巨人・阿部が「最後にマシソンの球を受けたい」理由
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、今季限りで引退を発表、9月27日の本拠地最終戦で4年ぶりの先発マスクをかぶる巨人・阿部慎之助選手と、スコット・マシソン投手との絆にまつわるエピソードを取り上げる。
「たくさん受けたいなと思う人はいるんですけど……現時点でのチームメートなら、日本にも長くいるマシソンかなぁ。いろんな思い入れがあるので」
25日、都内のホテルで会見を行い、現役引退を正式に表明した巨人・阿部慎之助。この日、詰めかけた記者たちは、会場で配られた「ABE 10」のユニフォームを着て主役の到着を待ちました。番記者たちにも慕われていた阿部ならではの光景です。
質疑応答の時間にはさまざまな質問が飛び交いましたが、「捕手としていま、受けてみたい投手は?」という問いに対する答が、冒頭の「マシソン」でした。その理由については、
「たくさん優勝しましたし、僕の首に激痛が走ったときも(投手は)マシソンでした。マシソンの剛速球を(打者が)ファウルチップしたのを食らって、そういう(捕手を離れる)運命になったので……」
カナダ出身で、メジャーではフィリーズでプレーしたマシソン。2012年に巨人入りし、来日1年目はセットアッパー・抑えの両方で活躍。山口鉄也・西村健太朗との必勝リレーは「スコット鉄太朗」と呼ばれ、この年、巨人は日本一に輝きました。
続く2013年・2014年もトリオで活躍し、リーグ3連覇に貢献。山口と西村は昨年(2018年)ユニフォームを脱ぎましたが、マシソンは8年目の今季も、リリーフの柱として重要な役割を担いました。
しかし、来日した当初は荒れ球で、春季キャンプの紅白戦でチームメートの頭にぶつけ、病院送りにしたことも……。制球難に悩んでいたマシソンに「そんなに全力で投げようとしなくていい。適度に力を抜いて」とアドバイスしたのが阿部でした。
阿部はまた、プライベートでマシソンを食事に誘い、日本の野球について教えたり、早くチームに溶け込めるよう気を遣ったそうです。
また、ときには厳しく叱咤することも。2014年4月、ヤクルト戦でマシソンがバレンティンに同点ホームランを打たれた際、バレンティンの喜び方にカチンと来たマシソンが何かを叫び、口論に発展。両軍ナインがベンチから飛び出す一触即発の事態に。そのとき、マウンドに向かおうとするバレンティンを止めにかかったのが、捕手の阿部でした。
「打たれたアイツ(=マシソン)が、負け犬の遠ぼえみたいに吠えた。アイツが悪い」
試合後、マシソンを叱った阿部。「巨人軍は紳士たれ」「リリーフ投手たるもの、常に冷静でいなければいけない」……それが阿部の教えでもありました。
阿部の引退会見では、最後にサプライズで坂本勇・亀井・澤村が花束を持って登場しましたが、そこにはマシソンの姿も。こういう会見に外国人選手が参加するのは珍しいことですが、マシソンにとって阿部は「戦友」であり「恩人」でもあるのです。
会見後、マシソンは自身のインスタグラムを更新。阿部への感謝の意を綴りました。
「阿部さんに花を贈ることができて光栄だった。彼の助けや教えがなければ、いまも投げていることはなかっただろう」
マシソンは昨年(2018年)、故障でシーズン中に帰国。左ヒザのクリーニング手術を受けた直後に、今度は「エーリキア症」という感染症にかかり、暮れにリンパ節を除去する手術を受けたため、今季は6月に1軍合流と出遅れてしまいました。
ただでさえ助っ人の出入りが激しく、1軍外国人枠をめぐる戦いも熾烈な巨人。しかし、マシソンには優勝の味を知っている強みがありました。「原監督・阿部さんとともに、また優勝したい」という思いが原動力になり、5年ぶり、自身4度目の美酒をともに味わえたことは何よりの喜びだったに違いありません。
レギュラーシーズン・ホーム最終戦となる27日のDeNA戦で、阿部は久々に捕手として先発出場する予定ですが、「最後にボールを受けてみたい」と直々に“指名”を受けたマシソン。阿部の希望を受け入れ、来日初先発することになりました。
阿部がマスクをかぶるのは、2015年6月6日の交流戦・ソフトバンク戦以来、1574日ぶりのこと。ちなみに、その試合で最後に阿部がボールを受けたのはマシソンでした。
本拠地ラストゲームは、巨人ナイン全員がユニフォームの袖に「ありがとう慎之助」のロゴをつけてプレーする予定です。
本人が「引退試合のような演出は要らない。これで最後じゃないんだから」と言うように、CSや日本シリーズで、代打の切り札、もしくは一塁手としての活躍が期待される阿部。
マシソンの夢は、来日1年目の2012年以来7年ぶりの日本一をつかみ、阿部のはなむけとすることです。2人の戦いは、まだまだ続きます。