ついに重賞初挑戦! 驚異の新人女性騎手・今村聖奈の魅力

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は女性騎手タイ記録となる7週連続勝利を達成。7月3日、重賞に初騎乗する予定の新人ジョッキー・今村聖奈騎手と、近年その存在感を増している女性騎手にまつわるエピソードを紹介する。

ついに重賞初挑戦! 驚異の新人女性騎手・今村聖奈の魅力

【競馬阪神】6R、3歳未勝利 1着10番・モズブーナー、今村聖奈騎手 JRA通算15勝目&7週連続勝利で女性騎手最長記録更新=2022年6月19日 阪神競馬場 写真提供:産経新聞社

『馬の力で勝たせてもらったと思います』

~『日刊スポーツ』2022年6月19日配信記事 より

5月22日に5週連続勝利をマークして、JRA女性騎手のルーキーイヤー最多勝記録を22年ぶりに更新した話題の新人女性ジョッキー、今村聖奈・18歳。6月19日には1日2勝を挙げ、リサ・クロップ(ニュージーランド)が1994年に記録した女性騎手最長記録の6週連続勝利を塗り替える「7週連続勝利」をマークしました。

同時に、2019年に藤田菜七子が記録した「騎乗機会7週連続週勝利」にも並び、また通算勝利は16勝に到達。3月のデビューから16週で16勝ですから、週1ペースで勝っている計算になり、このまま行けば、藤田が4年目につくった女性騎手の年間最多勝記録・43勝を上回る可能性は十分あります。

しかし、いくら勝っても「馬のおかげ」と謙虚な姿勢を決して忘れないのが、今村の魅力です。さらにこんなコメントも。

『周りにおめでとうと言ってもらえるのはうれしいですし、ジョッキーとしての生きがいを感じることもありますが、現状で満足している場合ではないので、今まで通り精進していこうと思っています』

~『日刊スポーツ』2022年6月20日配信記事 より

女性騎手の記録だけでなく、武豊が持つ「新人騎手最長連続週勝利」(12週)の更新も期待されましたが、25日・26日は未勝利に終わり、残念ながら記録はストップしてしまいました。

しかし、この快進撃のおかげで、大きなご褒美が。今村は7月3日に行われるCBC賞(G3)に騎乗することになりました。騎乗馬は、五十嵐厩舎のテイエムスパーダ(牝3歳)。当初は所属する寺島厩舎の3勝馬・シホノレジーナ(牝5歳)に乗る予定でしたが、テイエムスパーダのハンデが48キロと軽くなり、主戦騎手が体重の関係で乗れなくなったため、今村にお鉢が回ってきました。重賞(G1~G3レース)にはこれが初挑戦となります。シホノレジーナには同じく新人ジョッキーの角田大河が乗ることになり、重賞での同期対決が早くも実現しました。

CBC賞はハンデ戦のレースです。今村にとっては自分の腕を試すまたとない機会。同期では、角田と並んで重賞出走一番乗り。もし勝てば、2019年12月に藤田がカペラステークス(G3)をコパノキッキングで制して以来、史上2人目の女性騎手によるJRA重賞制覇になります。

今村は、元JRA騎手・今村康成氏を父に持ち、趣味は「馬と触れ合うこと」。座右の銘は「人馬一体」と馬ひとすじ。異彩を放つのは、勝利への貪欲さです。7週連続勝利を達成した際も、その記録より大事なことがある、とコメントしました。

『そんなにここ(7週連続)に目標を置いていないですからね。たくさんいい馬に乗せていただいているし、取りこぼしの多いレースもたくさんあるので、意識している場合ではないです』

~『日刊スポーツ』2022年6月20日配信記事 より

いい馬に乗せてもらっている以上、しっかり勝ちきるのがジョッキーとしての義務……そんな矜持が窺えます。また従来の騎手像とはちょっと違う、こんな感受性を持ち合わせているのも、今村の魅力の1つ。JRA公式サイト掲載のインタビューで「競馬の魅力とは?」と聞かれ、今村はこう答えています。

『芝レースならではの独特な蹄の音、芝ダート問わずステッキの音、馬の鼻息、そして一頭の走りが物語のようにたくさんの方に夢と感動をあたえてくれるところです』

~JRA日本中央競馬会 今村聖奈騎手インタビューより

栗東トレセンでは、できる限り多くの馬に乗ろうと、時間があれば調教にまたがっている今村。自分に厳しく、強いハートを持って、先輩ジョッキーらに負けじと精進を重ねています。努力の甲斐あって、騎乗技術は新人離れしていると評判で、競馬界に頼もしいヒロインがまた誕生しました。

今村騎手に限らず、近年の女性ジョッキーの躍進ぶりには目を見張るものがあります。女性騎手初のJRA重賞ウィナーになった藤田菜七子をはじめ、今年2年目の古川奈穂は、昨年(2021年)3月のデビュー初勝利から4週連続勝利をマークし話題を集めました。

また古川と同期の永島まなみは、昨年7勝でしたが、2年目の今年は早くも6勝をマークし急成長。彼女たちの活躍ぶりは、馬券的にも無視できない存在になっています。

こうした快進撃の理由について、今村騎手自身は「減量制度」の恩恵もあると語っています。

『たくさんいい馬に乗せてもらっているおかげです。先輩方のおかげで4キロ減なども生まれ、昔とは違っていい環境でジョッキーができている。いつまでもリスペクトの気持ちは持ちたいと思っています』

~『日刊スポーツ』2022年5月20日配信記事 より

JRAは2019年3月から女性騎手限定の「減量特典」を制定しました。デビュー5年未満で通算50勝以下なら4キロ減、51勝~100勝は3キロ減でレースに出走できる他、5年以降も女性騎手は、恒久的に2キロ減の恩恵が与えられるようになりました。同じ実力なら女性騎手に乗ってもらおう、という陣営が増えることを狙っての措置です。

まだまだ男性中心の世界と言える競馬界全体ですが、それでも少しずつ女性にとって活躍しやすい環境に変化しつつあるのも事実。幼いころから競馬サークルで育った今村だからこそ「昔とは違って、いい環境でジョッキーができている」というコメントには、真実味があると言えるでしょう。

『記録を抜くことができたなら、後輩たちが抜けないと思うように圧倒したいと思います』

~『日刊スポーツ』2022年5月20日配信記事 より

まさに「新時代到来」を予感させる昨今の競馬界。スーパールーキー今村はもちろん、先駆者の藤田や、切磋琢磨を続ける古川・永島らデビュー2年目の若手たち。「女性騎手だから」注目されるのではなく、「勝てる騎手」として注目されたい、という思いが共通にあります。先輩の苦労を無駄にせず、自身に厳しくパフォーマンスを高めていく女性ジョッキーたちが、さらに輝く日が訪れることを願ってやみません。

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