菅野・坂本 巨人軍チームリーダーが若手と自主トレを行う理由
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、2月1日のキャンプインを前に調整を進める巨人軍選手たちの「自主トレ」にまつわるエピソードを取り上げる。
「(後輩たちには)何回かガツンと言いましたけど、それからはみんなが自立してやってくれた。今年はすごくいいメンバーだった。いままででいちばん充実していたかもしれないです」
日本時間で10日、ハワイ自主トレを打ち上げた巨人・菅野智之。菅野はここ数年、後輩の投手たちを引き連れて合同自主トレを行っており、「菅野塾」とも呼ばれています。今回の自主トレは、昨年(2019年)12月中旬に行われたハワイへのV旅行から帰国せず、そのまま1ヵ月現地に滞在する形で行われました。同行したメンバーは、宮國椋丞・中川皓太・鍬原拓也・直江大輔の4投手です。
昨季は腰痛に苦しんだ菅野。今回の自主トレでは、加齢により筋肉が硬くなっていた肋骨周辺や股関節周りの柔軟性アップを目標に掲げました。その辺りの動きが円滑でないと、腰に余計な負担が掛かってしまうのです。ストレッチ、ウエイトトレーニング、スクワットなどを繰り返し、柔軟性と同時に筋力強化も目指しました。その甲斐あって、腰の状態も良好のようです。
自身の調整を進めながら、後輩たちに親身になってアドバイスを行いました。日替わりでキャッチボールの相手を変え、体の使い方、フォームなど気付いたことを助言するのが菅野流。また後輩から質問されたことにも、丁寧に答えます。
もっとも、何から何までアドバイスするわけではありません。今季(2020年)プロ10年目を迎える宮國、昨年67試合登板とフル回転した中川に対しては、「練習メニューは自分たちで考えるように」と伝えました。
「今度は彼らがやってくれないと。それがジャイアンツ特有の伝統だと思いますし」
かねてからメジャー行きの夢を公言している菅野。いつまでも「菅野塾」を続けられるわけではありません。宮國・中川が、初参加の鍬原・直江に対して指導するシーンも。最終的には、各々が自ら課題を考えてトレーニングを進めるようになり、充実した内容の自主トレになりました。
宮國は2013年、20歳で開幕投手を務めたこともありましたが、その後伸び悩み、昨季は後半不調でCSや日本シリーズにも出場できずに終わりました。さらに、入団以来9年間着けて来た背番号「30」は今季から鍵谷陽平が着けることになり、「58」へ変更。
今回の自主トレでは「いままでやっていたフォームや、考え方をすべて変えたい」と背水の陣で臨みましたが、菅野から“自立”を促されたことで、ひと皮剥けたようです。
今季も「勝利の方程式」を担う中川、サイドスローに転向した鍬原、高卒2年目で1軍定着を目指す直江も、それぞれの課題と向き合い収穫を得たようで、彼らが「菅野塾」の成果をマウンドでどう発揮してくれるのか、注目です。
一方、野手では、今季もキャプテンを務める坂本勇人が、沖縄での自主トレに北村拓己・湯浅大・増田陸の3人を同行。
「若い子を連れて行ったら、自然と練習量も増える。それが自分のためにもなる」
出発前にそう語った坂本。自分も、高卒1年目のオフ、阿部慎之助・現2軍監督のグアム自主トレに参加。その成果もあって2年目に遊撃のレギュラーをつかんだだけに“恩返し”の意味もあるのです。
今季3年目の北村は、昨年も沖縄で坂本と汗を流しましたが、同じく3年目の湯浅と2年目の増田は初参加。増田は明秀学園日立出身で、光星学院(現・八戸学院光星)時代に坂本を育てた金沢成奉監督の教え子でもあります。高校時代は通算34本塁打を放った右のスラッガーで「坂本2世」と期待されていますが、彼も二塁のレギュラーを狙う1人。
「二遊間は(自分とコンビを組む二塁手のレギュラーが)ずっといない。今回来ている選手たちがそうなってくれたらいい」
と言う坂本。昨季、二塁を守った選手は7人いますが、先発で最も多く出場したのは、今季3年目の若林晃弘で57試合。巨人の二塁手で100試合以上に先発したのは2014年の片岡治大(現コーチ、113試合)が最後で、以降、遊撃・坂本は不動ですが相方がコロコロ変わっている状態なのです。
セ・リーグ連覇、8年ぶりの日本一奪回には、二遊間の固定は不可欠。菅野同様「チームリーダーとして、戦力の底上げにひと役買おう」という自覚が窺えますが、坂本もまた「一緒に練習したからといって、うまくなるわけじゃない。自分で考えて練習することが大事」というスタンス。それは阿部から教えられたことでもあります。
先輩から後輩へ……自主トレは、チームの伝統を継承する場でもあるのです。