話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、プロ野球の1軍外国人枠拡大と、注目の新外国人選手のエピソードを取り上げる。
いよいよ開幕が近付いて来たプロ野球。6月19日の開幕日に向けて練習試合が行われていますが、本来の日程であれば、19日の時点でレギュラーシーズン143試合の半分近くを消化しているはずでした。開幕が3ヵ月遅れた今季は、試合数を減らし120試合制で行われる予定ですが、それでも過密日程が続くのは確実です。
そこでNPBは、選手の体力消耗を避ける目的から、今シーズン限りの特例で、出場選手登録枠を29人→31人、ベンチ入り人数を25人→26人に増やすことに決めました。選手会とも大筋で合意しており、10日にも正式に発表される見込みです。
これと並行して、いま検討されているのが「1軍外国人枠の拡大」です。現在、1軍登録できる外国人選手は1チーム4人までですが、これを1人増やして「5人」に拡大しようというのです。ベンチ入り人数は4人のままで変わりませんが、入れ替えが楽になり、調子のいい外国人選手をすぐに起用できるようになります。外国人を多数抱えるチームには朗報と言えるでしょう。
阪神は今季、球団史上最多の外国人8人体制で臨みますが、練習試合で矢野監督が試しているのが「3番マルテ・4番ボーア・5番サンズ」の外国人クリーンアップトリオです。昨年(2019年)は得点力不足(リーグ最低)に悩まされただけに、この3人が打ちまくれば、15年ぶりのV奪回も夢ではありません。
3人とも練習試合で調子を上げており、特に新主砲として期待されているボーアは、2日からの広島3連戦で、3試合連続本塁打を放つ活躍を見せました。メジャーでは2015年から4年連続で2ケタ本塁打、通算92本塁打を記録したパワーヒッターです。
昨年はエンゼルスでプレー。大谷翔平の同僚でしたが、不振のため解雇され、新天地を求めて日本へやって来ました。3戦連発は本領発揮というところでしょう。ダイヤモンドを一周した後、ドラゴンボールの「かめはめ波」ポーズを披露するシーンもあり、日本野球にも早く溶け込めそうです。
もし開幕からマルテ、ボーア、サンズの3人を起用する場合、昨年までは投手を1人しか1軍に置けませんでしたが、枠が5人になれば、外国人投手を2人登録できることになります。先発候補のガルシア、ガンケル、救援投手のエドワーズ、スアレス(ソフトバンクから移籍)の4人で2枠を争うことになりますが、「みんな使いたい」と悩んでいた矢野監督にとって、枠拡大は願ってもない話。今年の虎は要注意です。
セ・リーグでもう1チーム、外国人枠拡大の恩恵を受けそうなのがDeNAです。6人の外国人選手を支配下登録していますが、練習試合では全員が好調ぶりをアピール。ラミレス監督も嬉しい悲鳴をあげています。昨年までだと、開幕までに2人を2軍に落とさなければなりませんでしたが、枠拡大なら1人だけで済みます。ラミレス監督は“助っ人”の気持ちがわかるだけに、悩みも軽減されそうです。
野手は、チーム最年長の36歳で、鉄壁の一塁守備を誇るロペスがバッティングも絶好調。2年連続本塁打王のソトも、6・7日の日本ハム戦で2試合連続アーチを放ち、いずれも充実ぶりを見せています。
さらに今季から、メジャー移籍した筒香の代役として、新外国人・オースティンが加入。昨年までブルワーズに在籍したスラッガーです。オープン戦では12球団最多タイの4本塁打を放ち注目されましたが、練習試合でも豪打が炸裂。2日の楽天戦、7日の日本ハム戦で、横浜スタジアム場外に特大アーチを放ち、規格外のパワーを見せつけました。
ラミレス監督は今季「2番ソト・3番オースティン」のオーダーを組む方針で、この「恐怖の2・3番」は、相手投手にとって大きな脅威になりそうです。試合数が削減されたため、本塁打数は例年より減りそうですが、ロペスと3人で「30発トリオ」が誕生するかも知れません。
一方投手は、先発候補の新外国人ピープルズ、リリーフ投手のエスコバー、パットンの3人が在籍。野手3人のレギュラー固定は確実なので、残る1軍2枠を3人で争うことになります。ピープルズは3日の楽天戦で3回1失点と、ローテーション入りをアピールすれば、エスコバー、パットンも中継ぎで負けじと好投。セ・リーグで最もリーグ優勝から遠ざかっているDeNAですが、外国人枠拡大が22年ぶりのVをアシストするかも知れません。
また、支配下に7人の外国人選手を擁する巨人は、メジャー通算1312安打、「シャークダンス」でおなじみの新外国人・パーラは1軍確定。投手では4年目のメルセデス、新加入のサンチェス、守護神・デラロサも開幕1軍が有力です。
昨年までならこの4人で「打ち止め」ですが、さらに1枠増えるとなれば、最速167キロを誇るビエイラ、190センチの長身投手・ディプラン、現在は2軍で調整中ですが、長打力を買われ、育成から支配下登録を勝ち取ったモタの昇格も考えられます。
いずれにせよ、外国人の層の厚さが優勝を左右しそうな今シーズンですが、一方で見逃せない動きも。米国では新型コロナ禍で、マイナーリーガーの解雇がどんどん進んでいます。昨年まで巨人でプレーし、今季はレンジャーズとマイナー契約を結んでいたヤングマンもその1人。このまま行くと、1000人規模の大量解雇に発展するという見方もあります。
となると、メジャーリーグ開幕のメドが立たない現状では、日本球界への売り込みを図るマイナーリーガーも増えて来そうです。現在は渡航制限がかかっていますが、緩和されれば思わぬ逸材が獲れる可能性も……。育成契約なら何人でも獲得は可能ですし、その意味でも外国人枠拡大は、ペナントレースの行方に大きな影響を与えそうです。