話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、7月11日に行われたフレッシュオールスターゲームでMVPに輝いた、広島・小園海斗選手のエピソードを取り上げる。
「楽しみにしていた。『絶対打ってやろう』という気持ちでいた」(小園)
プロ野球界の次代を担う精鋭たちが集う、フレッシュオールスターゲームが11日に楽天生命パーク宮城で行われました。
去年(2018年)の甲子園を沸かせた「高校ビッグ4」が競演。日本ハム・吉田輝星(金足農)、ロッテ・藤原恭大(大阪桐蔭)、中日・根尾昂(大阪桐蔭)、広島・小園海斗(報徳学園)と、各球団期待のドラフト1位ルーキーが顔を揃えました。
高校野球ファンにとってはたまらないゲームでしたが、全イースタンの先発が吉田、全ウエスタンの1番打者が小園だったため、1回表、プレイボールと同時に、いきなり2人の対決が実現しました。2人はプロ初対戦です。
試合前、吉田は「全球、直球勝負で行く」と宣言。これに対し小園も「フルスイングする」と対抗意識を燃やし、有言実行で、初球から積極的に振って行きます。2ストライクと追い込まれましたが、4球目、外角高めの146キロを振り抜くと、打球は右翼ポール際へ飛び込む先頭打者ホームラン!
「初球からフルスイングできたのでよかった。真っ直ぐで来ると思っていました」(小園)
「高めで空振りが取れた瞬間は『結構行けるかな』と思ったんですけど、最後、甘く入ってしまった。あれはしゃあないです。衝突事故みたいな感じですね(笑)」(吉田)
ちなみに、フレッシュオールスター(ジュニアオールスター時代も含む)で先頭打者ホームランを打ったのは、76年の高橋慶彦(広島・高卒2年目)、83年の定岡徹久(広島・大卒1年目)に次ぐ、36年ぶり3度目の快挙。3人ともカープの選手ですが、高卒1年目で打ったのは小園が初めてです。
2回にも打順が回り、DeNA・中川からヒットを打った小園。5打数2安打1打点の活躍でMVPに輝き、賞金100万円を獲得しました。
フレッシュオールスターのMVPは過去、イチロー(92年・オリックス)、青木宣親(04年・ヤクルト)、中田翔(09年・日本ハム)、最近では岡本和真(16年・巨人)などが獲得、スタープレーヤーへの登竜門と言われていますが、小園にとっても、絶好のアピールとなりました。
小園の「ここぞ」という場面での勝負強さは群を抜いています。オープン戦ではホームランを2本放ち、開幕1軍の切符をゲット。残念ながら出場機会がないまま、開幕2試合でファームに落ちましたが、6月に再昇格。
6月20日のロッテ戦で、不振の田中広輔に代わって「1番・ショート」でスタメンに抜擢、待望の1軍デビューを果たします。しかも、プロ初打席で初ヒットを記録。普通ならガチガチになるところ、甲子園という大舞台で活躍して来た小園に「緊張」という言葉は無縁のようです。
しかし、プロの厳しさも味わいました。鮮烈デビューを飾った翌日、21日のオリックス戦では、1点リードの9回、ゴロを一塁へ悪送球→直後にフランスアが吉田正尚に2ランを浴び逆転負け。さらに22日のオリックス戦でも、6回に併殺コースのゴロをトンネル。3失点を喫するきっかけを作り、チームは連敗を喫しました。
デビュー戦も含め、3試合で4失策。いくら強心臓の小園と言えどもさすがに堪えたようで、精彩を欠いたまま、7月1日に1軍登録を抹消。ファームに逆戻りしたのです。
今回のフレッシュオールスターは、心機一転する絶好の機会でした。甲子園のライバルたちと久々に逢えたことも、再び闘志を燃やすいいきっかけになり、MVP獲得という結果を残した小園。15日に再開される後半戦から、1軍に再登録される見込みです。
引き分けを挟んで11連敗中と、泥沼にはまったカープの起爆剤になれるのか? 緒方監督ら首脳陣も大きな期待を寄せています。