新内眞衣と学ぶSDGs 「安全な水とトイレを世界中に」を“水のスペシャリスト”沖大幹教授と深掘り

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4月から新内眞衣がパーソナリティに就任したニッポン放送『SDGs MAGAZINE』。リニューアル第2回の放送では前回、新内が「一番興味がある」と話した、目標6「安全な水とトイレを世界中に」がテーマとなった。東京大学大学院工学系研究科に在籍し、水文学(すいもんがく)を専門とする沖大幹教授がゲスト出演し、世界の水問題を深掘りした。

新内眞衣、沖大幹教授

■水文学の専門家・沖教授が水問題を解説

WEBマガジン『SDGs MAGAZINE』と連動してSDGsへの“扉”を開くラジオ番組『SDGs MAGAZINE』は、4月の放送からリスタートを切った。今年2月に乃木坂46を卒業した新内眞衣がパーソナリティを務める同番組の第2回の放送でメインテーマとして扱われたのが、目標6「安全な水とトイレを世界中に」。今回は世界の水問題を学ぶべく、“水のスペシャリスト”として東京大学大学院工学系研究科の沖大幹教授がスタジオ出演した。

沖教授は、グローバルな水循環と世界の水資源へ気候変動が及ぼす影響や対策、持続可能性に関する研究などを行っており、研究の一つである「バーチャルウォーターを考慮した世界の水需給推計」では、第18回(2008年)日経地球環境技術賞を受賞。「水の世界地図」「国土の未来」「水をめぐる人と自然」「水の未来」など、さまざまな水に関する本の執筆や監修、解説にも携わっている。東京大学総長特別参与なども務める沖教授の専門が「水文学」。新内は「水文学というのは初めて聞くのですが、どういった学問なのでしょうか」と、その聞きなれない学問について質問を投げ掛けた。

沖 「天文学は、天の文学と書いて、天に関する森羅万象を扱う学問。人文学は、人に関するいろいろなこと、動き方であったり、考えであったり、文化であったりを勉強する学問。水文学は水に関する森羅万象を勉強する学問ということです」

新内 「なるほど。では、本当に“水のスペシャリスト”という感じですね」

沖 「主に、水の流れであったり、水と人の関係であったりを研究するのが水文学だと僕は思っています」

新内 「そもそも、何で水の研究をされようと思ったんですか」

沖 「ジャンケンで負けたからです……」

新内 「えっ! どういうことですか」

沖 「卒業論文の研究をするときに、いろいろなことをしたくて、僕は人間行動のニュートンの法則を探すんだと言って、そうした研究室に行きたかったんです。ただ、4、5人の定員のところに希望者が1人多くて」

新内 「まさか……」

沖 「はい。そのまさかで。ジャンケンで負けて、残ったところに行ったのが水文学の研究室だったんです」

新内 「それが、長い時間を経てスペシャリストになっているのですから人生って分からないですね」

沖 「分からないですね(笑)」

新内 「そこからは、水のことを研究されて、水のことが好きになったんですか」

沖 「もちろん、水なしに私たちは生きられないので、水が嫌いということはないんですけど、ちょうどそれこそ30、40年前はパソコンとか、当時で言えばマイコンとかが出てきたところ。そうした計算機で水の動きを研究できるのは面白いなと思っていました。ただ、水の研究をやっているうちに、世の中の問題を解決するには計算機とか自然科学だけではなく、人との関わりとか、みんなの気持ちとか、そういうものも大事だなと思うようになったんです。そこから、本日のお題であるSDGsにも関わるような研究をやるようになったという経緯です」

沖大幹教授

■沖教授とSDGsの関わり

新内 「沖先生のSDGsとのつながりはどういう感じですか」

沖 「SDGsの前にミレニアム開発目標(MDGs)というのがあったんです。それが2001年に定められて、2015年が目標年だったんです」

新内 「それは前回の放送で、(蟹江憲史先生に)教えていただきました」

沖 「そのミレニアム開発目標にある水の目標って、実は達成されたんです」

新内 「そうなんですか!」

沖 「安全な飲料水に持続的にアクセスできない人の割合を1990年から2015年までに半減させるという目標があるのですが、本当に達成されたんです」

新内 「すごい! それは、いろいろな協力があって達成された、ということですか」

沖 「協力もありますし、井戸を掘るような草の根の援助もあれば、大きな国が貯水池をつくって水道を敷設したという取り組みもありましたが、一番大きかったのはインド、中国。両国が、この期間に経済成長して一生懸命、水へのアクセスに投資をしたんです」

