巨人のニューヒーロー・増田大輝は元トビ職の苦労人
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、8月18日に行われた阪神戦で活躍、打撃と足でチームの4連勝に貢献した、巨人・増田大輝選手にまつわるエピソードを取り上げる。
「持ち味が出せたと思います。パパやりましたー!」
18日に東京ドームで行われた、巨人-阪神戦。5年ぶりのV奪回に向けラストスパートをかけたい原監督が、「7番・二塁」でスタメンに抜擢したのは、プロ4年目、育成出身の増田大輝でした。17年7月に支配下登録を勝ち取りましたが、1軍の試合に出場したのは今シーズン(2019年)が初めて。これが3度目の先発起用でしたが、過去2度はノーヒット。
「『きょうは!』という気持ちで、積極性を消さずに、自分のバッティングをしようと」
捲土重来を期して、試合に臨んだ増田。0-0で迎えた4回、1死一・三塁のチャンスで打席が回って来ました。増田は阪神先発・ガルシアに0-2と追い込まれますが、粘ってフルカウントに持ち込みます。ここでベンチはヒットエンドランのサイン。
一塁走者・ゲレーロがスタートを切った7球目、ガルシアが投じた低めの変化球を、増田は体を沈み込ませ、左手1本ですくい上げました。打球は、左越えの先制2点タイムリー三塁打に。増田は塁上で両拳を強く握って、ガッツポーズを見せました。
「(ストライク)ゾーンに絞って、何とか食らいついて行きました」
増田は、50メートル走5秒9の、自慢の足でも魅せました。
先頭打者で迎えた6回、四球で出塁すると、次打者・小林の初球でいきなり走り、二盗に成功。その直前、阪神の捕手が坂本から原口に交代していました。原口の二塁への送球タイムが、坂本より遅いことをチェックしていた増田。ベンチは「盗塁できると判断したら、自分のタイミングで走っていい」という「グリーンライト」のサインを増田に出していました。増田の足に対する、信頼の証でもあります。
「セーフになると期待をしてくれるからこそ、(盗塁のサインを)出してくれた。決められてよかった」
それだけではありません。二盗を決めたあと、直後の2球目に三盗にも成功! 出場55試合目で、若林と並ぶチームトップタイの10盗塁に到達しました。内訳は二盗が6個、三盗が4個。しかも三盗は4回試みてすべて成功しているのも驚異的です。
結局得点にはつながりませんでしたが、増田が足でかき回したことは、阪神バッテリーに大きなプレッシャーを与えることになりました。
試合は終盤、阪神が1点差まで追い上げますが、7回、巨人はゲレーロの2点タイムリー二塁打で突き放し、6-3で勝利。阪神を3タテ、4連勝を飾るとともに、8年連続の阪神戦勝ち越しを決めました。原監督は試合後、ヒーローの増田を絶賛。
「非常にケレン味のない、キップがいい野球選手だね」
お立ち台で「パパやりましたー!」と絶叫した増田。実は結構な苦労人です。徳島・小松島高では主将を務め、近畿大に進みますが、2年次に中退。地元・徳島に戻ってトビ職に就き、建設現場で鉄骨を運んでいたことも。
しかし、草野球では満足できない自分に気付き、「もう1度プロ野球選手を目指してみよう」と決意。トビ職は続けながら、14年から2年間、独立リーグの四国アイランドリーグplus・徳島でプレー。スカウトの目に止まり、15年、育成ドラフト1位で巨人入りしたのです。
入団前の15年2月に結婚。9月に長男も誕生しましたが、増田は妻子を徳島に残し、単身赴任で独り暮らしをしています。
「一緒に住みたいけど、まずは家族を養えるお金を稼がないといけない」
愛妻と息子とは毎日、テレビ電話で会話していると言う増田。同居を実現させるには、もっともっとスタメン出場を増やさなければいけませんが、巨人の二塁手争いは、若林・山本・田中俊とライバルも多く、熾烈を極めています。くしくもこの3人と増田は、同じ93年生まれ。
「いいライバルもいっぱいいる。切磋琢磨して、負けないように一緒に頑張って行きたい」
シーズン終盤に、こういう伏兵が活躍するのも巨人の強さの秘密です。2位・DeNAとの差は5ゲーム。残り33試合、ラストスパートをかける巨人にとって、韋駄天・増田の足は大きな武器になりそうです。