原監督が菅野の女房役を小林から炭谷に変えた理由
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、6月12・13日の西武戦で、古巣相手に連夜の活躍を見せた巨人・炭谷銀仁朗選手のエピソードを取り上げる。
「いいところを見せることができて、よかったと思います」
6月13日、メットライフドームで行われた西武との交流戦で、1点リードの4回、試合を決める貴重な3号3ランを放った炭谷。西武ファンが見ているなか、昨季までの本拠地でヒーローインタビューを受けましたが、野球界ではこれを“恩返し”と言います。
この西武戦、炭谷が打席に立つたびに、西武ファンからも温かい拍手が起こっていましたが、インタビューで古巣を相手に戦った心境を聞かれ、噛みしめるように答えたのが冒頭の一言。このときも、スタンドから拍手が贈られました。
炭谷は前日・12日も、1点を追う4回、昨年(2018年)までバッテリーを組んでいた同学年の十亀から、センター前に逆転の2点タイムリーを放っています。古巣との対決を前に、
「『銀仁朗にやられた』と言われる活躍をしたい」
と宣言していましたが、まさに有言実行の活躍を見せました。
森友哉の急成長で出番を奪われ、昨年オフ、出場機会を求めて巨人へFA移籍した炭谷。巨人は、3年総額6億円を提示。しかも人的補償で元エース・内海を放出したとあって、開幕から正捕手としての活躍が期待されていましたが、開幕戦で先発マスクをかぶったのは、5年連続で小林でした。
原監督は、オープン戦で菅野と炭谷を2度組ませています。しかし防御率10.50と打ち込まれてしまい、一方、小林は菅野と3度バッテリーを組んで防御率0.75。原監督も、当初の方針を変更せざるを得ませんでした。
「捕手は投手との相性? 智之(=菅野)と小林に関しては、確かにそのことは言えるのではないかと。あえてそこは否定するつもりはありません」
炭谷を開幕戦で起用しなかったのは「菅野との相性」と率直に答えた原監督。結果がすべての世界とはいえ、エースと組ませてもらえなかった炭谷にしてみれば、これほど悔しいことはありません。
結局今季は、炭谷と小林を併用する形になりましたが、5月まで菅野が投げた8試合は、すべて小林がマスクをかぶって来ました。ところが、菅野が腰痛で離脱後、1軍に復帰した9日のロッテ戦で、原監督が先発起用したのは炭谷だったのです。
1つの理由は、交流戦ではパの打者を熟知している炭谷のほうがベターということもありますが、もう1つ、大きな理由がありました。原監督は、エースの復帰戦を前に、炭谷を呼んでこう告げました。
「智之(=菅野)の景色を変えてやってくれ」
長年、西武の正捕手として培って来たそのリードで、菅野の新たな引き出しを開けてやってほしい……指揮官のそんな願いを受けて、炭谷は、菅野が持つすべての球種を効果的に散りばめ、ロッテ打線に的を絞らせませんでした。
菅野は6回を投げ、3安打2失点。復帰初戦を白星で飾りましたが、その陰には、炭谷の好リードがあったことも忘れてはいけません。
試合後、炭谷起用について聞かれた原監督は、こう答えました。
「最善策です。小林もリード面において勉強しています。しかし、銀ちゃん(=炭谷)の方が1枚、2枚まで言わないけれど、1枚半上回っている」
前日・12日は、桜井を強気のリードで引っ張り、3勝目に導くなど、若手育成にもひと役買っている炭谷。「このままでは、完全に控えに回されてしまう」と小林も発奮するでしょう。それが、競争原理を掲げる原監督のもう1つの狙いでもあるのです。
菅野の次回登板は、中6日で16日の日本ハム戦になる見込みですが、おそらくまたバッテリーを組むことになるであろう炭谷。13日、パ・リーグ首位に立った日本ハムを相手に、炭谷が今度はエースのどんな引き出しを開けてくれるのか? 勝負の行方とともに、そのリードにも注目です。