話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、ロッテから楽天にFA移籍、11月27日に楽天入団会見を行った鈴木大地選手にまつわるエピソードを取り上げる。
「遠慮してやるのは違う。チームのみなさんと足並みをそろえながら、自分の思いも出しつつ一緒にやって行ければ」(鈴木)
27日、楽天生命パークで、楽天への入団会見を行った鈴木大地。このオフにFA宣言を行い、残留を望むロッテと、楽天・巨人が争奪戦を展開していましたが、悩んだ末に本人が選んだのは、同じパ・リーグの楽天でした。
4年で総額約7億円の大型契約を結んだ鈴木は、ロッテ時代と同じ背番号「7」も披露。今季はルーキー・辰己がつけていた番号ですが、辰己が「8」への変更を快諾。来季(2020年)も「7」でプレーすることになりました。
会見では、同席した石井GMが、鈴木をチームの「司令塔」に指名する一幕も。
2014年から4年間キャプテンを務め、今季から選手会長に就任するなど、まさにロッテの顔だった鈴木。2年目の2013年から今季(2019年)までほぼ全試合に出場し、7年連続で規定打席に到達。不動のレギュラーとして活躍して来ました。
また今季は、セカンド・サード・ショートに加え、主にファーストを守ってレギュラーの座を奪い返し、交流戦ではレフトを守るなど、チーム事情に応じてどのポジションでも担当。いずれも自己最高となる打率・288、68打点、15本塁打をマークしてみせました。
楽天・石井GMはこのユーティリティープレーヤーぶりと、野球に取り組む姿勢、統率力を高く評価。楽天・石井GMが再三ラブコールを送り、移籍が実現しました。
石井GMがもう1つ評価しているのは、鈴木が「ファンとの一体感」を大切にする選手だということです。その象徴が、ロッテがホームで勝ったときに必ず行う勝利の儀式“We Are”。どんな儀式かと言うと……。
試合に勝った後、鈴木が選手数人を引き連れ、マリーンズファンが陣取るライトスタンド前に走ります。選手が拡声器片手に、スタンドのファンに勝利の喜びを伝えた後、選手とファンが「We Are!」と声をそろえ、一斉に「千葉ロッテ、千葉ロッテ」と連呼しながらぴょんぴょんジャンプ。
2015年から試験的にスタートし、2016年の開幕以降は欠かさず行われるようになりましたが、常にその陣頭指揮を取って来たのが鈴木でした。
いまやマリン名物としてすっかり定着したこの“We Are”。2015年、球団からの提案に選手側が応じる形で始まりましたが、1年目は選手たちにも戸惑いや照れがあり、それがファンにも伝わったのか、いまのような一体感あふれる雰囲気を作れずにいました。
翌2016年。ロッテでは毎年、春季キャンプ中に選手会と球団がミーティングを行い、そこでシーズン中に行うファンサービスの内容を詰めていますが、その席で「今年も“We Are”を続けるか?」という議題になりました。
ある球団職員から「無理して続けるより、1回休止して、あらためて方法を考えては?」という意見が出て、その方向で話がまとまりかけたときに「ちょっと、待ってください!」と手を挙げたのが、キャプテンとして出席していた鈴木でした。
「続けましょう。続けたいです! 僕が率先して選手を連れて、中心になってやりますので、続けましょう!」
せっかくファンと一体になるために始めたことを、1年であっさりと止めてしまうのは「どうしても嫌だった」と言う鈴木。このとき、球団側からこんな意見も出ました。
「やるからには『きょうはやらない』という日があっては困る。体調の悪い日や、勝ったけれど自分がミスをしたり、チャンスに凡退する試合もあるかもしれない。そんなときでも、先頭に立ってライトスタンドへ行ってくれますか?」……覚悟を問うこの質問に、鈴木キャプテンはきっぱり答えました。
「もちろん、行きます。ファンの方に喜んでもらうために絶対にやります。特定の何試合か限定ではなく、僕は全試合やります!」
こうして、ホームで勝った試合では、選手側が自主的にライトスタンドへ行く選手を決め、鈴木が率先してライトゾーンまで走り、勝利の喜びを分かち合うスタイルが定着したのです。
11月17日、ZOZOマリンスタジアムで開催されたファン感謝デーに出席した鈴木は、閉会の挨拶で再びマイクを握ると、ファンにこう宣言しました。
「マリーンズといえば“We Are”が名物です! 今年最後の“We Are”をやって、きょうを締めたいと思います!」
鈴木が陣頭指揮を取った、最後の“We Are”が終わった後に、サプライズで鈴木の応援歌が鳴り響き、大地コールも起こりました。「嬉しいというか、幸せですね」と感無量の表情を見せた鈴木。
その翌日、18日にロッテ球団から、鈴木の退団と本人によるコメントが文書で発表されましたが、そのなかにこんな一文がありました。
「エラーした日もありました。打てない日もありました。ただ、あの“We Are”をやると本当に球場がひとつになって、勝った喜びが本当にあふれ出てきました」
新天地・楽天は、これまでチームをまとめて来た嶋基宏が退団。鈴木は新たなチームリーダーとしての役割を期待されています。
楽天も、内野のポジション争いの激しさはロッテと変わりませんが、毎年レギュラー争いをするなかで、どのポジションでも存在感を見せ、レギュラーを勝ち取って来た鈴木。そのひたむきな姿勢は若手のよき手本にもなると、石井GMは考えています。
2020年、楽天を「7」年ぶりのリーグ優勝と日本一に導けるかは、背番号「7」のキャプテンシーに懸かっています。