澤村電撃トレードにみる巨人・原監督の“本気度”

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、9月8日の移籍会見後、即登板。3者連続三振で新天地デビューを飾った千葉ロッテマリーンズ・澤村拓一投手のトレードにまつわるエピソードを取り上げる。

【プロ野球ロッテ対日本ハム】6回 力投するロッテ・沢村拓一 ユニホーム間に合わず、福嶋打撃投手の背番号「106」を借用=2020年9月8日 ZOZOマリン 写真提供:産経新聞社

「はじめまして。澤村です!」「名前を呼ばれたときの声援は絶対に忘れません。これからはマリーンズのために腕を振って行きます。よろしくお願いします!」(澤村)

9月7日、巨人からロッテへのトレードが発表された澤村。10年前のドラフト1位で、2011年には新人王、2016年には最多セーブに輝いた巨人のピッチャーが、シーズン中盤を過ぎたこの時期に電撃トレードされたことは大きな話題となりました。

少し間を置くのかなと思いましたが、ロッテ・井口資仁監督は翌8日の移籍会見当日、澤村を即1軍登録。その夜さっそく、ホーム・ZOZOマリンスタジアムで行われた日本ハム戦のブルペンに入れました。さらに、3-2と逆転した直後の6回、勝負所でいきなり澤村を投入したのです。

意気に感じるタイプの澤村が、いきなりこんな見せ場を用意されて燃えないわけがありません。リリーフカーでは鬼のような形相を見せて登場し、ファンは大喝采。新背番号「57」のユニフォームが急すぎて間に合わず、背格好が似ている打撃投手のユニフォームを借り、背番号「106」を背負ってマウンドへ。

先頭の渡邉諒を148キロのスプリットで空振り三振に斬って取ると、続いて巨人時代の同僚2人、大田泰示・ビヤヌエバを同じくスプリットで三振に仕留め、後続にバトンを渡しました。7回以降は、唐川侑己-ハーマン-益田直也の勝ちパターン継投で逃げ切り、ロッテは5連勝。お立ち台で澤村が語ったのが、冒頭のセリフです。

「3者連続空振り三振」という、名刺代わりとしてはこれ以上ないデビューを飾った澤村。試合前に行われた移籍会見では「優勝のため、期待に恥じないよう頑張りたい」と力強く決意を語り、「コアラのマーチ」を持って笑顔でポーズを取るなど大サービス。その写真をロッテ球団広報がさっそくツイッターにアップして反響を呼びました。

澤村のこんな明るい表情は久々に見ましたし、移籍が決まって気持ちの上でも吹っ切れたことが、好結果につながったことは間違いありません。巨人では8月11日に「3軍降格」も経験しましたが、そもそも開幕時の6月には、150キロ台の力のある速球で相手打者を抑えていたのです。とくに故障もしていないのですから、活躍してもまったく不思議ではありません。問題は体調や技術ではなく「心と環境」だったのです。

環境が変わったことで、新天地で力を発揮したケースは他にもたくさんあります。昨年(2019年)、若手の台頭でローテーションから外れ、出場機会を求めてロッテから楽天に移籍。今季(2020年)開幕8連勝を飾った涌井秀章もそうですし、それこそがトレードの意義でもあります。

しかし、シーズン中でも頻繁にトレードが行われる米メジャーリーグに比べ、日本球界では積極的にトレードを進める球団は少ないのが現状です。もしトレードに出した選手が移籍先で活躍した場合、「何で出したんだ!」と責任を問われるかも……という後ろ向きの古い考え方が、依然として球団フロントにあるのかも知れません。それで球界全体が活性化するなら、回り回って出したチームの得にもなると思うのですが。

特に今シーズンは、新型コロナの影響で、外国人の緊急補強が行えない状況です。よりトレードが活性化してしかるべきなのに、今季、シーズン中に成立したトレードは今回の澤村の件を含め、わずか4件しかありません。

