山下美夢有の年間女王達成でますます楽しみな、ときを超えた「ジャンボ尾崎vs中嶋常幸」門下生たちの戦い

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、2022年の女子ゴルフ年間女王に輝いた21歳、山下美夢有にまつわるエピソードを紹介する。

【女子ゴルフ『伊藤園レディスゴルフトーナメント』最終日】フォトセッションにおさまる優勝の山下美夢有=2022年11月13日 千葉県長生郡長南町のグレートアイランド倶楽部 写真提供:産経新聞社

まさに歴史的な女王戴冠。昨季までの賞金額で争う方式から「ポイント制」のメルセデス・ランキングで女王を争ってきた国内女子ゴルフ。その2022年女王に21歳、山下美夢有が輝きました。

伊藤園レディス最終日。2打差の2位でスタートした山下美夢有は、単独首位だった上田桃子らがスコアを落とすなか、我慢のゴルフを続けて1バーディー、ノーボギー。通算12アンダーで逆転優勝を果たし、今季4勝目。あと2戦を残しながら、初の年間女王を確定させたのです。

今大会の優勝で、今季の獲得賞金は2億円を突破(※2億327万967円)。1年間での2億円突破は日本人では初の快挙です(※年度がまたがった20-21シーズンは稲見萌寧ら3人が2億円を超えたが、単年での達成は2015年のイ・ボミに次ぐ2人目)。

また、身長150センチは歴代女王で最も低身長(※これまで最も身長が低かったのは横峯さくらと鈴木愛の155センチ)。そして、21歳103日での女王は2007年上田桃子の21歳156日を53日更新する史上最年少。今大会はその上田桃子と競い合っての優勝、というのも運命的です。

そんな山下が優勝インタビューで口にしたのは、家族への感謝の言葉でした。

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『調子が悪い時もいい時も、家族が変わらずにサポートしてくれた。弟、妹がいても私中心で動いてくれ、迷惑をかけたなぁと思う。心から感謝しています』

~JLPGA公式サイト 2022年11月13日掲載記事 より

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山下といえばゴルフを始めた5歳のときから、父・勝臣さんとの二人三脚で腕を磨いてきた「父子鷹」として有名です。

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『父が考案した独自練習法も山下を強くした。ダンベル代わりに水が入った25リットルのポリタンクを持ち上げ、筋力アップとともにバランス感覚を養った。他にも腕力を鍛えるために10メートルのロープを波を打つように振ったりした』

~『スポーツ報知』2022年11月13日配信記事 より

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ゴルフ未経験だった父が考案した独自練習で日々トレーニング。ボクシングの亀田親子を彷彿とさせるものがあります。

プロになってからも“専属コーチ”として父に絶大な信頼を寄せてきた山下。だからこそ今年(2022)5月、初の国内メジャー制覇をした際のスピーチでもこんな言葉を残しました。

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『父は私と弟、妹のためにとにかく一生懸命で、いろんなことを考えてサポートしてくれます。私のクセも全部分かっているので、見てくれたらすぐに修正ができます。(父がコーチの)スタイルは変えるつもりはありません』

~『THE ANSWER』2022年5月9日配信記事 より

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ただ、今季の快進撃の要因には、もう1人の“恩師”の存在もありました。昨年(2021年)から、通算48勝のレジェンド・中嶋常幸にも直接指導を受けるようになったのです。

それまで、身長150センチでドライバー飛距離が出せない弱点を抱えていた山下は、シーズンオフになると弱点を克服しようとアイアンショットの練習に集中していたと言います。そんなとき、中嶋から「アプローチを練習した方がいい」とアドバイスをもらったことが転機になったのです。

実際、今季の平均飛距離は全体52位でありながら、パーオン率とパーセーブ率は2位。平均バーディー数は1位という好成績(※11月13日時点)を弾き出しています。

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『グリーンを外しても狙っていける。ショットが曲がっても、それをどうカバーするかが大事。中嶋プロに言われてから練習方法が変わった。本当によかった』

~『THE ANSWER』2021年4月19日配信記事 より(山下美夢有の言葉)

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中嶋・山下の師弟コンビによる女王誕生で楽しみなのは、来季以降の「中嶋常幸門下生vs.ジャンボ尾崎門下生」という構図です。かつて日本のゴルフ界を牽引した2人の門下生たちがいま、女子ゴルフ界を牽引しているのです。

山下は、18歳以上なら高校生でも受験可能となった2019年のプロテストで、同学年の笹生優花、西郷真央とともに合格。“高校生プロ”として話題になったこの3人は2001年生まれであることから「新世紀世代」と呼ばれています。

そしてこの3人のうち、笹生と西郷はジャンボ尾崎に師事。一方、山下は中嶋に師事。この他にも、ジャンボ尾崎門下生には国内ツアー4勝の原英莉花、中嶋門下生といえば国内ツアー4勝&アメリカツアー6勝の畑岡奈紗らトッププロの名がズラリ。今季、年間女王の座を最後まで山下と西郷が争ったように、ときを超えた「尾崎vs中嶋」対決とばかりに門下生たちがしのぎを削っている状況です。

もっとも、教えている側のジャンボ尾崎と中嶋常幸は、頑張るのはあくまでも選手たちと、それぞれが個々の強みを発揮することを望んでいます。

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『教えることは選手にとって10分の1とか、20分の1程度。あとは自分でつくっていかなければいけない。それが個性、自分のもの。ただケツを叩いて“頑張らんかい”というのが俺のレッスン』

~『スポニチアネックス』2021年3月17日配信記事 より(ジャンボ尾崎の言葉)

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『俺たちが教えているのはほんのかけら。手取り足取り教えるよりも一瞬の言葉がひらめきにつながる。先に進める力になるものをひとかけらでも与えられたら十分』

~『スポニチアネックス』2021年3月17日配信記事 より(中嶋常幸の言葉)

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ルーキーが次々と初勝利を飾ったり、史上最年少の女王が誕生したりと、まさに「新時代」「新世紀の力」が躍動している女子ゴルフ界。その奥にある「昭和生まれの師匠たち」の存在もあわせて読み取っていくと、ますます奥深い世界になりそうです。

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