話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、2年連続での日本シリーズ進出を決めたオリックス・バファローズのリリーフ投手陣にまつわるエピソードを紹介する。
ペナントレース最終戦での逆転優勝も劇的なら、クライマックスシリーズ(CS)ファイナルの決着もまた劇的。オリックス・バファローズの3勝、ソフトバンクの1勝で迎えたCSファイナル第4戦。2対2の同点で迎えた9回裏2死二、三塁の場面、オリックスの中川圭太がソフトバンクのモイネロからレフト前へサヨナラヒットを放ち、2年連続での日本シリーズ進出を決めた。
CSファイナルMVPは4試合で13打数6安打の打率4割6分2厘、2本塁打3打点と大当たりだった吉田正尚が受賞。ただ、投手陣でも健闘を讃えたい2人のリリーバーがいる。ともに入団2年目、セットアッパーの宇田川優希23歳と、新クローザーの阿部翔太29歳だ。
CSファイナルではともに1点差勝負となった第2戦と第4戦に登板し、宇田川は2ホールド。阿部は1勝1セーブと勝利に貢献。特に日本シリーズ進出を決めた第4戦では、2番手でマウンドに上がった宇田川が2イニングをパーフェクトリリーフ。そして、9回のマウンドに立った阿部はヒット1本を許したものの、柳田、デスパイネの大砲2人を抑える見事なリリーフ。その裏のサヨナラ打を呼び込んだ。
このCSファイナルだけでなく、オリックス奇跡の逆転優勝にも、今季途中から一気に飛躍した宇田川と阿部の活躍は欠かせないものだった。優勝が決まった最終戦の勝利投手が宇田川、セーブが阿部だったことはその象徴的な結果とも言える。
そしてこの一戦に限らず、宇田川は8月3日のプロ初登板以降、ペナントレースでは19試合に投げて2勝1敗、防御率0.81。一方の阿部は、主に中継ぎで44試合に登板し、1勝0敗22ホールド3セーブで、防御率は0.61。ともに防御率0点台の脅威の安定感で投手陣を支えたのだ。
これほどの活躍を見せた2人が、2020年ドラフトでは宇田川が育成3位。阿部は支配下最後の6位と低い順位だったことが驚きであり、野球の面白さだ。
といっても、宇田川は1位候補にも挙げられていた逸材であり、大学最後の秋の評価が悪かったため育成指名に。阿部も社会人野球の強豪・日本生命で長年に渡って安定感のある投球を見せながらドラフト指名の機会に恵まれず、入団時28歳という年齢面から順位を下げてしまった。それでも指名を決断したオリックス編成の決断力に感服するばかりだ。
ドラフト時の低評価。入団1年目の昨シーズン(2021年)はまったくいいところなし。そこからの防御率0点台男への飛躍……という共通項がある宇田川と阿部。彼らにはもう1つの共通項がある。リリーフ陣のリーダー、平野佳寿から教えを受けた「フォークの使い方・活かし方」が飛躍のきっかけになっていたことだ。
宇田川は、フォークを武器にメジャーでも活躍した平野のピッチングを見て、投球に幅が生まれたと、こんな言葉を残している。
『ファームの時はフォークを決め球としてしか使っていなかったんですが、平野さんのピッチングを見て、フォークもカウント球として使えるんだと思った。フォークも高めから落としてとかいろいろ考えて、そうしたら投球フォームが固まった』
~『BASEBALL KING』2022年10月5日配信記事 より
一方の阿部は、19試合連続無失点が途切れた7月中旬、ロッカールームで平野からこんなアドバイスをもらい、やはり投球の幅を広げることができたのだ。
『アベちゃん、1つアドバイス出来ることは、フォーク中心なら行き詰まる時が来る。しんどくなる時が絶対に来るから、ストレートの量を増やしてみたら』
~『BASEBALL KING』2022年10月11日配信記事 より(阿部翔太への平野佳寿の言葉)
このアドバイスをきっかけに、8月以降また快投を続けた阿部。シーズン終盤はそんな“恩師”平野に代わってクローザーを務めることも増え、「史上最高齢の新人王候補」と言われるまでに飛躍を遂げたのだ。
そしていよいよ迎える、2年連続同一カードとなったヤクルトとの日本シリーズ。歴代屈指の名勝負とも言われた昨年は、結果的に2勝4敗でオリックスが惜敗。その1年前といまを比べて最も違うのは、リリーフ陣に頼りになる宇田川と阿部がいることだ。そして、経験値の少ない彼らを平野佳寿がいかに支えるのかも見どころと言える。
今年もまた名勝負だらけの日本シリーズになるかどうか。オリックス新・勝利の方程式が導く結末に注目したい。