ラグビー・福岡堅樹引退 アスリートに与えた刺激

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、現役最後の試合となった5月23日のラグビートップリーグ・プレーオフトーナメント決勝で、トライを決めて優勝を飾ったパナソニックの福岡堅樹選手にまつわるエピソードを取り上げる。

ラグビー・福岡堅樹引退 アスリートに与えた刺激

【ラグビートップリーグ プレーオフトーナメント2021 決勝 サントリー対パナソニック】優勝し、笑顔を見せるパナソニック・福岡堅樹=2021年5月23日 秩父宮ラグビー場 写真提供:産経新聞社

『トップリーグ初優勝! ラグビーにおいて唯一取り残していたものを、最後に成し遂げることができました! もう何一つ、後悔はありません。』

~福岡堅樹Twitter 2021年5月23日投稿の試合後コメント

5月23日、東京・秩父宮ラグビー場。日本ラグビー界の至宝・福岡堅樹選手(パナソニック)にとって、勝っても負けても競技人生最後の一戦、日本選手権を兼ねたトップリーグのプレーオフトーナメント決勝が行われ、パナソニックが31対26でサントリーに勝利。5季ぶり5度目の優勝を飾りました。

2019年のワールドカップ日本大会でも活躍したスピードスター・福岡選手は、この春、順天堂大学医学部に進学。今後は医師への道に専念するため、まだ28歳とアスリートとして全盛期であるにもかかわらず、この試合を最後に現役引退することを決めていました。そんな引退の花道で、前半30分に見事なトライ! 5点差での決着だったことを考えると、まさに優勝につながる貴重な得点となったのです。

優勝翌日のトップリーグ年間表彰式で、初の最優秀選手(MVP)とベストフィフティーンに選出された福岡選手は、活躍の要因をこう振り返りました。

『残された試合を一切考えず、最高のパフォーマンスを出すために目の前のことに集中しました。ラグビーを引退する年と決めたことが成長を続けられた要因だと思います』

~『日刊スポーツ』2021年5月24日配信記事 より

7人制(セブンス)で行われる東京五輪への出場を目指したものの、五輪延期で断念。そこで落ち込むのではなく、むしろ最高のラストシーズンを過ごすためのきっかけにも変えた福岡選手。「後悔はありません」という本人コメントとは裏腹に、「やっぱり東京五輪でその勇姿を見たかった」というファンは多いはずです。

ただ、東京五輪を視野に入れているアスリートには、福岡選手から刺激や影響を受け、後を受け継ごうと奮闘する選手が何人もいます。彼・彼女たちを追いかけることで“福岡ロス”も補えるのではないでしょうか。

「堅樹さんのように自分の道貫く」永田花菜(女子ラグビー)

1人は、7人制ラグビー女子日本代表の永田花菜選手、21歳(日体大)。福岡選手とは、母校である福岡高校の先輩・後輩の間柄です。

中学まではラグビーとサッカーを掛け持ちしていた永田選手ですが、2016年4月に福岡高校に入学してからはラグビーに専念。そんな矢先、リオ五輪でベスト4という快進撃を演じたのが福岡選手も出場していた男子7人制代表でした。

『リオ五輪を見たことで「みんなに元気を届けられるようにと、しっかりとした目標になった」という。その後、母校に凱旋した福岡とも対面。学校の集会で話した「自分にできることを貫く」という言葉は深く印象に残っているといい、永田自身の「五輪へできることを毎日貫く姿勢につながっている」という』

~『スポニチアネックス』2021年2月22日配信記事 より

永田選手の夢は、先輩・福岡選手とともに東京五輪に出場することでした。その夢はもう叶いませんが、東京五輪の代表入りと五輪本番でのメダル獲得を目指し、こんな言葉とともに前を向いています。

『堅樹さんのように、自分の道を貫けるよう、私も自分の道を決めて頑張りたい』

~『スポニチアネックス』2021年2月22日配信記事 より

「同じ境遇の人がいたことに親近感が湧いた」金井大旺(陸上ハードル)

もう1人は、陸上男子110mハードルの金井大旺選手、25歳。4月29日に開催された陸上・織田幹雄記念国際大会で13秒16の日本新記録をマーク。2016年リオ五輪なら銀、2019年世界選手権なら銅メダルに相当する好タイムで、東京五輪の参加標準記録もクリアした注目選手です。

金井選手と福岡選手の大きな共通点。それは、今シーズンでの現役引退を表明していること。そして、引退後は医学の道へ進むこと。福岡選手が父や祖父の影響から医学の道を志したように、金井選手もまた北海道・函館の実家を継ぐべく、歯科医を目指しているのです。

悔いなく競技生活を終え、歯科医の道に専念するため、金井選手が集大成の場と設定したのが東京五輪。それだけに、新型コロナによる延期でモチベーションの維持は相当難しかったはず。そんなとき、福岡選手の存在が金井選手の背中を押したのです。

『コロナ禍で予期せぬ1年延期。7人制ラグビー男子の福岡堅樹(28)=パナソニック=は、医師の道を優先し、五輪を断念した。金井は「同じ境遇の人がいたことに親近感が湧いた。僕は五輪に出たことがなくて、出たい気持ちが強く、続ける選択をした」と明かしていた』

~『スポーツ報知』2021年4月30日配信記事 より

五輪に出たいという強い思い。そして、終わりが決まっているからこそ、最後の1年でこれまで以上に追い込んだ練習に明け暮れることができた金井選手。その成果が、日本新記録達成という結果に結実したのです。

もっとも、金井選手の真の目標は、東京五輪に「出ること」ではなく、「ファイナルの舞台に立つこと」。過去、110mハードルで五輪・世界選手権のファイナルに進んだ日本人はいません。まさに、日本陸上界にとって大き過ぎるハードルに挑もうとする金井選手は、福岡選手と同じような言葉でいまの心境を語っています。

『競技人生のラストシーズンなので、悔いが無いようにしっかりと出し切って、東京五輪に向けて頑張りたい』

~『読売新聞オンライン』2021年4月29日配信記事 より

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