「新行市佳のパラスポヒーロー列伝」
ニッポン放送アナウンサー・新行市佳が、注目選手や大会の取材などを通して、パラスポーツの魅力をあなたと一緒に発見していきます
久しぶりの更新になります。コロナ禍ではありますが、さまざまなスポーツ大会が感染防止対策を行いながら開催されていますね。
無観客試合やライブ配信など試行錯誤しながら取り組まれていますが……そのなかでも、今回は1月30日~31日の2日間にわたって行われた、「第21回 全日本パラ・パワーリフティング国際招待選手権大会(全日本選手権)」の舞台裏について、特定非営利活動法人日本パラ・パワーリフティング連盟の吉田進理事長と、事務局の吉田彫子さんにインタビューした模様をお伝えします。
パラ・パワーリフティングは昨年(2020年)10月に、チャレンジカップという大会を京都で行いました。このとき、まだ室内のパラスポーツ競技で大会を開催しているところはほとんどない状態でした。
京都で練習の拠点にしているサン・アビリティーズ城陽の敷地内にリハビリテーション病院があり、そこの徳永院長のアドバイスを遵守して、車いすの消毒やソーシャルディスタンスをとるための空間の使い方(アップ場・控室など)、アクリル板の設置といった、さまざまな対策を行って開催しました。
この大会での感染防止対策を活かし、今年(2021年)1月30日~31日に全日本選手権を開催(海外選手の招待は中止)。全日本選手権に懸けた吉田理事長の想いを伺いました。
「選手はバーベルを何キロ上げられるか、ピュアな筋肉の力の戦いなんですね。普段の練習の積み重ねですが、年に何回かみんなに観てもらいたい。自分はどれだけ強くなったのか、それを糧にしてまた伸びて行く。それが試合なんです。試合がなくなると選手の元気がなくなります。コロナ禍であっても無観客であっても、何とか試合を開いて選手を元気にしたい、伸びて行ってもらいたいという想いでした」
出場する選手のみならず、カメラマンや補助員(関東学生パワーリフティング連盟の有志)、関係者など合わせて75人のPCR検査を実施。全員陰性の上で大会を行いました。
競技会場は千代田区立スポーツセンターの多目的室でしたが、1セッションの最大選手数を7人程度に限定、審判などを含めて13人のみが入室。メディア席は体育館に設置し、パブリックビューイング方式で画面を通しての取材……つまり、競技会場に入れるのは事前にPCR検査を受けた陰性者のみでした。
チャレンジカップのときも映像の配信はしましたが、新たな試みとして、全日本選手権では「観ている人が楽しめる大会」を意識しました。
プロジェクションマッピングのような映像演出、そしてリモート応援システム「Remote Cheerer powered by SoundUD(リモートチアラー)」を導入。私もスマートフォンで遠隔応援ができるリモートチアラーを使いながら、オンライン観戦をしました。
スマートフォンの画面に「ファイト」「頑張れ!」「拍手」などの応援ワードが表示され、そこをタッチすると試合会場にあるスピーカーから音声が流れる仕組みです。配信そのものは実況と解説がついていて、スポーツ中継を観ているようでしたが、リモートチアラーを使うことで自分も大会に参加している気分になりました。
事務局の吉田彫子さんに、選手の反応を教えていただきました。
「過去2大会パラリンピックに出場している56歳の三浦浩選手は、久しぶりに怪我や病気から復帰して、優勝に迫る大活躍をしたのですが……『みんなが応援してくれているのが伝わって、めちゃめちゃ楽しんで試合をしたよ』とおっしゃっていました。三浦選手と熱戦を繰り広げて優勝した西崎哲男選手は、会社や関係者がオンラインでつないで観戦会を行っており、『会場にはいないけれど、カメラの先にみんながいると思って負けられないと感じた』と話していました」
このリモートチアラーは、聖学院大学の学生の皆さんが応援ワードを考えて、音声の作成をしました。連盟の方や選手と話し合い、どんな応援だと嬉しいかなどをヒアリングしたそうです。
また、日本工学院八王子専門学校の生徒の方々が制作した大会を盛り上げるBGMもあって、賑やかなで華やかな大会でした。今大会で4つの日本新記録が出ています。
パラ・パワーリフティング選手の練習状況としては、去年の4~5月はほぼゼロでしたが、6月からは調布に練習場を見つけて、練習会ができるようになりました。オンラインでつないで、地方にいる選手に練習会の様子を伝えるようにしました。
日本代表ヘッドコーチのジョン・エイモスさんはイギリスの方で、日本に来られない状況でしたが、選手のトレーニング動画を送って、それにHCがコメントをつけて送り返すという取り組みをしました。
コロナがなかったら、こういったオンライントレーニングを試す機会もなかったとのことで、大会運営のみならず新しい試みができて、これも収穫になったとのことでした。
全日本選手権について、吉田理事長は「無観客でやるとこういう形で試合ができるんだという、東京大会に向けた一歩になったと思う」と手応えを実感されていました。
「選手の姿を伝える努力をやめてはいけない」……そう力強く語ってくださった吉田彫子さんの言葉がとても印象的でした。パラアスリートは、障害によってはコロナに罹ると重症化するリスクがあると言われています。万全な感染防止対策が必要ですが、加えて、選手と応援する側が楽しめる環境づくりも必要になって来ます。
コロナ禍におけるスポーツ大会の在り方を模索することは、未来に、東京オリンピック・パラリンピックにもつながる試金石になるのではないでしょうか。