黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)にニュースキャスターの辛坊治郎が出演。ニュースキャスターの仕事について語った。
黒木)今週のゲストはニュースキャスターの辛坊治郎さんです。生放送でお話をするとき、視聴者の方との共感を大事にしてお話をしているとおっしゃっていましたけれども、スタジオには政治家の方や専門家の方などいろいろな方がいらして、両方に目配りしなければいけませんよね。その辺りはどのようにしていらっしゃるのですか?
辛坊)長くこの仕事をやって来てつくづく思うのですが、その時間にテレビを観てくださっている方、ラジオを聴いてくださっている方が、基本的にどのくらいの知識をお持ちなのかというところが重要なのです。
黒木)でも、わからないですよね。
辛坊)後輩に「どうしたらいいですか」と聞かれることもあるのですが、これだけは申し訳ないけれども、感性に近いものがあります。専門家の方が何かお話をされて、その方の口から発せられた言葉の意味を、ラジオを聴いている方、テレビをご覧になっている方の何%が瞬時に理解できたかということなのです。いまテレビを観ている人、ラジオを聴いている人の3割くらいしかわからない言葉を言われたときには、もう1回言い換えるか、聞き返すということになりますが、聞き返すとなると、多くのリスナーさんに「辛坊、そんなことも知らないのか」と思われてしまい、番組の信頼感に関わります。ここの間合いがいちばん難しいですね。自分の口で私が知らないことにして聞き返した方がいいのか、あるいはその人が言った言葉を私の言葉に置き換えて、聴いてくださっている方に伝えた方がいいのか。「目の前で喋っている人が放った言葉の意味を、いまリアルタイムで聴いている人、観ている人の何割くらいが瞬時にわかったか」ということを感じ取る感性というのはあると思います。これが、この商売の肝なのです。
黒木)ときどき、噛み砕いておっしゃっていますよね。
辛坊)私もそこそこの歳で、最近、いろいろな意味で「限界だな」と思い始めているところがあります。「昔ならば、ここで腹が立ったな」と思うことに、だんだん腹が立たなくなって来たのです。この商売は不正に対する怒り、権力者に対する反発心などがベースにないと、できない仕事です。ところが、「そうは言っても、その人はそれなりに大変だな」などと思ってしまうわけです。これが、最近の悩みの種です。
黒木)そうですか。
辛坊)いままでは自分の感性で、心から笑いたいときに笑って来たし、怒りたいときに怒って来たので、自分で演技をする必要がなかったのです。でも、「もしかすると、この仕事は演技も必要だな」と最近思うのです。女優さんは、役に入ったときに、演技している自分をどこかで意識しながらやっていらっしゃるのですか?
黒木)本当に感情だけで演技をしたとき、「私はいったい何をやっていたのだろう」というときもあります。
辛坊)後で見たときに、そういうときのほうがいい演技ができるのか、あるいは自分で演技している自分を意識しているときの方がいい演技なのか、どうなのですか?
黒木)それがわからないですね。自分がいいと思ったことが、観てくださった方にとってはよくなかったり、よかったりということがあるので。でも、演技しなくてもいいではないですか。笑いたいときに笑って、怒りたいときに怒っていれば。
辛坊治郎(しんぼう・じろう)/ニュースキャスター
■1956年、鳥取県生まれ。
■1980年、早稲田大学法学部卒業後、読売テレビ放送に入社。
■アナウンス部に配属され、「ズームイン!!朝!」「ウェークアップ!」などを担当。
■2000年、報道局情報番組部長に就任。
■朝の情報番組「ズームイン!!SUPER」でニュース解説を担当するなど数々の番組で活躍。
■2010年に読売テレビを退社。設立した株式会社大阪綜合研究所・代表に就任。
■現在は「ウェークアップ!ぷらす」「そこまで言って委員会NP」など多数担当。ニッポン放送では「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」を担当。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