山口へ契約時にポスティングの権利認めていた~今後の巨人に与える影響

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、ポスティングシステムによる米メジャーリーグ(MLB)移籍を目指す3選手、筒香嘉智選手(DeNA)・菊池涼介選手(広島)・山口俊投手(巨人)にまつわるエピソードを取り上げる。

山口へ契約時にポスティングの権利認めていた~今後の巨人に与える影響

【プロ野球巨人 会見】ポスティングでのMLB挑戦を表明した山口俊(中央)は原辰徳監督(左)と今村司球団社長に囲まれ笑顔を見せる=2019年11月18日 東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

MLBは19日(日本時間)、ポスティングシステムを利用しメジャー移籍を目指すDeNA・筒香について、全30球団に「契約可能選手として通知した」と発表しました。メジャー球団との交渉は、20日午後10時(日本時間)に解禁となります。

現在、メジャーでFAになった外野手のうち、今季(2019年)30本塁打以上を記録した選手は誰もいないため、「強打の外野手」を求めるチームにとって、一発のある筒香は魅力的な存在です。米メディアによると、筒香に興味を示す球団はレイズ、インディアンス、ホワイトソックスをはじめ10球団前後ある模様です。

実際に筒香獲得の動きが本格化するのは、メジャーの有力FA選手の行き先が決まってからになりそうですが、交渉の山場になるのが、12月10日~13日(日本時間)にサンディエゴで行われる恒例の「ウィンターミーティング」です。

MLB30球団と、マイナーリーグ全球団のGM・運営関係者が一堂に会するこのウィンターミーティング。オーナー会議と、運営会議、去就が決まっていない選手についての話し合いなどが行われ、オフのストーブリーグを動かす重大イベントですが、選手の代理人たちもその場に出向き、大詰めの交渉を行う場でもあります。

筒香の代理人を務めるジョエル・ウルフ氏は、外野以外に一塁や三塁も守れることを強調。「ウインターミーティングまでに、移籍先を選ぶか、DeNAに戻るかを決められる」と話しており、交渉が順調に行けば、12月半ばには移籍先が決まりそうです。筒香本人は、地域に希望はなく、出場機会を重視しているとのこと。

なお、2018年オフからスタートした現行のポスティングシステムでは、選手を獲得する球団は、12月20日午前7時(日本時間)までに契約をまとめ、日本の球団に譲渡金を支払うことになっています。その譲渡金の額については少し複雑なので、詳細は省きますが、契約金総額2500万ドル(約27億5000万円)までは20%、それ以上の額は17.5%というように、細かく段階的に決められています。

DeNAは、移籍交渉がまとまれば、おそらく数億円になるこの譲渡金を手にできますが、海外FA権を行使して移籍を目指す西武・秋山翔吾の場合、この譲渡金はかかりませんので、西武は無償で放出、という形になります。

また、筒香と同様にポスティング移籍を認められた広島・菊池涼介も、ファインプレーを当たり前のように連発している守備力の高さは、メジャーでも広く知れ渡っています。

11月中旬に行われたGM会議では、今季(2019年)ワールドシリーズ王者となったナショナルズのGMも、菊池について「才能がある面白い選手だ」と関心を示していたそうで、またブルージェイズは筒香と菊池、両方に興味を示していたと伝えられています。

もしかすると、2人がチームメイトになる可能性もあるかもしれません。

また18日、ポスティングによるメジャー移籍を目指すと表明した巨人・山口俊の会見も、日本球界に大きな波紋を投げかけました。

山口は前日17日、プレミア12決勝・韓国戦に先発した直後で、まさに電撃的な会見でした。驚いたのは、これまで一貫して「ポスティングによる移籍は断固として認めない」「メジャーに行きたいなら、海外FA権を取ってから」という姿勢を取っていた巨人が一転、ポスティング移籍容認に転じたことです。

会見に同席した今村司球団社長によると、2016年オフ、山口がDeNAから巨人へFA移籍した際の交渉で「(当時の交渉担当者が)時期を確定しない形で、ポスティングができる権利を認めました。その契約を受け継いで履行しているのが現状です」。

前体制が交わしたこの「約束」について、原監督は「シーズン途中に、私も知りまして」と寝耳に水だったことを明らかにしました。山口を今後も先発の柱に、と考えていた原監督は、本人と何度か話し合い、残留を要請しましたが、結局「『夢』という言葉に対しては、何人(なんびと)も立ち入ることはできない」と、山口の意思を尊重する形になりました。

山口については、米CBSスポーツが「獲得に興味を示しそうな球団」として、大谷翔平のいるエンゼルス、菊池雄星のいるマリナーズのほか、ダイヤモンドバックス、ホワイトソックスなど西海岸の球団を中心に、6球団を挙げています。

過去、巨人からMLBに移籍した主力選手というと、松井秀喜・上原浩治がいますが、2人はいずれも海外FA権を行使しての移籍。ポスティングでの移籍が実現すれば、山口が初のケースになります。

ただし今村社長は、山口が今季投手3冠(最多勝・最多奪三振・最高勝率)に輝き、リーグ優勝に貢献したことをふまえての「特例」であることを強調。

「私が大事だと思うのは、世間的に後押しがあるのかどうか。ファンの声はけっこう大きい。新入団のときに(将来の)ポスティングが条件、というのはおかしいと思う」と語り、今後入団する選手に関しては、これまでの姿勢を崩さない方針のようです。

ただし「功労者なら認める」となると、かねてからメジャー志向を公言しているエース・菅野智之(海外FA権行使は、早くて2年後の2021年オフ)が来季に好成績を残し、前倒しでのメジャー移籍を希望した場合、認めざるを得ないのでは、という見方もあります。

またドラフトの際、「海外FA権を獲るまでメジャーに行けないなら、巨人には行かない」というアマ選手も出て来るかもしれません。

ファンの間からは、今オフ、FA選手の獲得に失敗したことも相まって「もっと若手の育成に力を入れるべき」という意見も挙がっています。いずれにせよ山口の決断は、今後の巨人の補強戦略にも大きな影響を及ぼしそうです。

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