台湾有事に備え、日本が対応しなくてはならない「喫緊の課題」

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ジャーナリストの有本香が8月16日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。台湾をめぐっての米中関係、また、日台関係の現状について解説した。

台湾有事に備え、日本が対応しなくてはならない「喫緊の課題」

中国人民解放軍東部戦区は4日、兵力を動員し、台湾島周辺海空域で空前の規模の実戦的合同演習訓練を実施し、予定の海域で長距離火力の実弾射撃に成功した。写真は東部戦区陸軍某旅団の遠距離火力分隊の発射場〔新華社=中国通信〕 中国通信/時事通信フォト

中国がアメリカ議員団の台湾訪問について反発、中国軍が実践的な軍事演習を実施

中国軍は8月15日、台湾周辺の海域と空域で軍事演習を行ったと発表した。演習はアメリカ議会の超党派議員団が台湾を訪問したことへの対抗措置だとしている。

飯田)14日夜に上院のエドワード・マーキー氏らが5人で台湾を訪問しました。蔡英文さんとも会ったということです。2日にはペロシ下院議長の訪台があり、矢継ぎ早ですね。

米議会の超党派議員団が訪台した2つの理由

有本)アメリカは2018年1月に、上下両院で「台湾旅行法」という法律を成立させています。そのあとすぐに、当時のトランプ大統領が署名・発効しているわけです。

飯田)台湾旅行法を。

有本)この法律は、あらゆるレベルのアメリカ当局者が台湾へ渡航し、向こうもハイレベルな人を含めて会談することを促す内容なのです。「もう遠慮しないよ」ということをわざわざ法律で決めているわけです。

飯田)中国に対して。

有本)それを実践しているにすぎません。そのあと、しばらくしてコロナ禍になりましたから、あまり旅行するという環境ではなくなったわけですが。

飯田)そうですね。

有本)それと、ペロシさんの訪台については、卒業旅行的な意味合いもあったかなと思わざるを得ないのだけれど、ペロシさんが台湾に行ったことについてマイナスのポイントがあるとすると、マレーシアから飛んだときに南シナ海を避けたでしょう。あれは、中国側が「南シナ海は全部私たちのものだ」と言っている、「中国の赤い舌」という主張ですが、それをまるで裏づけたような格好になってしまいました。

飯田)認めたような。

有本)そういうことをある意味打ち消すような形で、次々とアメリカの議員たちが行く。これから役がついている人たち、つまり政府当局者も行くのだという話になってくると、それが当たり前だという方向にしていこうという流れですから、いいことだと思います。

日本にも「台湾旅行法」をつくるべき ~中国の脅威とどのように向き合うか、台湾とのディスカッションも必要

有本)一方、気になるのは日本の動きです。台湾側からも日本に対して、台湾旅行法を何とか成立させてくれないかという要望があるのです。アメリカが台湾旅行法を成立させた2018年から、日台の交流をもっと高めていくべきだと考えている私たち民間人は、国会議員に「台湾旅行法を日本でもつくるべきではないですか」という投げかけをしています。日本の議員側に全然その気はないわけだけれども。

飯田)日本にもつくるべきだと。

有本)台湾側からもそういう要望が出ていて、台湾の国会議員がこちらに来たとき、日本の日華議員懇談会(日華懇)に要望しているのです。割と最近ですけれども。ところが、日華懇側は「いまも交流できているからいいのでは」というような感じで、一種の摩擦を避けるような姿勢になってしまい、台湾側はがっかりしているという話です。

飯田)中国を配慮して。

有本)日本は主権国家として、特にいまの環境のなかで台湾側といろいろな人的交流を行い、お互いに同じような体制の国として「中国の脅威とどのように向き合っていくか」というディスカッションもしなければならないわけです。

飯田)必要です。

有本)あるいは国と国同士、正式な国交がないということになっているけれど、日台漁業協定のように、お互いにルールをつくることによって、お互いの利益を守っていかなければならない部分もあるわけです。議員連盟があるのなら、「人的交流を可能にする法律をつくろう」というのがその役割だと思います。なぜ「ことなかれ主義」に陥ってしまうのかなと、本当に残念に思います。

台湾有事に備え、日本が対応しなくてはならない「喫緊の課題」

台湾の双十節(建国記念日)祝賀式典で演説する蔡英文総統=2021年10月10日、台北(中央通信社=共同) 写真提供:共同通信社

日本の議員団が台湾を訪問しても突っ込んだディスカッションをしない ~何のための議員団なのか

飯田)実務的な協議をすることになると、政府関係者、通常は官僚が行かなければいけない。ただ、政治がそういうスタンスでいると、官僚たちは当然ながら「行ったら怒られるな」と思うと行けないですよね。