新内 「それで半減できた」

沖 「そうなんです。ただ、半減はしたのですが、新内さんがもし大統領だったら、もうちょっと頑張ればできそうな村と、とっても遠くてなかなか大変な村があったら、どちらから先にやりますか」

新内 「それは、どうしても近いところから、とりあえずと思ってしまいますよね」

沖 「そうですよね。ところが、本当に援助や開発が必要なのは遠くて、うまく地方自治もできていないような村なんです。最初から半減を目標にすると、そういうところは後回しになってしまう。そうした反省を基に、SDGsでは『誰一人取り残さない』となったんです」

新内 「なるほど。でも、それはすごく良くなった、良い目標になったけど、難しさもありますよね」

沖 「人によっては、無理そうだから最初からやらないとなってしまうのが難しいところですね」

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsだが、沖教授はその翌年、2016年10月に東京・青山にある国際連合大学の上級副学長に就任。国連の事務次長補も務める中で「SDGsを日本社会に広めよう」と、本格的にSDGsについての取り組みを始めたのだという。

沖 「政府とか、市民団体は割と熱心にSDGsをやろうとしているのだけれど、企業にもっと広めた方が良いかなと思ったので、企業の人たちと勉強会を立ち上げてやるようになりました。そこで、本格的にSDGsについて、いろいろ勉強しました」

新内 「確かに企業がやるとなると、私たち消費者にも届きやすい部分はあると思います」

沖 「そうですね。やはり、環境の問題であったり、社会をよくする話だったりって、つい慈善活動とか寄付とかに頼ろうとしてしまうのですが、それだと持続可能ではないですよね。企業が自分たちの利益のためにも、事業のためにもやるんだぞという仕組みをつくれないかなと思って、企業の人たちと勉強をしたんです」

新内 「それが可能になったら一石二鳥にも三鳥にも、四鳥にもなりますよね」

沖 「はい。そういう意味では、最近ESG投資(従来の財務情報だけでなく、環境Environment・社会Social・ガバナンスGovernance要素も考慮した投資のこと)が世界的なブームなので、それに乗ってSDGsに対しても会社が本気にならないと自分たちのビジネスに影響が出るぞ・・・と思うようになってきている気がします」

新内 「お話を聞く限り、いい循環が起こっているように思えますが、実際にはどのような取り組みがあるんですか」

沖 「例えばSDGsの中でも女性、ジェンダー問題(目標5「ジェンダー平等を実現しよう」)で女性をもっと雇用しよう、役員も3割は女性にしようと、最初は形から入ったところも、実際にそうしてみると確かに女性が入った方が多様な視点があって、うまく回るようになったという声はたくさん聞きます。形から入るのも大事かなと思います」

新内 「食わず嫌いではないですけど、とりあえず形から入るのは良いのかもしれないですね」

新内眞衣

■“水泥棒”もSDGs!?

そして、ここからが本題。今回の番組テーマである目標6「安全な水とトイレを世界中に」について、いよいよ深掘りしていく。

新内 「私的には、前回の放送の中で、SDGsの17の目標の中で特に気になったのがこの目標6でした。というのも以前、海外旅行に行った際に『日本を出ると、こんなにも安全な水とトイレが少ないのか』と実感して、すごく驚いたことがあったんです。世界には、どれくらい安全な水とトイレが普及しているのかなと思いまして、今回はそれを教えてもらいたいと思っていました」

沖 「いろいろな説があって、水道の蛇口からそのまま水を飲めるのは日本だけだとおっしゃる人もいます。先進国は一応、基準を満たしているので飲めるんですけど、もう文化的に飲まない。新内さんの世代は分からないかもしれませんが、僕らの世代は小学校の頃は校庭で遊んで喉が渇いたら蛇口からバーッと出してそのまま飲むのが普通でした」

新内 「飲みました、飲みました」

と、真面目な話題が続いていたところで、沖教授はいたずらっぽく「でも今は、ニッポン放送の水を盗んでいるとか……」と突然“新内弄り”。すると新内は大慌てで「違うんです。語弊があります!」と応じた。

実は、新内がニッポン放送関連会社のOL兼任時代、ニッポン放送に備え付けのウオーターサーバーから水を「拝借」したことがあり、それを見ていた周囲から「水泥棒」と突っ込まれていた経緯があるのだとか。もちろん、冗談を交えたやり取りだが、その情報をどこかから仕入れた沖教授の思わぬ突っ込みに、「まさか」と新内はたじたじ。ただ、そんなやり取りからSDGs的な話題を沖教授は展開。笑いながら「でも、そうやって水をもらうことって、良いことかもしれないですよ。その場その場で水を買わないで、みんなで水を共有するという仕組みが社会的にできれば、プラスチックゴミも減らしていけるかもしれないですから」と続けた。

