侍ジャパン・鈴木の考えを変えた丸のアドバイス
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、野球の国際大会・プレミア12でMVPに輝き、日本を10年ぶりの世界一に導いた侍ジャパンの主砲・鈴木誠也選手(広島)にまつわるエピソードを取り上げる。
「いや、もうホントに疲れたんですけど、勝ててよかった。自分の結果ではなく、チームの優勝だけを心に刻んでやっていた。皆さんのおかげで、こういういい仕事ができてよかったです」(鈴木)
17日に東京ドームで行われた、「プレミア12」決勝・日本-韓国戦。野球日本代表・侍ジャパンが韓国を逆転で破り、大会初優勝を飾りました。野球日本代表が国際大会で“世界一”に輝いたのは、2009年の第2回WBCで優勝して以来、実に10年ぶりのこと。
MVPに選ばれたのは、8試合すべて4番を務めた、広島・鈴木誠也でした。25歳でのMVP受賞は、プレミア12・WBCを通じて史上最年少です。
プレミア12開幕前、鈴木は自身のブログに、こんな意気込みを綴っていました。
「全国の野球ファン、野球少年の夢を心に、日本代表侍ジャパンの一員として、頂点目指し全力で戦ってきます。皆さんも全力応援で力をください」
稲葉監督に侍の4番を任された今大会は、8試合すべて安打をマーク。12日の米国戦を除く7試合で打点を挙げ、大会トータルの成績は、打率.444(27打数12安打)、3本塁打、13打点、9得点。4部門をすべてトップの数字で終え、大会ベストナインにも選ばれました。
17日の決勝・韓国戦。先発・山口俊(巨人)が初回にホームラン2発を浴び、いきなり3失点という苦しい展開に。
直後の1回ウラ、2番・坂本勇(巨人)が四球で出塁。2死一塁で4番・鈴木に最初の打席が回って来ました。鈴木は、韓国先発ヤン・ヒョンジョンの4球目、内角の真っ直ぐを叩くと、打球は左翼フェンスを直撃! この間に、坂本が一塁から長駆生還。タイムリー二塁打で侍は1点を返しました。
鈴木が初回にすかさず反撃のノロシを上げたことが、2回、山田哲人(ヤクルト)の逆転3ランにつながったのです。
鈴木が理想とする4番像は「チームが打ってほしいところで打つ、それが4番」。
今大会、鈴木は、侍ジャパンの4番としては史上初となる3試合連続アーチを放つなど大活躍。さらに4戦連続打点を挙げ、勝利に直結する一打を毎試合放って来たのです。
広島でも、チームのための打撃に徹していた鈴木。より「フォア・ザ・チーム」を意識するようになったのは、打線の精神的主柱だった新井が引退。3番・丸がFA移籍で抜けた今季(2019年)からでした。
相手バッテリーは4番・鈴木に集中できるようになり、厳しいコースを突かれるようになりましたが、鈴木の特筆すべき能力は、どんな状況にもアジャストできる「適応力」です。
「最初のころは、自分が打たないと……という意識が強くて、ボール球に手を出したりした。それをすぐに切り替えられたのがよかった」(首位打者確定時のコメント)
考えを変えてくれたのは、丸でした。「まず、塁に出ることを考えろ」。
大切なのは、つなぐ意識に徹すること。相手が真っ向勝負して来ない場合は、無理に打ちに行っても相手の思うツボ。冷静に四球を選ぶことも大切だと、鈴木に説いたのです。
その結果、四球は昨年(2018年)の88個から自己最多の103個に増え、打率も上昇。.335のハイアベレージで、自身初となる首位打者のタイトルを獲得したのです。
ただ、首位打者よりも鈴木がこだわったのは「最高出塁率」のタイトルでした。こちらもリーグトップの.453をマークし、2冠に輝いた鈴木。
「打撃には波があるし、状態が悪くても四球で出塁すれば、得点チャンスは増える。出塁率はチームに貢献できる数字なので、(数字を上げるよう)意識してやっていました」
しかし、チームはリーグ4連覇を逃し、しかも自力でAクラスを決められず、終盤、阪神に逆転され4位に転落。クライマックスシリーズ(CS)進出を逃し、主砲としては悔やまれるシーズンになりました。
「(2冠を獲って)もう少し嬉しいかな……と思ったけど、チームがこういう状況なので微妙ですね」
個人タイトルよりも、チームの勝利が優先……それが鈴木の信条。
レギュラーシーズンが不完全燃焼で終わっただけに、プレミア12では誰より「フォア・ザ・チーム」にこだわり、台湾ラウンドでは、不慣れな環境にもいち早く順応。日本に戻っても好調を維持し、チームの勝利につながる一打を放ち続けたのです。
そしてこの世界一は、侍ジャパンにとって、まだゴールではありません。来年(2020年)の東京五輪で金メダルを獲得すること。MVP受賞の際、五輪について聞かれた鈴木は、こう答えました。
「まだたくさんいい選手がいますし、4番を打つかどうかはわからないですけど、どこのポジションでも自分のやることは変わらない。とにかく優勝できるように、また次の大会も頑張ります」
2020年は、五輪金メダルと、V奪還。そしてまだ味わっていない日本一……次なる目標に向けて、鈴木の進化はこれからも続きます。