと離脱したくなかった人ですよね。

政治には時代の大きな流れがある

宮家）ただ、そういうめぐり合わせですよ。政治家というのは常に時代が役割を与えるのです。その時代の役割が果たせるかがポイントで、彼女はもう腹を括ったのです。それで総選挙をやって、権力を固めようと思ったら負けてしまった。このまま行くと、時代の役割を果たせなかったのかなと。みんなが役割を果たしているわけではなくて上手くいかない場合もあるけれど、「鉄の女」と呼ばれたサッチャーさんに比べると可哀想だなと。

飯田）かなり拮抗していましたけれども、イギリスが離脱に傾いて行った1つの要因に移民の問題があったわけですよね。日本にも通じる問題です。

宮家）私が言うダークサイド、非常に不健全な人種差別、排外主義、ナショナリズム、ポピュリズム、走りはこのEU離脱ですよ。グローバリズムに背を向けて、国内第一主義。

飯田）光もあれば影もあるように、影を強調すればこの世の中は真っ暗だということにもなるのですが。

宮家）でも、そんなに暗くもないのですがね。イギリスだけではなくて、ヨーロッパはバラバラです。立派な国々だからバラバラなのかもしれないけれど、中国を見たら1つの政府で13億人が1つの言葉を喋っている。一方で、ヨーロッパ諸国はEUをやってもバラバラで、通訳の費用だけで莫大な金が掛かっています。

思想、政治の統合はできないEU

飯田）EUは「ある意味壮大な社会実験だ」と言う人もいるではないですか。まず通貨を統一して経済から統合しようとしたけれど、政治レベルでスタックしてしまいましたよね。

宮家）全部主権を放棄するかと言われるとそうではなくて、通貨については一部は共通だけれど財政権がバラバラなのだから、上手くいくわけがないですよ。それを壮大な実験で頑張っているのには敬意を表するけれど、政治統合をしないと上手くいかないのではないでしょうか。

飯田）そこは、国民国家の位置付けみたいなものになるわけですよね？

宮家）ヨーロッパを見ていると、良い意味でも悪い意味でも各民族、各国家の文化、歴史に対する誇りがもの凄く強いから、同化しない。他の国の言葉を喋るなんてありえない。だからいつまで経っても政治統一なんかできないのですよ。大実験なのだけれど、政治統合までは行きませんね。

飯田）かといって、統合してしまった経済はここから切り離すわけにはいかないのですよね。

宮家）経済はグローバル化できても、人の心はグローバル化できない。そのねじれがEUでは現実になっていると思います。

飯田浩司のOK! Cozy up！
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