引退、嶋基宏 野村克也・星野仙一両監督から学んだ「これからのこと」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、今シーズン限りで現役を引退する東京ヤクルトスワローズ・嶋基宏選手にまつわるエピソードを紹介する。

【プロ野球ヤクルト】引退会見でこれまでを振り返るヤクルト・嶋基宏=2022年9月28日 神宮球場 写真提供:産経新聞社

2022年のプロ野球ペナントレース最終戦となった10月3日、ヤクルト対DeNA。この試合では村上宗隆の“王貞治超え”56号アーチが生まれ、試合後にはヤクルトの内川聖一(40)、坂口智隆(38)、そして嶋基宏(37)ら一時代を築いた男たちの引退セレモニーも行われるという、野球ファンにとって豪華な一夜となった。

さらに、引退選手たちを見守る顔ぶれも豪華。内川に花束を渡したのは、ソフトバンクでともに何度も日本一に輝いた工藤公康前監督。坂口にはオリックスとヤクルトでチームメイトだった近藤一樹。そして嶋には楽天時代の盟友で2006年ドラフト同期、ともに最優秀バッテリーも受賞した田中将大がそれぞれサプライズで登場。花束を贈って神宮球場を大いに盛り上げてくれた。

その田中は嶋が引退を表明した直後、こんなコメントも残している。

『年下の僕ですけど、一緒になってバッテリーとして成長していけたと思います。日本一になれたことや連勝記録も嶋さんと組んで成し遂げられたことですし、最優秀バッテリー賞を取れたことも思い出です』

~『サンスポ』2022年9月28日配信記事 より

「一緒になって成長していけた」と振り返る田中。一方の嶋も、自身の引退スピーチにおいて、プロ入り以降の「成長」について語っていたのが印象的だった。

『プロに入って楽天で13年、ヤクルトに来て3年、楽天の13年間では考えて野球をすること、相手に向かっていく闘争心、捕手のいろはを学ばせていただきました。それが正しいのか、考えながらやったこのヤクルトの3年間であり、3年のうちに2度もリーグ優勝することができました』

~『日刊スポーツ』2022年10月4日配信記事 より

「考えて野球をすること」……これこそが嶋基宏を一流の捕手に押し上げた大きな要素であるだろう。

引退セレモニーで嶋自身も引用した東日本大震災時の名スピーチも、もともとはNPBが用意した文面をしゃべるだけの予定で、渡されたスピーチ用原稿にはあの名文句「見せましょう、野球の底力を!」はなかったという。それどころか、「被災者がんばれ」という“外からの目線”が目立つ内容だったことに違和感を覚えた嶋と球団広報が「被災地球団として語るべき言葉は何か?」と何時間も熟慮を重ねた末に生まれたスピーチだった。自ら考え、行動できる男が絞り出した言葉だったからこそ、嶋の言葉は野球界とファンを結束させるきっかけとなったのだ。

そんな「考えて行動をする男」嶋も、楽天に入団する以前の言葉には、思考停止かな? と思わせるものもあった。遡ることプロ入り前の2006年、大学球界で注目の捕手だった嶋(※当時、國學院大)に対し、当時まだ高校生だった田中将大(※当時、駒大苫小牧高)をどう評価するかを尋ねた貴重な証言がある。

『自分だったら、配球や試合を作るという面ではリードしにくいなっていう感じがします。今は高校レベルなんで、甘いところにいっても打ち損じてくれてますけど、あれが大学やプロだったら無理なんじゃないかな…』

~『野球小僧 2006年10月号』より

大学生から見た高校球児なのだから、粗さも目立った部分はあるだろう。それでも、「無理なんじゃないか」と結論を早急に出そうとしていた点からは、プロではグラウンドのなかでも外でも熟慮を重ねる姿が印象的だった嶋とは大きく異なる印象を受けてしまう。

そんな嶋を変えてくれたのは、野村克也と星野仙一、プロ野球で出会った2人の恩師だ。嶋自身、「野村さんからは配球面を含め、社会人としての心構えを学んだ」、「星野さんからはリーダーシップと闘争心を学んだ」と折に触れて語っている。それを知っているからこそ、ヤクルト・高津監督は引退する嶋に向けて次の言葉を贈ったのだ。

『星野監督も野村監督も今、天国であなたに拍手を送っていると思います。みんな見てましたよ、あなたの底力を。本当にお疲れ様でした』

~『デイリースポーツonline』2022年10月4日配信記事 より

野村・星野両監督の指導がまさに結実したと言えるのは、田中将大とともに最優秀バッテリーに輝いた2011年と2013年シーズンだ。ここで注目したいのは田中が24勝0敗1セーブという神がかり的な成績を残した2013年よりも、2011年について。

2011年の田中も19勝5敗、防御率1.27という圧巻の数字で最多勝、最優秀防御率、最高勝率のタイトルに輝くとともに、沢村賞も受賞。ただ、その内訳を見ていくと、19勝のうち「田中・嶋」のバッテリーでは「18勝2敗、防御率0.98」と好成績を残した一方、他のキャッチャーとのコンビでは5試合で「1勝3敗、防御率2.57」。嶋が田中の長所を引き出していた、とも言える。

大学生の嶋が「リードしにくい」と感じていた田中との間で見せた、最高のバッテリー像。それは田中将大の成長だけでなく、嶋基宏の成長があったからこそ。そんな嶋を導いてくれた野村・星野両監督に学んだこととして、島はこんな言葉も残している。

『野村監督、星野監督にも「野球人である前に1人の人間であれ」と教えられてきました。星野監督からは常々「プロ野球選手としていられる時間はとても短い。野球から離れた後の人生の方がうんと長い。自分から野球がなくなった時に、お前がどういう人間でいられるかが大事だ」と言われました』

~『トウシル』2018年5月24日配信記事 より

まさに、現役選手としての野球から離れる時がきた嶋基宏。彼がこれからどんな考えのもと、どんな行動を示していくのかもまた、新たな楽しみと言える。

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