巨人・戸郷が山口俊から学んだ“大切なこと”

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、6月23日の広島戦で今季初勝利を挙げ、チームの開幕4連勝に貢献した巨人の2年目右腕・戸郷翔征投手にまつわるエピソードを取り上げる。

【プロ野球巨人対広島】試合後、カメラマンの要望に応えてポーズを取る巨人・戸郷翔征=2020年6月23日 東京ドーム 写真提供:産経新聞社

「広島を抑えたということは、1つ自信につながったと思う。次からどこのチームも倒せるように、1勝1勝積み重ねて行きたい」(戸郷)

リーグ連覇を目指す巨人に、また新たなヒーローが現れました。23日、東京ドームで行われた巨人-広島戦で、先発の戸郷が、6回2/3を4安打2失点に抑える好投を見せ、今季初勝利を飾ったのです。

186センチの長身から、150キロ超の直球、カットボール、スライダー、フォークなどを繰り出し、広島打線から7三振を奪った戸郷。圧巻だったのは、2点を勝ち越した直後の6回です。この回先頭の代打・野間を空振り三振に仕留め、続くピレラは150キロの真っ直ぐを振らせて三振。続く安部のバットも空を切り、3者連続空振り三振で、逆転してくれた味方打線に応えました。

「自分もしっかり、気持ちを入れて抑えないといけない。結果に出てよかった」(戸郷)

巨人で、高卒2年目のピッチャーが開幕ローテーションに入ったのは、1987年の桑田真澄以来33年ぶりで、白星を挙げたのも桑田以来。打線も、昨シーズン(2019年)1勝6敗と苦汁を舐めさせられた天敵、K・ジョンソンから3点を奪い、巨人は3年ぶりの開幕4連勝を飾りました。

先発を6人で回す場合、まずエースを1カード目の初戦に持って来て、2番目に計算できる投手を2カード目の頭に置くのが、基本的なローテーションの組み方です。つまりこの試合の先発投手は “準エース格”ということ。巨人は広島に5年連続で負け越しているだけに、初戦に誰を持って来るかは注目されていましたが、戸郷を抜擢した原監督の賭けはみごとに当たりました。

原監督は戸郷のピッチングについて、「いや、もう見事に、持っている力を十分に発揮できたと思います」と讃えました。大事な開幕2カード目の初戦を、なぜ昨シーズンわずか1勝の戸郷に任せたかについて聞かれると、「う~ん。まあ、ちょっと意味はあるんですけど……」と言葉を濁しましたが、それだけ期待を寄せている証拠です。

宮崎出身の戸郷は、聖心ウルスラ学園時代の2017年、2年の夏に甲子園に出場。早稲田佐賀から11三振を奪い完投勝ちしています。しかし3年時は春夏とも甲子園に行けず、埋もれた存在になっていました。

戸郷が注目を浴びたのは、2018年8月、3年の夏に「宮崎県選抜」として出場した、U-18日本代表との壮行試合でした。この年、春夏連覇を達成した根尾昂(現中日)・藤原恭大(現ロッテ)の大阪桐蔭コンビから三振を奪うなど、甲子園のスター軍団を相手に、5回1/3を投げ9奪三振。「あれは誰だ?」と、一躍ドラフト候補へ躍り出たのです。

ドラフトでは、将来性を買って巨人が6位指名。指名順こそ下位でしたが、戸郷は「同世代には負けたくない」と闘志を燃やしました。プロ入り後も地道なトレーニングと走り込みを重ね、高校時代の最速は149キロでしたが、154キロにアップ。

ルーキーイヤーの昨年は、2軍戦で11試合に投げて4勝1敗の成績を残すと、シーズン終盤、ついに1軍からお呼びが掛かります。実績のないルーキーを「お試し昇格」で投げさせる場合、消化試合や点差の開いた場面などで投げさせるのが普通ですが、原監督は何と「勝てば優勝」という9月21日のDeNA戦に、戸郷を先発で起用しました。

Vが懸かる大一番に、高卒ルーキーを初登板・初先発させたのは前代未聞でしたが、この大胆起用には、先を見据えた原監督なりの「計算」がありました。戸郷はプレッシャーの掛かるこの試合で、150キロを超える真っ直ぐを連発。強力DeNA打線を相手に思い切り腕を振り、4回2/3を投げ4安打2失点。あと一歩で勝利投手にはなれませんでしたが、堂々たるピッチングを披露し、巨人は5年ぶりのリーグ制覇を達成しました。

緊張のあまり「涙が出そうだった。でも楽しかったです」と試合後に語った戸郷。並のピッチャーなら腕が縮み上がるところですが、緊張感を楽しむ余裕を見せたのは、やはりタダ者ではありません。原監督は戸郷の強心臓ぶりを見抜き、その後に控えるCS、日本シリーズの秘密兵器にしようと、あえて重要な試合を任せたのです。

戸郷はその後、阿部慎之助・現2軍監督の引退試合でプロ初勝利を挙げると、阪神とのCSファイナルステージ第3戦に先発。さらに日本シリーズにも、第3戦で同点の4回に登板するなど、重要な場面を任されました。

日本シリーズでは、内川に決め球を痛打されて崩れ、自分のエラーも絡んで4失点と炎上。苦い経験になりましたが、おそらく原監督はこのときから「来季(2020年)は戸郷をローテの柱にしよう」と決めていたのでしょう。そう考えると、今回の“準エース扱い”も不思議ではありません。

背番号が「68」から「13」に変わった今シーズン、戸郷も期待に応えるべく、年初にこんな目標を立てました。「球速をさらに上げ、160キロ台を出す。それには体重をあと10キロ増やすこと」。昨年の体重は73キロでしたが、目指すは83キロ。そのために自主トレで弟子入り志願したのが、ポスティングで巨人からブルージェイズに移籍した山口俊でした。

昨シーズンはチームトップの15勝を挙げ、優勝に貢献。最多勝のタイトルを獲得した山口。「山口さんの代わりになれるように、1勝でも多く勝てるようにしたい」と、戸郷は山口の沖縄合同自主トレに、1月4日から参加しました。その投球術や、調整法、先発としての心構えなどを学ぶことはもちろんですが、もう1つ学ぼうとしたのが“食事法”です。

もともと食が細く、なかなか体重が増えないのが悩みだった戸郷。実は山口の身長は、186センチの戸郷とほぼ同じなのです。しかし体重は山口が98キロ、戸郷が73キロ(当時)と25キロの差がありました。昨シーズン、チーム最多の170イニングを投げたパワーの源は「食生活にあり」と考えた戸郷は、自主トレ期間中、山口と食事を共にし、胃袋も鍛えました。

父親が力士だった山口の食事量は半端ではなく、戸郷も「食事が練習よりハード」とこぼしたほどでしたが、おかげで体重は、球団の公式発表によると75キロに増えました。目標の83キロまでまだまだ道のりは長いですが、果たして体重とともに勝ち星も増やせるのか? 今シーズンは、戸郷の“逆ダイエット”にも注目です。

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