新内 「そうですよね! なので、私も会社員として勤めている頃は、マイボトルを持参していました。マイボトルを持っていれば、ペットボトルを買おうとはならないですからね。そうしたことが普及していったら確かに良いですね。私、結果的に良いことをしていたということ……ですよね!」

沖 「良いと思いますよ。水くらいでガタガタ言うな、と」

新内 「いやいや、そんなに強く出たら怒られないですかね。ところで、沖先生的には目標6については、どう捉えていらっしゃいますか」

■目標6の「安全な水とトイレを世界中に」各ターゲット

6.1
2030年までに、全ての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ平等なアクセスを達成する。
6.2
2030年までに、全ての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。女性及び女子、並びに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を向ける。
6.3
2030年までに、汚染の減少、投棄廃絶と有害な化学物質や物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模での大幅な増加させることにより、水質を改善する。
6.4
2030年までに、全セクターにおいて水の利用効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足に悩む人々の数を大幅に減少させる。
6.5
2030年までに、国境を越えた適切な協力を含む、あらゆるレベルでの統合水資源管理を実施する。
6.6
2020年までに、山地、森林、湿地、河川、帯水層、湖沼などの水に関連する生態系の保護・回復を行う。
6.a
2030年までに、集水、海水淡水化、水の効率的利用、排水処理、リサイクル・再利用技術など、開発途上国における水と衛生分野での活動や計画を対象とした国際協力と能力構築支援を拡大する。
6.b
水と衛生に関わる分野の管理向上への地域コミュニティの参加を支援・強化する。

(日本ユニセフ協会が子どもにわかりやすく翻訳した、オリジナルの「子ども訳」が掲載されている『SDGs CLUB』版の目標はこちら

沖 「目標6は、水に関するいろいろな目標が下にいくつかターゲットとして並んでいるわけですけど、『6.1』や『6.2』はどちらかというと途上国の目標ですね。途上国で水がなかったら水を汲みにいかなくてはいけない。水を汲むのが子供の役目だったら学校に行けなかったり、主婦の役目だったらもっと生産的な仕事に就くなどの社会進出ができなかったりしますよね。そういう途上国のみんなの能力をどんどん高めていくことの阻害要因になっているのが、飲み水とトイレの問題。なので、それをまず確保しようということ。これ、大事ですよね」

新内 「『6.2』には屋外で用を足す人がいなくなるようにするということが書いてありますが、今どれくらいの割合の人が、そうした環境にあるのですか」

沖 「20億人くらいはまだ屋外排泄をしているのではないかという統計があります。世界人口は80億人弱ですが」

新内 「えっ、それは危険ですよね」

沖 「危険・・・良い着眼点ですね」

新内 「感染症とか」

沖 「感染症もそうですけど、襲われたりするわけですよ。考えてください。昼間だけではないんです。あとは、学校にちゃんとしたトイレがなかったら学校に行きたくなくなってしまいますよね」

新内 「確かにトイレって結構、大事かもしれないですね」

沖 「また、今のコロナ禍で、手をちゃんと洗えない病院というのが、実は世界の3分の1くらいあるというんです。消毒は保健衛生の基本。それも何とかしないといけない」

新内 「日本の達成率はどれくらいなのでしょうか」

沖 「日本は水道の普及率で98%です。2%残っていると心配になるかもしれませんが、これも簡易水道といって沢の水を細いパイプで引いてきて、活性炭で浄化して飲むみたいな施設があって、大体皆さんに行き届いている。世界全体だと90%くらいですね、まだ。しかも先進国と途上国、途上国の中でも都会と農村部の差が大きいんです。例えば、サハラ砂漠よりも南側のサブサハラ・アフリカ地域の国々や、オーストラリアとニュージーランド以外のオセアニアの島々が低いですね」

沖大幹教授

■水を一番使っている分野とは……「効率」の重要性

新内 「目標『6.4』には、『利用効率を大幅に改善』と書いてあるのですが、これは水があっても効率良く使えていないということなんですか」

沖 「そうですね。水を一番使っている分野って何だと思いますか」

新内 「イメージですけど工場とか」

沖 「工場よりも、もっと使っている分野があります。新内さんの普段の生活に、ものすごく密接なものにたくさん使っているんです」

新内 「何ですか? 飲食?」

沖 「食べ物をつくるのに一番水が使われているんです。世界中で消費されている水資源の9割は農業用水と推計されています。家庭では、どれくらいの水を使っていると思いますか。飲み水は1日2、3リットルくらいなのですが」

