ジャーナリストの佐々木俊尚が8月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸信夫前防衛大臣に関する捏造ツイートについて解説した。

外務・防衛閣僚協議（2プラス2）の初会合を終え、共同記者発表する岸信夫防衛相＝2022年4月9日午前11時56分、東京都港区の飯倉公館（代表撮影）　写真提供：産経新聞社

岸信夫前防衛大臣に関する捏造ツイート

飯田）岸信夫前防衛大臣がウクライナ軍を非難しているという捏造ツイートについて、ご意見を伺います。ウクライナのザポリージャ原発がロシア軍に制圧され、砲撃を受けている話が出ています。ロシアとウクライナの双方が「相手の攻撃だ」と非難している。これに対して、岸さんがウクライナを非難する内容をツイッターに書き込んだように装う、虚偽の投稿とその画像が出回りました。しかも、イギリスにあるロシア大使館の公式ツイッターがそれを紹介し、拡散されてしまいました。

佐々木）異様に幼稚なフェイクですよね。防衛大臣だった人が「アメリカの犯罪を繰り返すな！　きょうが人類最後の日かも知れない……」などとツイートするわけがないでしょう。こんなものに騙される人は誰もいないだろうと思ったら、そんなことはなくて、左派の著名な政治学者の先生がしっかり騙されて拡散し、みんなから叩かれていました。ロシアがこういうことをやっているというのは前から言われていて、一般的に「シャープパワー」と言われます。

「シャープパワー」　～言語的に難しく日本語での情報操作がしにくい

佐々木）政治学者のナイ氏によると、国の力には軍事力の「ハードパワー」と、戦後アメリカのハリウッド映画のような「ソフトパワー」があり、それに加えて最近は情報操作のような「シャープパワー」があると言われています。

飯田）ハードパワー、ソフトパワーに加えて。

佐々木）中国やロシアがよくやっていると言われているものの、日本は言語の問題があって、なかなか日本語で滑らかなツイートをするのは他国の人には難しい。今回のロシアのように、明らかに「この内容を前防衛大臣がツイートするわけがないだろう」という幼稚なツイートぐらいしかできないので、ここが日本のシャープパワーに対する砦になっていると言われていました。

「認知領域」　～偽情報の攻撃をAIで阻止する

佐々木）しかし先日、産経新聞が独自報道で記事を出しました。

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『＜独自＞防衛省「認知領域」を追加　来年度から　分析・発信態勢強化へ』

～『産経新聞』2022年8月16日配信記事　より

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佐々木）「認知領域」というのはよくわからないのですが、それがまさにシャープパワーのような情報操作に対応すると。

飯田）「偽情報の攻撃をAIで阻止するのだ」と。

佐々木）「SNS上の偽情報で、軍事上の関係があるものがないか調査・分析している」というような話もあって、こういう分野をそろそろ日本も考えなければいけなくなってきたということなのでしょう。

「認知領域」でロシアに先行しているウクライナ

飯田）そもそも宇宙・サイバー・電磁波などは新しい領域だと言われていました。それに加えて「認知領域」が出てきた。ある意味で情報操作と、それによって国際世論がつくられるような状況が、戦争にも影響してくるのですね。

佐々木）今回のウクライナ侵攻に関して言うと、ウクライナ側の方が明らかに「認知領域」で先行している。「ロシアの侵攻は酷い」という多くの国際世論を喚起したという意味では、ゼレンスキー大統領は素晴らしい。「認知領域」の勝利だったわけです。

飯田）そうですね。

佐々木）ウクライナの方に理があるからみんなが賛同したのですが、逆振れする可能性もあります。どこまで巧妙になるのか、想定するのが難しいです。例えば中国は「戦狼外交」と言って、攻撃的な世論をつくってきたのですが、あれをやると逆に引いてしまう。攻撃的にすればいいだけではなく、どうやって世論を引きつけるかという戦いが本格化してくるのだと思います。

AIの発達により、外交の戦略が変わる可能性も

飯田）かつてであれば、外交力や交渉力、発信力が大事だと言われました。AIが絡んでくると自国の言語であっても、それがなめらかに他国の言語になっていったりするわけですか？

佐々木）これだけ機械翻訳の精度が高まってくると、今後は十分に可能性がありますよね。

飯田）そうすると、外交の専門家の領域だったものが。

佐々木）密室で外交官同士でやっていたものが、拡大して国民全体を巻き込む。ある種、21世紀版の総動員体制になるのではないかという感じがします。

飯田）こういう分野の技術は進んでいくわけですよね。

佐々木）AIはすごいですからね。なめらかな文章、なめらかな絵画など、何でもできてしまうという時代です。どこまで人間が対抗できるのかという話ですよね。