楽天・則本、巨人・坂本 メジャー行きより“国内残留”を選んだ理由

By -  公開:  更新:

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、12月中に契約を更改。メジャー行きを封印し、所属球団への残留を決めた楽天・則本昂大投手と、巨人・坂本勇人選手にまつわるエピソードを取り上げる。

楽天・則本、巨人・坂本 メジャー行きより“国内残留”を選んだ理由

【プロ野球巨人 契約更改】契約更改後、会見を行った巨人・坂本勇人。「日本一」のメッセージが書かれたボールを手に、笑顔でカメラマンのリクエストに応えた=2019年12月7日 東京・大手町 写真提供:共同通信社

「(長期の複数年契約は)これからの選手にとって、新たな選択肢になるかな、やってみたら面白いんじゃないかな、と思った」

12日、楽天・則本昂大が、仙台市内の球団事務所で契約更改交渉に臨み、現状維持の3億円でサインしました。

7年目の今シーズン(2019年)は、右ヒジの不調から3月にクリーニング手術を受け、開幕からしばらく戦線を離脱。12試合登板で5勝5敗という成績でした。プロ1年目(2013年)から続けてきた「6年連続2ケタ勝利」が途切れただけでなく、2年目(2014年)から継続中だった「5年連続最多奪三振」もストップ。

単年契約なら当然ダウンとなるところ、現状維持だったのは、今年3月に「3億円+出来高払いの7年契約」という総額20億円超の長期契約を結んでいたためです。昨年(2018年)オフ、年俸2億5000万円でいったん更改しながら、開幕直前に契約を結び直し、そのことを1軍復帰直前の7月に明らかにした則本。

「6年後にまだ僕がバリバリ1番目、2番目で投げているようじゃ、このチームもダメ。僕を脅かすような選手が出て来ないと」

と更改後の会見で語りました。則本は現在28歳。6年後も楽天にいるということは、事実上「生涯イーグルス」宣言でもあります。

則本はかつてメジャー志向を公言。前の契約では、今年のオフ、ポスティングを使ったメジャー移籍について話し合う条項も盛り込まれていましたが、長期契約を結んだことでこれも消滅。将来取得する海外FA権を、球団が先に買い取った形になります。

則本が球団のオファーに応じ、メジャー行きを「封印」した背景には、1年目に味わった日本一をもう1度体験したいという思いと、もう1つ、来年(2020年)の東京五輪出場という大きな目標があるのです。

「自国開催の年に現役でいられるなんて、まさに奇跡。どうしても出場したい」

もしメジャーに行ってしまうと、五輪出場は難しくなります。2014年の日米野球、2015年の第1回プレミア12、2017年の第4回WBCに日本代表の一員として出場。国際経験も豊富な則本だけに、東京五輪で金メダルを獲りたいという思いが、メジャーへの思いを上回ったということでしょう。

また、日本のスター選手が次々と海を渡る現状に対し、「国内で野球を究める道もあるよ」という新たな選択肢を提示してみせた則本。

過去にメジャー移籍した日本人選手を見ていると、環境が大きく変わることで対応に追われ、成績が残せず、いちばん脂が乗った時期を無駄にしてしまうケースも見受けられます。

だったら慣れ親しんだ日本でずっとプレーした方が、結果的に自分にとっても、チームにとっても、ファンにとってもよいのではないか……という考えは、確かに一理あります。

則本と同様の考え方で、メジャーには行かず「生涯巨人」を宣言したのが、12月6日に契約を更改した巨人の主将・坂本勇人です。

今季は自己最多の40本塁打を放ち、5年ぶりのリーグ制覇に貢献、セMVPに輝いた坂本。今季年俸は5億円で、更改前は「NPB初の日本人7億円プレーヤー誕生か?」と注目されていましたが、フタを開けてみると、来季年俸は「現状維持」の5億円でした。

坂本は会見で、実は昨年オフ、巨人と5年の複数年契約を結んでいたことを公表。その契約内容とは、3年目(2021年)までは固定の年俸5億円、4年目(2022年)以降は変動制というものでした。契約満了の2023年、坂本は35歳になります。

「ジャイアンツで、最後までプレーしたい気持ちを持っています」

と会見ではっきり宣言した坂本。決断の理由には、やはり「五輪」もありました。

「現役の間に東京で五輪が行われて、野球が復活して……という、すごいタイミング。行われると決まってから、ずっと出たいと思っていたし、最高の瞬間に現役の選手でいられるのは、すごくありがたいです」

WBCには2度(2013年・2017年)、プレミア12にも2度(2015年・2019年)出場している坂本ですが、オリンピックにはまだ出場した経験がありません。今年はプレミア12で、自身初の国際大会金メダルを獲得。やはり則本同様、東京五輪での金メダルは絶対に欲しい勲章であり、侍ジャパン・稲葉篤紀監督も「侍のキーマンは坂本」とよく口にしています。

坂本と言えば、田中将大(ヤンキース)・前田健太(ドジャース)と同じ88年生まれ。同い年の仲間と同じく、メジャーを夢見た時期もありましたが、環境が変わるなか、ショートという難しいポジションで成功するのは並大抵のことではありません。

かつて「日本人ナンバー1ショート」と呼ばれ、鳴り物入りでメジャー入りした松井稼頭央(元西武)ですら、実力を発揮できたとは言いがたいメジャーの舞台。そこで果たして自分が納得の行く成績を挙げられるだろうか? ならば巨人で選手生命を全うしよう、というのも、これまた1つの考え方です。

また坂本は、今季終了時点で通算安打数が1884本に達し、2000安打にあと116本となりました。12月14日に31歳の誕生日を迎えますが、来季、伝説の安打製造機・榎本喜八が持つ31歳7ヵ月の最年少記録を抜く可能性も十分にあります。さらにその先には、張本勲が持つ不滅の金字塔・通算3085安打の更新も……。

何年か先、坂本が張本の記録に近付き、カウントダウンが始まれば大いに盛り上がることは間違いありません。そういったことをきっかけに、野球少年が増えてくれれば、という思いもあっての「生涯巨人」宣言。

アスリートとしての高みを、どんな環境で目指すかは選手次第であり、それは自分が伸び伸びとプレーできる環境がいちばん。国内か海外かは、そもそも関係ないのです。

Page top