本日8月22日は佐野量子の誕生日~いまは武豊夫人の元アイドル
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【大人のMusic Calendar】
1968年(昭和43年)の本日8月22日は、佐野量子の誕生日。
1995年6月5日、武豊のもとへと嫁いで以来、三田寛子・畠田理恵と並ぶ三大「80年代にはアイドルだった模範的良妻」の座を堅実に守り続けている佐野量子。表舞台に駆り出されることも殆どなくなり、気分的には「もうアイドル時代の話を持ち出す必要なんてないのでは」と思いたいのだけれど、この際なので筆者なりに語らせていただきます。なにせ彼女もまた80年代屈指の「華イヤー」、85年デビュー組の一人ゆえに。
出身地は焼きそばで予期せず全国区となった静岡県富士宮市。特に派手なメディア戦略に乗せられぬまま、85年4月21日「ファースト・レター」でRVC(当時)からシングルデビュー。同日デビューだけでも網浜直子、井森美幸、志村香、そしてあの本田美奈子がいるという、まさに新人アイドル狂騒曲の真っ只中に放り込まれるも、もうひと推し足りなくて、オリコンチャートでは100位入りにちょっとだけ届かず。当時のRVCでは、石川秀美がコンスタントにベスト10入りする人気を保っていたものの、それ以降しばらく決め手に恵まれない状態が続いていて、この子も玄人受けで終わっちゃうのかなと思ったり。デビュー曲の作詞はその後シングル7作目までを手がける秋元康だが、なるほど前年ブレイクした菊池桃子の「直立不動歌唱スタイル」を忠実に継承してるなという印象しかない。
2枚目「蒼いピアニシモ」で100位の壁を突破、とりあえず一旦は浅香唯を「追い抜いた」が、続く「雨のカテドラル」では、アイドルのシングルA面曲としては異例の「セリフ含有率の高さ」のせいか、一般受けを遠ざけてしまう。今聴き返せば、岸本加世子「裸の花嫁」に肉薄する狂おしさに仰け反ってしまうのだが。その後しばらく、桃子の後塵がちらつくという印象の曲が続き、売上げ的には横ばい状態から脱出できず。むしろ、新たに移籍した浅井企画のカラーも手伝い、本人の天然ぶりが個性に転じたバラエティ番組での活躍により、一般的な知名度は高まっていくのだった。ドラマでの好演が歌手活動の勢いをさらに加速した浅香唯や南野陽子と対照的ではあるが、彼女には「凄み」とかは似合わない。ナチュラルでいいのだ。
そんなタレントとしての人気上昇に制作陣も期待したのか、歌手活動もいくつか曲がり角を迎えつつ、コンスタントに続く。初めての曲がり角は、7枚目のシングル「4月のせいかもしれない」。男言葉の歌詞が新鮮な印象を与え、聴後感は桃子というより河合その子の曲のようだ。後藤次利作品だもの、納得するしかない。この曲で従来のファン層以外へのアピールを少しだけ増した。
3連バラードで冒険してみたけど、ためらいがちな感じが歌唱のそこここに現れている「夏のフィナーレ」、控えめに不思議少女になってみました、みたいな財津和夫作品「レタスの恋愛レポート」など、マイペースで佳曲を畳み掛けるも、なかなか突破口が来ない。上位へとホップしていく唯やナンノの後ろ姿が、ますます遠くなっていく。
実は筆者も、今まで書いてきた曲の多くにリアルタイムで接した記憶が殆どなく、彼女が85年組だったという事実さえ忘れかけていたという体たらくなのだが、そんな状況を強烈に打破した曲がデビュー5年目に遂に登場する。実に14枚目となるシングル「あくび」がそれだ。89年8月リリースで、皮肉にも初めて7インチシングル盤が出なかった曲。
アイドルファンの間では「パジャマ姿でリコーダーを演奏している曲」として語り継がれているこの曲だが、まさに筆者の開眼点もそこ。恥じらい気味な乙女の最強の武器として、遂に縦笛を持ち出してきた。小泉今日子が「スマイル・アゲイン」でオカリナを演奏した前例はあったとはいえ、これにはやられるしかなかった。
作詞には再び秋元康が迎えられ、「川の流れのように」の最強コンビ見岳章とタッグ。70年代の王道フォーク路線を継承した楽曲のカラーを更に明確にするため、アレンジャーにはその道のエキスパート・石川鷹彦を起用している。このイメージ戦略のおかげか、歌番組への露出も増え、佐野量子の歌といえばこの曲という印象を抱く人も多いだろう。続く「しあわせをいつまでも」も、ハーモニカを使用してのフォーク路線だが、6年後の彼女自身に向けて歌ったのだろうか…。
そんな幸せのゴールに至るそこからの数年間、さらにシングル2枚を残し、女優として堅実に活動するわけだが、決して派手な動きに出なかったことがかえって「個性」になって、結婚後の彼女を邪魔することにならず、いいアイドル生活に恵まれたと思う。せっかくの機会なので「アイドルと笛」についてもっともっと書きたいと思ったけど、止まらなくなりそうなのでこの辺で。
佐野量子「ファースト・レター」「蒼いピアニシモ」「雨のカテドラル」「4月のせいかもしれない」「夏のフィナーレ」ジャケット撮影協力:鈴木啓之
【著者】丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。 2017年5月、初監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』の3タイトルが発売、10月25日にはその続編として新たに2タイトルが発売された。