新内 「洗い物をしたり、お風呂に入ったり、もちろんお手洗いもありますけど。20リットルくらいでしょうか」

沖 「その10倍。1日200リットルくらい使っているんです」

新内 「そんなに!」

沖 「ところが、私たちが食べているものを毎日つくるのに、そのさらに10倍くらい。2、3000リットルの水を使ってできた食料を私たちは食べています」

そこで、新内が思い出したのが前回、“ミスターSDGs”ことSDGs研究の第一人者である慶應義塾大学大学院・蟹江憲史教授から教わった「バーチャルウォーター(仮想水)」という考え方。食料を輸入・消費している国において、輸入した食料を自国で生産する場合に必要と推定される水のことを表すもので、新内さんは「牛肉の話をしたときに初めて知ったんですけど、バーチャルウォーターというのが大きな割合を占めているということなんですね」とうなずいた。

沖 「私たちの暮らしの中で飲み水は2、3リットルで済むけれど、食料をつくるにはその1000倍の水を使っている。つまり、農業用水などをちょっと上手に節約できると、飲み水だけではなく、体を洗ったり、服を洗ったりする水も多く使えるようになるということです。だから農業用水などの水の使用効率をいかに上げるか、というのが大事な目標ということなんですね」

新内 「ただ、農業用水って節約して良いものなんですか」

沖 「いい質問ですね。節約すると面倒くさくなるんですよ」

新内 「手間がかかるということですか」

沖 「日本でも渇水になると農家の方々が番水といって一生懸命少ない水をお互い分け合います。それは、ものすごく手間がかかる。じゃんじゃん流している方が楽に食料をつくれるんですけど、足りないときはそうせざるを得ない。同じことが世界で起こっているんです。先進国と途上国の一番荒っぽい農業をやっているところを比べると、同じ面積当たりで収穫できる小麦などの量は10倍くらい違うといわれています一滴の水からできる食べ物の量も、それと同じくらい違うので、その効率を上げると水の節約にもなるし、食料もたくさん取れる。一石二鳥ですよね」

新内 「そのために『6.4』には『効率』という言葉が使われているんですね」

沖 「家での飲み水や工場の水だけではなく、農家の人たちもうまく上手に使ってねというのが、この『6.4』なんです」

新内眞衣

■水の権利はどこに? 河川の上下流問題

新内 「すごく勉強になりました。あと『6.5』には『国境を越えた適切な協力』とありますが、日本は島国なので、災害などが起こった時にどうするんだろうということは思います」

沖 「日本の中では、何かあったら給水車を送って助け合う仕組みができています。『6.5』は、世界で見ると例えば川の上下流の問題があります。メコン川は源流が中国にあり、その後にミャンマーやラオス、カンボジアなどを通って最後はベトナムで海に注ぐのですが、何カ国も通ると、上流で水を使いすぎて下流で使えなくなるということがあったり、上流でダムにためてしまうと下流に流れなくなるということがあったりします。これで、揉めるんです。ナイル川もそうだし、ドナウ川とかヨーロッパでも、川の水を巡る争いがあって、上流と下流って大体仲が悪い。そういうのを、みんなで上手に管理しましょうというのが『6.5』の心です」

新内 「勝手にダムで水を止めてしまっても、いいものなんですか」

沖 「下流の国は駄目と言うし、上流はうちの国の中にあるんだからいいと言うんです」

例えばエチオピアでは、ナイル川上流に水力発電用の「グランド・エチオピアン・ルネサンスダム」が建設され、今年2月から発電が始まった。ただ、ダムの下流にあるエジプト、スーダンの両国は、自国への水量減少を懸念して強く反発している。

沖 「水力発電は再生可能エネルギーだから環境にも良いかと思いきや、流れが変わってしまうこと自体、下流の国にとっては困ったことになるという問題もあります」

新内 「生態系とかに影響が」

沖 「おっしゃる通りです。やはり生態系って、洪水期には水量が増えて、渇水期には減るという自然のサイクルに合わせてできているんです。それが変わってしまうと、そこにいられる動物、植物が変わってしまう」

新内 「難しい問題なんですね」

目標6の一つ一つのターゲットについて沖教授に聞いた新内さん。多くの疑問点が解消された一方で、そこに潜む数々の問題に気付きを得た様子だった。番組の後半では今年4月23、24日に熊本で開催された第4回「アジア・太平洋水サミット」など具体的なトピックが取り上げられた。

番組情報

SDGs MAGAZINE

番組HP

ニッポン放送では毎月1回、SDGsの現状や課題、そして私たちにできることをわかりやすく紹介する特別番組「SDGs MAGAZINE」を放送しています。同番組はこの春リニューアルし、パーソナリティを新内眞衣が担当。ラジオ番組と運営中のWEBマガジンを通して、SDGsをともに考えていきます。

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