巨人・菅野 細心の注意を払ったのは立ち上がり
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、7月2日の中日戦で今季初完封を飾って復調をアピールした、巨人・菅野智之投手のエピソードを取り上げる。
「ひとりの力だけじゃ完封できない。達成感という忘れかけたものを味わえた」
2日に東京ドームで行われた巨人-中日戦。巨人は交流戦明け、秋田でヤクルトに2連勝し順調なスタートを切りましたが、対する中日も、交流戦最後の日本ハム戦に3連勝→阪神に2連勝。5連勝と勢いに乗って、東京ドームへ乗り込んで来ました。
ここで敗れると、せっかく「10」に乗せた貯金が、また1ケタに戻ってしまいます。この大事な試合、原監督がマウンドを託したのは、エース・菅野でした。
菅野は前回、交流戦ラストゲームのソフトバンク戦(6月23日)に先発。勝った方が交流戦優勝という大一番でしたが、初回、福田にいきなり先頭打者アーチを食らうなど4失点。プロ最短の1回0/3で降板し、チームも交流戦Vを逃してしまいました。
大事な1戦で、しっかり相手打線を抑えてこそエース。菅野にとっては、それが果たせなかっただけでなく、序盤早々のKOでリリーフ陣にも負担をかけ、日本シリーズでまた対戦する可能性があるソフトバンク打線に、いいように打たれてしまった……非常に悔いの残るゲームになりました。
この菅野らしくないピッチングについては、5月中旬に違和感を感じ、一時ローテーションを外れる原因となった腰の状態が、まだ完全に回復していないのでは? という見方もあります。
本来の菅野は、力のある真っ直ぐと、キレのあるスライダーを主体に、抜群の制球力で仕留めるタイプのピッチャーですが、今年(2019年)の菅野は、真っ直ぐが思うように走らず、スライダーのキレももう一つ。
そんな状態でも交流戦終了までに7勝を挙げたのは、さすがエースですが、本人としては不本意なピッチングが続いていたのです。
中8日と、しっかり間隔を開けて臨んだ中日戦。今度こそエースとしての責任を全うすべく、菅野は必勝を期してマウンドに上がりました。
今回、菅野が細心の注意を払ったのは立ち上がりです。菅野は今季、交流戦終了まで12試合に登板しましたが、うち、初回を3者凡退で終えたのはわずか2試合だけ。イニング別の失点を見ても、初回での失点がいちばん多く、まさに“鬼門”になっていました。
どんなピッチングを見せるのか注目でしたが、まずは1番・平田を、高めの真っ直ぐで空振り三振に仕留めると、2番・京田は真っ直ぐでセカンドライナー、3番・大島はカットボールでファーストライナーに打ち取り、今季3度目の「初回3者凡退」で切り抜け、無事に課題をクリアしました。
「3人で終われたので、良いリズムで試合をつくることができました」
菅野の「何としても勝ちたい」という思いに応えようと、打線も奮起します。1回ウラ、中日先発・清水から、1番・亀井が先頭打者アーチを放つと、二死満塁からビヤヌエバの押し出し死球で2点を先制。
2回には、菅野自身がヒットで出塁すると、丸の内野ゴロの間に自らホームを踏み、さらに4回、ビヤヌエバがソロアーチで加点。7回には中日・岡田に、坂本・丸が2者連続ホームランを浴びせてダメ押ししました。
6点のリードをもらった菅野は、大事をとって8回、打順が回ったところで代打が出て降板……かと思いきや、そのままバットを持って打席に立ちました。原監督によると「宮本投手コーチに任せた」そうですが、もちろんこれも菅野自身の意思でしょう。
こうなれば、目指すは完封。9回、中日はクリーンアップからの攻撃でした。
菅野は大島・ビシエドを凡打に仕留めた後、首位打者・高橋にヒットを打たれましたが、続く代打・堂上の右翼フェンスを襲う当たりを、守備固めでライトに入っていた陽がスーパーキャッチ! その瞬間、菅野は右腕を高々と上げて、喜びをあらわにしました。
「味方のいい守備があったので、最後まで投げ切ることができました」
真価を問われるゲームを、今季初完封という最高の形で締め8勝目。最多勝争いでもリーグトップに並び、チームも3連勝。貯金を11に伸ばし、この日ヤクルトに敗れた2位・広島に4ゲーム差をつける、大きな白星となりました。
原監督も「きょうはつま先から指先までロスのないパワーというかね。いい1歩を踏み出した」とエース復活にご満悦。ただしペナントレースは試合数で言うと、ちょうど折り返し点に達したところ。まだまだ気を抜くわけには行きません。菅野本人も、すでに次を見据えています。
「まだ1試合だけ。もっともっと取り返せるようにしないと」
次戦は、中5日で8日の阪神戦(甲子園)に登板予定の菅野。これが前半戦の最終登板になりますが、エース復活が本物かどうか、後半戦を占う意味でも、注目のマウンドになりそうです。