● 6月29日 池田駿 ←→ ウィーラー(巨人←→楽天)
● 7月15日 髙田萌生 ←→ 高梨雄平(巨人←→楽天)
● 8月28日 飯田優也 ←→ 小林慶祐(阪神←→オリックス)
● 9月8日  澤村拓一 ←→ 香月一也(巨人←→ロッテ)

4件中、巨人が実に3件を占めています。これを見てひしひしと感じるのは、巨人・原監督の連覇に懸ける“本気度”です。いま巨人のチーム編成は、原辰徳監督が全権を握って進めており、「優勝するために足りない部分は、シーズン中であっても積極的に補強して行こう」という原監督の強い意思が如実に現れています。ウィーラーと高梨の移籍後の活躍ぶりはご存知のとおり。

澤村再生のためにいろいろと手を尽くした巨人が、自軍での復活が難しいとみるや、即トレードの方向に舵を切ったのは「勝つための集団づくり」を目指す以上、当然の選択です。チームの勝利のため、使わない戦力はトレードで有効な戦力に置き変え、常にベストの布陣を敷く。プロ野球なのですからそれでいいし、本来チーム編成はそうあるべきです。この点において今季は、巨人と他のセ5球団の間に熱意の差を感じざるを得ません。

今回、澤村の交換相手となった香月は、大阪桐蔭高出身。阪神・藤浪晋太郎の2学年下、西武・森友哉の1学年後輩で、3年次の2014年、夏の甲子園で全国制覇を経験しています。ドラフト5位でロッテに入団し、今年で高卒6年目の24歳。一発が魅力の左打者で「右方向に強い当たりを打てる、パンチのある左打者」を求めていた原監督の要望に、ぴったりはまります。そういう選手が獲れる可能性があるなら、いますぐ動く。指揮官の意思は徹底しています。

巨人に移った香月は9日、さっそく2軍戦に出場し、犠飛を放って移籍初打点を挙げています。澤村との“年俸格差”も話題になりましたが、原監督は「ウチにはいないタイプ」と高く評価しており、あくまで必要な選手として獲ったのです。近いうちに1軍起用があるかも知れません。

またロッテも、澤村獲得は昨年オフの積極補強の延長で、これまた“本気”です。経験値が高く、球威のある中継ぎは、優勝のためにどうしても欲しいピースでした。井口監督の澤村即起用について「よくあの場面で使ったな」と賞賛する声も多いですが、ある程度の確証がなければ、あんな大胆起用はしなかったはず。

おそらくロッテはかなり早い段階から澤村をマークしており、中継ぎとしてどれほど戦力になるのか、スタッフが澤村の現状について詳細なスカウティングレポートを井口監督に上げていたはず。とすれば、これは編成の勝利でもあります。すべては15年ぶりのリーグ優勝、10年ぶりの日本一のため。澤村には2012年、日本一の経験もありますし。

また、ファンの意識も変わって来ています。ニュースサイトのコメント欄を見ていると、巨人ファンは澤村の移籍に対しほとんどが好意的で、「彼のためになる」「ロッテでの活躍を期待したい」「日本シリーズで対戦できるのを楽しみにしています」という声も。

一方、巨人以外のセ・リーグ5球団のファンの間では「独走する巨人が補強を続けているのに、なぜウチのチームも同じことをしないのか?」という意見がけっこう見受けられます。ファンはとっくにトレードに対する意識を変えているのに、球団側が追い付いていないのが現状ではないでしょうか? 澤村が今後も活躍すれば、今回のトレードは潮流を大きく変えるきっかけになるかも知れません。

まだペナントレースは半ばを過ぎたところですし、今季のトレード期限は9月末まで延長されています。戦いはまだ終わっていません。セ5球団の編成担当の皆さん、ここは最後の頑張りどころではないですか? パ・リーグにはチーム事情で働き場に恵まれない有能な選手が、まだたくさんいますよ。


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