話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、5月5日の中日戦で、同期入団の牧秀悟選手とともに初のお立ち台に上がったDeNA・入江大生投手にまつわるエピソードを紹介する。
『色んなファンの人の顔が見られてうれしいです。最高です!』
~『デイリースポーツonline』2022年5月5日配信記事 より(入江大生・ヒーローインタビューでのコメント)
3年ぶりに観客数制限なしでゴールデンウィークを迎えたプロ野球。「こどもの日」の5月5日も、各球場とも賑わいを見せました。そんななか、2年目にして待望のプロ初勝利を挙げたのが、2020年、DeNAのドラフト1位・入江大生です。
この日、本拠地・横浜スタジアムで行われた中日戦で、入江は7-1と6点リードした7回に4番手でマウンドへ。2イニングを投げ1安打無失点、4三振を奪う好投を見せました。
このゲーム、DeNAは10-2で快勝。ただし先発・坂本裕哉は4回1失点で降板したため、後続の投手に勝ち投手の権利が移り、2番手~5番手のなかで最長イニングを投げ、かつ無失点の入江に待望のプロ初勝利が転がり込みました。
試合後、初のお立ち台に呼ばれた入江。隣には、初回に先制3ランを放った打のヒーローで、2020年ドラフト2位の同期生・牧秀悟の姿が。実はこの「同期コンビお立ち台」は、2人の夢でもあったのです。
『入団して風呂に入った時、一緒にお立ち台に立てたらいいなと話していた。ここでかなえることができてうれしい』
~『スポーツ報知』2022年5月6日配信記事 より(牧秀悟・ヒーローインタビューでのコメント)
ドラフト1位の即戦力投手として期待されていた入江は、昨季(2021年)、順調に開幕ローテーション入りを果たします。しかし、4試合に登板して4連敗と結果が出せないまま2軍落ちを経験。さらに右ヒジの痛みにも襲われ、8月、クリーニング手術に踏み切りました。
期待に応えられなかった申し訳なさが去来するなか、同期でドラフト2位の牧が大活躍。正直、嬉しい気持ちと悔しい気持ちがあったと入江は言います。しかし「いつか一緒にお立ち台へ」という牧との“風呂場の誓い”を果たすべく、入江はリハビリに励み、下半身の強化にも努めました。
昨年の秋季トレーニングでは、ブルペン入りできるまでヒジの状態が回復。しっかりと体をつくり、空いた時間には読書をして見聞を広めたという入江。逆境にあっても、すぐに気持ちを切り替え、いますべきことに取り組めるのが彼の強みですが、それには理由があります。
作新学院高校時代、3年の春にエースの地位を得ながら、その後打ち込まれて、今井達也(現西武)にその座を奪われた入江。明治大学でも入学後しばらくは実力を発揮できず、苦悩の日々が続きました。そういった苦しみも、成長の糧にしてきた自信が入江の野球人生を支えています。
巻き返しを誓って臨んだ2年目、春季キャンプを無事に乗り切った入江の起用法について、三浦大輔監督はこうコメントしました。
『今年はリリーフでいきます。去年けがをしたし、これからイニング(投球回)を延ばす作業より、球の質を考えると、力を発揮できる』
~『中日スポーツ』2022年3月1日配信記事 より
三浦監督によると、入江本人とも話し合った上でリリーフ転向を通告。入江はリリーフ転向について、こう語っています。
『リリーフかなと気づいていた。それを自分で選択するのは大きな決断だったので、言われた方が、より覚悟できる』
~『中日スポーツ』2022年3月1日配信記事 より
実は作新学院高でも明治大でも、リリーフは経験済みでした。監督の口から「今年は後ろで頼む」と言われて、覚悟を決めた入江。転向後8試合目で、ついに待望の白星を手にすることができましたが、勝負はまだまだこれから。シーズンを通じて活躍できなければ、ドラフト1位の責任を果たしたとは言えません。
今後の活躍に期待したいところですが、入江にはもう1つの武器があります。それは「周囲を明るくするキャラクター」。2020年暮れ、DeNAが新人選手をお披露目する記者発表会の席上、こんなシーンがありました。
『ドラフト1位・入江は「自身で“ハマの〇〇”を付けるなら」という質問に、すかさず「この質問がくると思ったので考えておりました。“ハマの特攻隊長”でよろしくお願いします」と応じた』
~『スポニチアネックス』2020年12月8日配信記事 より
入江は自称「2000個の一発ギャグを持つ男」。なぜ「特攻隊長」にしたかという理由については……。
『(三浦)監督が“番長”なので、自分はちょっと下の“特攻隊長”あたりがいいかなと。“総長”になると超えちゃうので』
~『東スポWeb』2021年1月7日配信記事 より
この陽気さが、5日のお立ち台でも炸裂しました。プロ初勝利を記念して、2000個の「一発ギャグ」のうち1つを、ファンの前で披露したのです。
「地元(栃木)の大スターのものまねをします。初勝利遅くなってしまったんですけど、本当に『ごめんね、ごめんねー』」
~『日刊スポーツ』2022年5月5日配信記事 より
U字工事のギャグで締めてみせた入江。今季、入江の一発ギャグが何回聞けるかによって、ペナントレースの盛り上がりも大きく変わってきそうです。