「11勝+30発」達成 大谷が次に目指す「前人未踏の大偉業」
公開: 更新:
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、9月1日のヤンキース戦で30号本塁打を放ったエンゼルス・大谷翔平選手にまつわるエピソードを紹介する。
大谷翔平が、またまた新たな“伝説”をつくりました。8月30日(日本時間、以下同様)から本拠地アナハイムで行われた、今季(2022年)最後のヤンキースとの3連戦。目下、ア・リーグMVPを争う2人、2年連続受賞が懸かる大谷と、本塁打王レースを独走するヤンキースの主砲、アーロン・ジャッジの直接対決とあってチケットは完売。4万5000人近い観衆がスタジアムに詰めかけ、満員御礼となりました。
初戦は、2-2の同点で迎えた5回、大谷が右翼スタンドへ2試合連続の29号2ランを放ちます。ジャッジも負けじと8回に50号ソロを放ちますが、大谷の一発が決勝打となり、エンゼルスが4-3で勝って4連勝。ヒーローの大谷は、試合後MVP争いについて聞かれ、こう答えています。
『1シーズン、プレーしてきたのが、そういう形になるというのはプレーヤーとしては大事なことだとは思うので、まずはこのペースでしっかり出続けることが一番(大事)かなと思ってます』
~『日刊スポーツ』2022年8月30日配信記事 より
「無事これ名馬」と言いますが、夏場はただでさえ疲れがたまる時期。特に投打二刀流の大谷は、疲労も他の選手の倍近いはず。なのに淡々と試合に出続け、こともなげに結果を出してしまう。そのタフネスぶりには舌を巻くばかりです。
翌31日の第2戦は、大谷は二塁打を含む2安打を放ちますが本塁打は出ず、かたやジャッジは4回、2試合連続の51号3ランを叩き込みます。試合は4-7でエンゼルスが敗れ、これで1勝1敗のタイとなりました。
第3戦は、ヤンキースが5回に2点を先制しますが、6回、大谷は1死一・二塁のチャンスから、逆転の30号3ラン! 沸き上がるスタンド。試合はエンゼルスがそのまま逃げ切り、2勝1敗と勝ち越しました。
この3連戦、2発打ったジャッジもさすがですが、大谷も2発。しかも2本とも決勝アーチです。ライバルとの直接対決という見せ場で、これだけのことをやってのける。アナハイムの観客は大満足したのではないでしょうか。
またこの30号で、大谷は「2年連続30本塁打」を達成。松井秀喜も、シーズン最高は2004年に放った31本で、30本を超えたのはこの年だけです。「30発は最低限のノルマ」と言わんばかりに軽々と達成してしまった大谷。もう脱帽する他ありません。
ところでこのMVP争い、エンゼルス3連戦を終えた時点で、ジャッジの成績は打率.296、51本塁打、113打点。本塁打は独走、打点もトップの2冠王です。ジャッジはさらに、ロジャー・マリスが持つ球団記録「シーズン61本塁打」の更新に迫り、達成すれば61年ぶりの快挙になります。
ヤンキースは9月1日現在、ア・リーグ東地区首位を快走。かたやエンゼルスは西地区4位。大谷は今季何度もチームを勝利に導いていますが、ポストシーズン出場は絶望的な状況です。ジャッジはプレーオフでも活躍しそうで、この点は彼にとって大きなポイントとなります。
とはいえ、大谷が成し遂げた「ベーブ・ルース以来、104年ぶりの2ケタ勝利+2ケタ本塁打」には強烈なインパクトがあるのもまた事実。2人の最終成績がどうなるかにもよりますが、いずれにせよ今回は、大谷が満票でMVPに輝いた昨シーズンと違って、侃侃諤諤の大論争が起こることは間違いないでしょう。
この争いについて、米ESPNのヤンキース担当、マーリー・リベラ記者はこのように語っています。
『大谷とジャッジは非常に似ている。どちらもチームの勝ちを意識していて、個人の数字には興味がない。そういう2選手のMVPレースを見るのは、すごく面白い』
~『日刊スポーツ』2022年8月30日配信記事 より
本当にそのとおりで、大谷の出場試合を観ていると、彼が個人記録よりも、まず第一にチームの勝利を願ってプレーしているのが伝わってきます。ジャッジも同様。さらにリベラ記者はこんなことも語っています。
『今年に関して、大谷は(投打の)数字がものすごいというわけではない。去年は、とにかくものすごかった。(投打で)全ての数字がよければ彼がMVPだが、今年はそうではない。ただ、それは(彼にとって)不公平なこと。大谷のやっていることは、誰もやってきていないこと。だから、比較のしようがない』
~『日刊スポーツ』2022年8月30日配信記事 より
「11勝」も「30本塁打」も、それだけを見るとリーグトップの数字ではありませんが、そもそも1人の選手が、同じシーズンに投打両方において一流の成績を収めるなどということは、本来あり得ないことなのです。ジャッジの成績のすごさとはまた「次元が別」で、「比較のしようがないこと自体がMVPに値する」という意見もまた一理あります。
二刀流に関して、大谷が今季達成しそうなもう1つの偉業があります。それは「同一シーズンに、規定打席と規定投球回の両方に到達する」こと。これは1901年にメジャーが2リーグ制になって以降、達成者は皆無であり、もっと大きく取り上げられるべき大偉業です。
規定打席到達は、シーズンを通じて大きな故障やスランプに見舞われることなく、野手としてレギュラーを張った証しでもあります。また規定投球回到達も、シーズンを通じてローテーションを守り続けた証し。同一シーズンに両方到達するということは「投打両方で、1年を通じてチームの勝利に貢献したい」という大谷の理想が叶ったことを意味します。これこそ真の「二刀流完成」と言えるのではないでしょうか。
大谷は、規定打席(メジャーは502打席)にはすでに到達していますので、あとは規定投球回(162回)到達のみ。前回登板のブルージェイズ戦を終えた時点で、大谷の投球回は「128回」で、あと34イニング投げれば到達します。
大谷の次回登板は日本時間の9月4日、アストロズ戦の予定で、大谷は今季あと6試合登板する見込みです。1試合平均6イニング投げれば到達しますが、早いイニングで降板すると難しくなるかも……。エンゼルス首脳陣は全面的にバックアップする方針で、回数が少し不足した場合は、どこかで大谷をリリーフ起用するかも知れません。果たして、もう1つの大偉業達成なるか? 注目です。
なお大谷は、投手にとって最大の栄誉であるサイ・ヤング賞の候補にも挙がっています。こちらも規定投球回に到達すれば、残り6試合の成績によっては受賞の可能性も出てきます。ポストシーズンに出場しなくても、MVPの件や、また再燃するであろうトレード話も含め、大谷はオフも“主役”の座をキープしそうです。
この記事の画像(全1枚)