有本)そこを見てしまいますからね。特に議連があると、官僚は顔色を見てしまうのです。何のための議連なのか、何のための台湾派なのかということになりますから、本当にそこは仕事をして欲しいなと思います。

飯田)大使館に相当する協会の施設があって、そこに各省庁から民間出向の形で現役が行くのですが、防衛省に関しては、いままでOBの人たちが行っていた。今回、ようやく滑り込みですけれども、現役の人が行けるようになりましたが、随分時間が掛かりました。

有本)必要があって言っている話なのです。台湾有事はもう既に起きていると言ってもいい状況ではないですか。

飯田)そうですね。

有本)本当にエスカレートしてきたとき、邦人保護をどうするのかも含めて話し合わなければいけない、決めなければいけないことはたくさんあるのです。いままで議員交流が行われてきたのですが、これも例えば日本から議員が行く。ついこの間も行かれましたけれども。

飯田)議員団が行きましたね。石破さんが団長で。

有本)コロナ禍の前は、私も台湾によく行っていました。向こうの国会議員や与党・民進党の関係者と話をすると、「(日本の議員団が)来ても、直近の問題に関する突っ込んだディスカッションが全然できない」と言っているのです。

飯田)議員交流という形でやっているけれども、実質的な実りのあるところに至っているのか疑問だと。

有本)台湾側は少なくとも内心不満に思っていますよ。日本の議員が台湾に来ても、表敬訪問のように蔡英文総統と握手して記念写真を撮るというところに重きが置かれてしまい、政策的に突っ込んだ議論ができないと。特に現在の環境から考えると、台湾有事が始まっているようなものなのです。

台湾有事の際、台湾在住の日本人をどのように救出するのか ~台湾側と日本側で調整しなければならないことがたくさんある

飯田)先日のペロシさんの訪台後、中国の軍事演習では、日本の排他的経済水域(EEZ)にもミサイルが5発撃ち込まれています。

有本)亡くなった安倍元総理がおっしゃったように、まさに台湾有事は日本有事だということが証明されてしまっているのです。日本に向けてミサイルを撃っているわけですから。そういうことから考えると、台湾側と日本側で調整しなければいけないことは山ほどあります。

飯田)台湾と日本が。

有本)少なくとも実務を行う、例えばハイレベルな官僚が台湾に行くことに足枷を設けないようにしないと、台湾にいる日本人をいざというときにどう救出するのか、保護するのかさえも道筋が見えません。

飯田)すべて現場レベルで対策、調整しておかないといけない。もしも国と国とのやりとりを正式にできるのであれば、ここまで緊張感が高まってくると、それこそ2プラス2までやらなければいけないことになってくる。

中国が台湾に激しく反応するのは「台湾は国である」ことを自ら証明している

有本)中国がここまで激しく反応している状況を見ると、裏返しで「台湾は国だ」ということではないですか。

飯田)武力を使って対応しないと、他の方法では難しいということを、彼ら自身が……。

有本)証明してしまっていますよね。

飯田)そうですよね。占領したあと再教育するということを、オフィシャルに話す中国の高級官僚がいます。

有本)つまり別の国だということを、むしろ中国側が自ら証明してしまっているという状況です。

日本のEEZに中国のミサイルが着弾していることへの緊張感がない岸田内閣

有本)そのなかで日本側が考えなければいけないのは、「ただひたすら中国を刺激しないように」といういままでのことなかれ主義では、台湾海峡の状況がエスカレートしたときに、日本人の命を守れない。それから、日本も「台湾有事」といままで言ってきたけれども、日本のEEZに中国のミサイルが着弾しています。これに対する緊張感がまったくありません。

飯田)内閣改造が成立しましたが、外務大臣は留任で林芳正さん、防衛大臣は浜田靖一さんに変わったと。この辺りがどう仕事をしていくかですよね。

有本)仄聞するところでは、安倍元総理の国葬儀があります。そのあとに、どうも林大臣の頭のなかにあるのは、日中国交正常化50周年についてなのではないかということです。

飯田)国葬儀の2日後、9月29日が日中国交正常化50周年です。

有本)それが大事だというお考えだ、というような話を仄聞するのですけれども。

飯田)きょう(16日)の新聞報道では、「もう中国国内で反日感情が強まっている」という記事が載っています。

有本)岸田改造内閣には、はっきり問いただしたいのですが、一方では日本の中小企業が外に出ていくのを応援しようということもいまさら言い始めている。それよりも、「中国から戻りたくても戻れない人たちを何とか戻してあげましょう」というような局面ですよね。本当にちぐはぐになっています。

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