オリックス快進撃を支える「コーチの知恵」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は6月に快進撃を見せ、優勝戦線に名乗りを挙げたオリックス・バファローズにまつわるエピソードを取り上げる。

オリックス快進撃を支える「コーチの知恵」

【プロ野球交流戦オリックス対広島】スタンドには「祝・交流戦優勝」のプレートが並んだ=2021年6月13日 京セラドーム大阪 写真提供:産経新聞社

セ・パ交流戦の優勝で勢いに乗るオリックス。リーグ戦が再開しても好調は変わらず、10年ぶりとなる怒涛の8連勝で、6月20日の時点で楽天と並んでパ・リーグ首位に浮上しました。

この快進撃は、勝利数・防御率・奪三振数でリーグ1位につけるエース・山本由伸や、その山本と並んでパ1位の7勝をあげる宮城大弥といった投手陣の踏ん張りも大きな原動力になっていますが、加えて、チーム打率はリーグトップの.256。チーム本塁打数62本はトップのロッテと3本差。打線の援護も光ります(※成績はいずれも20日時点、以下も同様)。

個人成績で見ても、打率では吉田正尚がリーグ1位の.339、新主砲・杉本裕太郎がリーグ3位の.305。さらに、杉本の14本塁打・43打点は、ともにリーグ4位。吉田の12本塁打42打点はリーグ5位という安定ぶり。

また、規定打席に到達していないものの、5月中旬から1番に定着した福田周平は打率.327、出塁率ではリーグ1位の吉田と並ぶ.429という驚異的な数字で打線を牽引しています。

振り返れば、2020年のオリックスはチーム打率、チーム本塁打数ともリーグ4位。得点はリーグ最下位。得点力アップが明らかな課題でした。そのため、今季からチームに加わったのが、現役時代は広島カープで活躍した梵英心(そよぎ・えいしん)打撃コーチです。

『最初に思ったのは正直、いい選手が多いなということでした。ただ去年のデータで、得点の数と打率を見たときに、ちょっとかみ合っていなかった。打つだけなら結果としては出るだろうと思ってたけど、得点しないと勝てないので、そこをどうするかと』

~『スポーツ報知』2021年6月15日配信記事 より(梵コーチのコメント)

長年課題となって来た得点力不足解消のため、梵コーチが選手たちに求めたもの。それは、1つ1つの打席で粘り続ける「ファウル」の重要性でした。

『まずできることは、打ちにいきながら打てるボールはコンタクトする、打てないボールはファウルを打ってもう1回勝負していく、ということが一番大事だと思っています』

~『スポーツ報知』2021年6月15日配信記事 より(梵コーチのコメント)

象徴的なシーンが交流戦でありました。6月6日の中日戦です。2点を先制した2回、なお2死二、三塁の場面で、打席に立った1番・福田秀平は、ファウルを何と11球も挟み、16球目をタイムリーにする粘りで勝利を呼び込んだのです。1打席で16球投げさせたのは、今季両リーグ最多でした。

『「必死です。甘い球が全然こなかったのでファウルに。なんとか食らいついて、最後に仕留められた」。福谷の147キロ直球を中前にはじき返した。1打席で16球を投げさせたのは、今季両リーグ最多だ。「膝下のボール球に手を出すと状態も悪くなる。浮いた球は好球必打。とにかく塁に出る。ヒットでも四球でも死球でも良い」』

~『日刊スポーツ』2021年6月6日配信記事 より(福田選手のコメント)

福田選手はもともとファウルで粘ることを得意とする選手ではありますが、これまで「フルスイング」を信条として来た杉本選手も今シーズン、「ファウルの重要性」を語っています。

『「ファウルでいい」ということです。追い込まれてからは特に。ファウルなら、もう1球チャンスがあるわけですから。仕留めることも大事だけど、中途半端に凡打になるより、コンパクトに振る意識を持ちつつも、思い切り振る意識も大事になる。その積極性を出すために、ファウルでいいという考えを持ったんです。それまでは、追い込まれてから甘いボールをファウルしたら、「うわぁ」って感じだったんですけど、今は「ファウルでいい。またチャンスがある」と思っているんです』

~『週刊ベースボールONLINE』2021年5月23日配信記事 より(杉本選手のコメント)

こうした意識改革を促すのは梵コーチばかりではありません。田口壮コーチのあるアイデアが、いまやオリックスの好循環を生むルーティーンとなっています。

『気持ちを1つに、全員で戦う。今季のオリックスは練習で使ったボールを選手、スタッフ全員で拾っている。試合前、最終組のフリー打撃が終わる頃、選手たちは列を作って待って「バッティング終了でーす!」の掛け声で、グラウンドに転がる白球を拾い始める。(中略)提案者は田口壮外野守備走塁コーチで、開幕直後から“験担ぎ”として導入。当初は若手や控え選手が中心だったが、球団スタッフは「T(-岡田)さんやラオウ(杉本)さんも、練習が終わる頃を待ってくれて。その姿を見てみんなでボールを拾うようになった」と証言する』

~『日刊スポーツ』2021年6月13日配信記事 より

気持ちを1つに、という意味では、オリックス戦開始前の恒例となった「グータッチ」も今シーズンから始めたもの。これは水本勝己ヘッドコーチの発案です。

『チームを一丸にする儀式がある。水本ヘッドコーチの発案で試合前にベンチで首脳陣、選手が全員でグータッチ。宗は「初回の1球目から全員で襲いかかっていく。一体感を持ってチームで戦っていこうという意味でやっている」と説明した』

~『デイリースポーツonline』2021年5月1日配信記事 より

選手が育って来たことはもちろん、コーチ陣までもが「チームを1つに」という視点でまとまっているからこそ、いまの成績につながっているのではないでしょうか。その先に見据えるのは、もちろんただ1つ、1996年以来、25年ぶりのペナント制覇と日本一です。

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