MLB移籍表明の秋山・筒香~メジャーへの構想はいつからあったのか
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、10月29日にメジャーリーグ移籍を正式に表明した、西武・秋山翔吾選手、DeNA・筒香嘉智選手にまつわるエピソードを取り上げる。
「国際大会や、侍ジャパンなどで高いレベルのメンバーとやって行くうちに、自分の力がどれくらいメジャーという厳しい世界でやれるか知りたい、その場所で活躍したいという思いが強くなりました」(秋山)
「プロに入る前から、小さいころからの夢だったメジャーリーグ挑戦は、僕のなかにずっとあり、そこで勝負をしたいと決断しました」(筒香)
29日、日本球界を代表するスラッガー2人が相次いで米メジャーリーグ挑戦を表明しました。まずは、西武・秋山翔吾(31)です。かねてからメジャーへの憧れを口にしていた秋山ですが、8月に海外FA権を取得。28日に権利行使を球団に伝え、書類を提出したと話しました。
秋山は2015年、日本プロ野球新記録となるシーズン216安打を樹立するなど、安打製造器として活躍。入団当初は、同じ苗字の大先輩、元西武・秋山幸二に憧れ、トリプルスリー(3割・30本塁打・30盗塁)を目指した秋山。
しかし、一発への欲を捨て、ヒットを打つことに専念した結果が、日本記録樹立につながったのです。今季(2019年)は3年連続最多安打、5年連続フルイニング出場を果たし、リーグ連覇に貢献しました。
走攻守揃っている上にタフな秋山にはメジャーも注目しており、今季は本拠地・メットライフドームに、スカウトら関係者がたびたび視察に訪れていましたが、オフは争奪戦が展開されそうです。
メジャー移籍が実現すれば、昨年(2018年)まで同僚だったマリナーズ・菊池雄星、同じ1988年生まれのヤンキース・田中将大、ドジャース・前田健太との対決も楽しみです。
秋山がメジャーを目指すきっかけになったのは、国際大会での経験が大きかったようです。2015年オフ、第1回プレミア12、2017年、第4回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に侍ジャパンのメンバーとして出場。
昨年オフの日米野球では6試合に出場し、打率.350、7打点をマークする活躍を見せました。海外の投手たちと対戦して行くうちに「もっと自分の力を試してみたい」という思いが日増しに強くなり、今回の決断になりました。
秋山は、11月から開幕する「第2回プレミア12」にも出場予定で、現在、侍ジャパンの合宿に参加中です。練習試合などがあったため、発表を少し遅らせ、チームに迷惑の掛からないタイミングでのメジャー挑戦表明となりました。
今回の大会は、秋山獲得を狙うメジャー球団への格好のアピールの場になりますが、本人が目指すのはあくまで「世界一」です。
ただし、メジャーに行くとなれば、侍ジャパンの大目標である2020年の東京オリンピック出場は難しくなります。メジャーを目指す自分が、五輪の前哨戦という位置付けの「プレミア12」に参加することに躊躇もあったようですが、稲葉監督と話し合い、出場を決断しました。
「稲葉監督に『それでもチームに必要だ』と言ってもらったことに意義を感じて(代表に)来させてもらった。自分のやることを尽くして、このメンバーで世界一を目指したい」
一方、「プレミア12」には出場しませんが、2017年の第4回WBCでは、侍ジャパンの4番として活躍したDeNAの主砲・筒香も、29日に横浜市内のホテルで記者会見。今オフ、正式にメジャー移籍を目指すと表明しました。
筒香は海外FA権を取得していませんが、球団がポスティングによる移籍を容認。今後、獲得希望球団による入札が行われ、代理人を通じた交渉の末、移籍先が決まることになります。
2016年、44本塁打を放ち、初のホームランキングに輝いた筒香。本塁打へのこだわりは、憧れのバリー・ボンズ(サンフランシスコ・ジャイアンツ)の影響です。
筒香の著書『空に向かってかっ飛ばせ!未来のアスリートたちへ』(文藝春秋)によると、2001年、当時まだ9歳だった筒香少年は、その年、メジャー新記録のシーズン73本塁打を放ったボンズに魅了され、学校から帰ると、兄が録画してくれたメジャー中継のビデオを、毎日擦りきれるぐらい観ていたそうです。
小学校で、教室の壁に自分の目標を張り出すことになったときも、「バリー・ボンズになる」と書いたという筒香。「いつかメジャーの舞台で、ボンズのようにすごいホームランをかっ飛ばしたい」……それが野球少年・筒香嘉智の原動力となり、WBCで4番を打ったことで、さらにその思いは強くなったのです。
ただし、筒香のようなパワーヒッターの外野手はゴロゴロいるメジャーリーグ。また日本人選手がホームランで勝負するのは、かなり険しい道のりです。あの松井秀喜ですら、メジャーではヤンキース移籍2年目、2004年に記録した31本がシーズン最多で、以降は30発を1度も超えられずに終わりました。
第4回WBC準決勝・米国戦でも、打った瞬間「行った!」と思った打球が思いのほか伸びず、ライトフライに終わったシーンがありましたが、会見でそのことを聞かれ、
「あのときは、映像を見るといいスイングに見えますが、ただ単純に芯に当たっていなかったのでライトフライになったというだけですね」
と、決して力負けでないことを強調。毎年毎年、フォームを変えるなど試行錯誤を重ね、常にバッティングを進化させて来た筒香は、あくまで「パワーヒッター」としてメジャーを目指します。
秋山と違って、獲得するためにはDeNAへの譲渡金支払いも発生しますが、それでも長打力不足に悩む球団からのオファーが予想され、こちらも争奪戦が展開されるかもしれません。
秋山・筒香が、どの球団に移籍するかはまだわかりませんが、メジャーで活躍する日本人選手は投手ばかりになっている昨今、個性的な野手2人が活躍してくれることを大いに期待したいところです。