原監督に「僕なんかじゃ測れない」と言わせた岡本のすごいところ
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は9月12日のDeNA戦で本塁打を放ち、2年連続の30本塁打に王手を掛けた巨人・岡本和真選手にまつわるエピソードを取り上げる。
「(バットを出したのは)“反応”でした。いいホームランが打てましたね」(岡本)
横浜スタジアムで行われた、首位・巨人と2位・DeNAのセ・リーグ頂上対決3連戦。10日の初戦に逆転勝ちしてマジック「9」を再点灯させた巨人は、2戦目に敗れましたが、12日の3戦目は、巨人打線が本塁打3本を含む12安打8点の猛攻でDeNA投手陣を打ち崩し、マジックを一気に2つ減らして「7」としました。
この直接対決に勝ち越したのは大きく、DeNAとの差は5ゲームに拡大。巨人は残り13試合を7勝6敗とほぼ5割のペースで行けば、5年ぶりのペナント奪還が決まります。
3戦目のヒーローは何と言っても、初回の先制打と本塁打2発で5打点を挙げた丸ですが、4回に丸が25号2ランを放った直後、すかさず2者連続の29号ソロを打ってダメを押した4番・岡本の働きも見逃せません。
丸と岡本がアベック弾を放ったのは、これで今季(2019年)6度目。岡本は「3割・30本・100打点」を達成した昨年(2018年)に続く「2年連続30本塁打」に王手を掛けました。
丸の加入は巨人にさまざまな恩恵をもたらしましたが、後ろを打つ岡本にとっても、丸のバッティングは学ぶところが多く、それが打撃技術の向上にもつながっています。
9月に入って調子を落としていた丸は、この3連戦中に打撃フォームを修正。阿部慎之助の勧めで新たに試みたのが「ツイスト打法」でした。
打った瞬間、打球の方向は見ずに、顔の位置をそのまま正面(三塁ベンチ方向)に残しながら、腰をピッチャー方向ではなく、キャッチャー方向に逆回転させるというトリッキーなこの打法。バッティングの感覚を取り戻すために、1つの調整法として試みる選手はいますが、チームが優勝を争っているこの時期に主砲が試すのは、かなり勇気が要ることです。
「前の打席で、お手本のようなバッティングを丸さんが見せてくれたので、いいイメージで打席に入れました」(岡本)
多少不格好でも、シーズン終盤まで「いまできる最善のバッティング」を追求、ホームラン2発という結果を残した丸の姿勢に、岡本は感銘を受けたようです。
丸は昨年(2018年)まで、広島で3年連続優勝を経験。2年連続MVPに輝いた選手。優勝するために、主砲は何をすべきかを知り抜いている丸の後ろを打つことで、岡本はさまざまな財産を手に入れることができました。
「僕は(リーグ優勝は)初体験なんで」と言う岡本。巨人が最後に優勝した2014年オフのドラフトで入団した岡本は、まだビールかけを経験していないのです。歴代巨人軍主砲の心構えは坂本勇人に学び、チームを優勝に導くための心構えは丸に学ぶ……2人の先輩による“英才教育”が、5年目の岡本をさらに成長させました。
その成長ぶりは、ときに指揮官・原監督の理解を超えることも……。10日の3連戦初戦、巨人は1点を追う6回、DeNAのエース・今永から丸が四球を選び出塁。2死一塁の場面で、岡本に打席が回って来ました。
「俺に回って来い!」と念じていたという岡本。四球を出した後の投手は「まずはストライクを取りたい」という心理が働くので、「カウントを取りに来た真っ直ぐを狙え」というのが打者のセオリー。しかし、実際に今永が投じたのは真っ直ぐではなく、定石の裏をかいたチェンジアップでした。
ところが、岡本はこのチェンジアップを迷いなく振り抜き、打球は左中間スタンド上段へ。逆転の27号2ランとなったのです。試合後、原監督はこの1発について、
「ああいう場面で、チェンジアップをホームランにするっていうのがね……(四球の後の)真っ直ぐをカーン! ならわかるけど、何て評価していいか」
「すごいと言うのか、僕としては物足りないというか……。僕なんかじゃ測れないところ」
複雑な言い回しで、岡本の1発を評価した原監督。岡本本人は「セオリーとかは、一切何も考えていなかった」と言いますが、現役時代“王道”を歩んで来た元巨人軍4番・原監督の理解を超えた領域に、岡本は踏み込もうとしているのかもしれません。
この初戦、岡本は3-1の8回にも、2番手・エスコバーから2打席連続の28号ソロを放っていますが、この1発は「真っ直ぐ」を仕留めたものでした。
そして、マジック減らしに貢献する、12日の29号。あと1本打てば、2年連続で30本の大台に乗りますが、巨人生え抜きの右打者では、原監督が1985年から4年連続でマークして以来の快挙となります。
「打ち方もよくなって来ている。(優勝に向けて)思い切りやりたいです」
優勝の後も、CS突破、そして7年ぶりの日本一奪還へ……岡本が「巨人軍の4番」としてどんなバッティングを見せてくれるのか、真価を問われるのはこれからです。