開幕戦 長嶋茂雄監督vs野村克也監督~因縁の対決

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、巨人・長嶋茂雄監督と、ヤクルト・阪神で指揮を執った野村克也監督の「開幕戦」にまつわる因縁のエピソードを取り上げる。

【プロ野球ジャイアンツ対ホークスOB戦】笑顔の長嶋茂雄総監督(左)と野村克也総監督(右)=2018年2月10日 KIRISHIMAヤマザクラ宮崎県総合運動公園 写真提供:産経新聞社

いよいよ19日から無観客で開幕するプロ野球。巨人は東京ドームで阪神と戦います。昨シーズン(2019年)は日本シリーズ進出を懸け、クライマックスシリーズ・ファイナルステージで激突した両者。いきなり「伝統の一戦」となった開幕戦は、果たしてどちらが制するのでしょうか?

巨人はこの開幕戦、チーム通算6000勝が懸かっており、かたや阪神は昨シーズンのリベンジに燃えています。先発は、菅野智之と西勇輝のエース対決。ファンの声援こそありませんが、例年にも増して熱い戦いが見られそうです。

ところで、開幕戦はよく「特別な重みを持つ一戦」と言われます。レギュラーシーズンが120試合制に短縮された今年(2020年)は、ただの「120分の1試合」ではないということです。

その好例としてよく挙げられるのが、1997年の開幕戦・巨人-ヤクルト戦です。巨人・長嶋監督は、前年(1996年)まで、3年連続で開幕戦完封勝利を飾っていた絶対的エース・斎藤雅樹を先発に起用。ヤクルトは1995年の開幕戦で斎藤に完封されており、下馬評は「巨人圧倒的有利」というムードでしたが、ヤクルト・野村監督は「いや、勝機はある」と考えていました。

野村監督が、斎藤攻略の秘密兵器として用意していたのが、前年(1996年)オフに広島を自由契約になった元主砲・小早川毅彦でした。「お前、まだイケるで。ウチへ来んか?」と、年俸わずか2000万円で小早川を拾った野村監督は、彼にこう耳打ちしました。

「お前は大学でも1年生から4番を打てた。プロ1年目(1984年)もすぐに新人王や。新たな門出の年は、必ずいい星がめぐって来るんやな」

ノムさん流の暗示というか、一種の催眠術でしょうか。さらに、開幕戦から小早川をスタメン・5番に抜擢し、こう告げました。「肩の力を抜くだけでエエぞ」……この一言でリラックスして打席に入れたという小早川。2回、斎藤のストレートを、東京ドームのバックスクリーン右に叩き込んだのです。この瞬間、斎藤の4年連続開幕戦完封は夢と消えました。

巨人はその後反撃、逆転しますが、4回、再び打席に立った小早川は、今度はカーブを狙いすまして右翼席中段へ。これも有名な話ですが、野村監督は斎藤のデータを細かく分析。「カウント3-1から斎藤は1球カーブを放って来る。それを狙え」と小早川に指示していたのです。

斎藤にしてみれば「なぜ同じ打者に、2打席続けてこんなに完璧に打たれるんだ?」と信じられない思いだったでしょう。残る持ち球というとシンカーぐらいでしたが、小早川はそれも見切っていました。同点の6回、3たび小早川のバットが一閃。まさかの3打席連続ホームランで勝ち越したヤクルトは、そのまま継投で逃げ切り、開幕戦勝利を挙げました。

「きょうの小早川さんは、何を投げても打たれるような気がした」……プライドをズタズタにされた斎藤は、この3連発が響いたのか、以後調子を崩し、この年わずか6勝止まり。一方、勢いに乗ったヤクルトは快調に首位を走り、そのまま優勝。巨人は連覇を逃しました。この開幕戦は結果的に、両チームのシーズンを左右する一戦になったのです。

しかし、長嶋監督もやられっぱなしではありません。2年後の1999年、ユニフォームをタテ縞に変え、阪神の新指揮官となった野村監督と、またも開幕戦で相まみえます。この年、長嶋監督が開幕投手に抜擢したのは、外国人投手バルビーノ・ガルベスでした。

この起用には、周囲も驚きました。というのは、ガルベスは前年の1998年、グラウンド上でとんでもない事件を起こしていたからです。7月末に甲子園球場で行われた阪神戦で、主審の判定に不満を抱いたガルベスは、何とボールを審判団に向かって投げつけたのです。幸い命中はしませんでしたが、ガルベスは即座に退場。巨人はガルベスに「無期限出場停止・罰金4000万円」の厳重処分を下しました。

この試合の後、責任を感じた長嶋監督が頭を丸めたのを覚えていますが、クビ同然の処分を受けたガルベスを、ミスターは翌年もあえてチームに残しました。野球選手として心を入れ替え、やり直す機会を与えたのです。ガルベスも、この温情に応えました。翌1999年、ガルベスはオープン戦で好投を続け、開幕1軍入りを果たします。

この年は本来、開幕投手は桑田真澄の予定でした。ところが桑田が直前に風邪で体調を崩したため、長嶋監督は代役にガルベスを指名。相手が野村監督ということで「普通に行ったらやられる」という思いもあったのでしょう。ガルベスがますます意気に感じたのは言うまでもありません。

一方、これが阪神での初陣となる野村監督はミーティングで、ガルベスがいちばん嫌がる「塁に出て揺さぶれ」という指示を出しましたが、「オレを残してくれたミスター・ナガシマを男にする」というガルベスの心意気が勝りました。阪神打線をわずか3安打に抑え、失点は今岡誠に打たれたホームランの1点のみ。6奪三振・1四球と完璧なピッチングで完投勝利を挙げたのです。打線も終盤、高橋由伸に満塁アーチが飛び出すなど爆発。8-1で巨人が快勝し、長嶋監督は2年前の「小早川ショック」の雪辱を果たしてみせました。

試合後、野村監督は「アイツ(ガルベス)のペースで最後まで行かれた。ミーティング通りにならないのが野球や」とボヤきましたが、ヤクルトを4度のリーグ優勝、3度の日本一に導いた名将も、阪神では3年連続最下位に終わりました。いまにして思えば、ガルベスにしてやられたこの開幕戦が、誤算の始まりだったのかも知れません。やはり開幕戦は「120分の1試合」ではないのです。

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