あのオールブラックスに惜敗 ポジション争いも激化するラグビー日本代表のさらなる可能性

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、オールブラックス相手に激闘を演じたラグビー日本代表にまつわるエピソードを紹介する。

あのオールブラックスに惜敗 ポジション争いも激化するラグビー日本代表のさらなる可能性

【ラグビー リポビタンDチャレンジカップ 日本代表対ニュージーランド代表 】後半、ワーナー・ディアンズ(4)がトライを決めて歓喜する流大(中央)ら日本代表の選手たち=2022年10月29日 国立競技場 写真提供:産経新聞社

W杯優勝3回を誇る“世界のオールブラックス”を相手に、あと7点! 10月29日、満員(6万5188人)の国立競技場で行われたラグビー日本代表vs.ラグビー王国ニュージーランド、通称「オールブラックス」の一戦は、31対38で惜敗。ただ、敗れたとはいえ日本ラグビー史に残る大激闘となった。

過去の対戦成績は6戦全敗。1995年のW杯南アフリカ大会では17対145という歴史的大敗を喫した相手だ。日本も2015年W杯で世界的強豪の南アフリカを撃破する「世紀の番狂わせ」を起こすなど、ここ10年で着実に力を付けてきたとはいえ、2018年の対戦でも過去最多1試合5トライを奪う健闘を見せたものの31対69とダブルスコア。まだまだ力の差は歴然だった。

それが今回、得点数は変わらないまま、失点は30点以上減少。オールブラックスが代表歴の浅い選手を多く起用したことを差し引いても、来年(2023年)のW杯フランス大会へ向け、ますます楽しみが増えたと言える。

もちろん、試合前から期待値もあった。

今年(2022年)6~7月の日本代表シリーズでは、世界ランキングでオールブラックスと競り合うフランスを相手に15対20と5点差の惜敗。そして、このときコンディション不良などで不参加だった姫野和樹、松島幸太朗、流大、中村亮土といった2019年W杯で初の決勝トーナメント進出を果たした主力選手たちが揃って日本代表に復帰。ほぼベストメンバーに近い陣容で迎えた一戦で、まさに期待以上の戦いぶりだったと言える。

また、敗れたとはいえ頼もしく感じたのは、試合後の日本の選手たちが本気で悔しがっていたことだ。試合終盤にトライを決め、倒れた相手からボールを奪う得意の「ジャッカル」も見せた姫野はこんなコメントを残している。

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「悔しい。勝てた試合だった。僕らは『惜しい』で満足するチームじゃないので」

~『サンスポ』2022年10月30日配信記事 より

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そしてもう1つ頼もしく感じたのは、おなじみの代表メンバー以外の新戦力も奮闘してくれたこと。日本はオールブラックス相手にチーム内競争を高める戦いまでできるようになったのだ。ベストメンバーで臨んでも惨敗を喫してきた歴史を知るからこそ、隔世の感がある。

象徴的だったのは9番(スクラムハーフ)と10番(スタンドオフ)のハーフバックス陣だ。

9番スクラムハーフのスタメンは、前回W杯でも全試合スタメンだった東京サントリーサンゴリアス(東京SG)の流大(30歳)。この試合でも前半に貴重なトライを決めるなど確かな存在感を発揮しながら、後半22分、同じ東京SGの後輩、齋藤直人(25歳)と交代した。

出場時間の差があるとは言え、この試合だけの出来でいえば流のほうが評価は高いはず。それでもフランス大会へ向けてチーム力を高めるため、齋藤のさらなる奮起を期待してメンバー交代を決めたのだろう。

齋藤は早稲田大学時代にキャプテンとして母校を11年ぶりの大学日本一に導いた逸材。流が不在だった6~7月の日本代表シリーズでは2試合で先発に名を連ね、所属先の東京SGでもこの9月から新キャプテンに就任した若手代表格だ。

とにかく「9番」へのモチベーションが高く、1年前のインタビューで「目指していることは?」と質問されると、こんなコメントを返していた。

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『まずは2023年のフランスワールドカップに、9番で出場することが目標です。近いところで言うと、秋のテストマッチシーズンでも日本代表に選ばれて、9番で出たいです。サントリーでも9番を着て試合に出たいですね』

~東京サントリーサンゴリアス公式サイト 2021年8月6日掲載記事 より

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日本代表「9番」の座を流大から奪って先発出場するため、あえて流のいる東京SGに入団。日々の練習で、そして試合のなかで流を超えていこうという高い意識を持ってプレーしている。

もちろん、ベテラン流も負けるわけにはいかない。

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『W杯で、自分の日本代表としてのキャリアの最後はいい成績で締めたい』

~『スポーツ報知』2022年9月6日配信記事 より(流大の言葉)

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出場するのは当たり前。さらにどんな成績を残せるか、という高い目標意識を定めているのが何とも頼もしい限りだ。

そしてチームの司令塔である10番・スタンドオフはさらに激戦区。前回W杯の代表メンバーだった松田力也(埼玉)の負傷離脱が続くなか、代わってスタメンに選ばれたのは同じ埼玉の山沢拓也(28歳)だ。中学までサッカー少年だったことから「ファンタジスタ」の異名を持ち、所属先の埼玉ではケガの松田に代わって司令塔に抜擢されると、チームをリーグワン初代王者へ牽引。その活躍が評価され、6~7月シリーズで5年ぶりに日本代表への復帰を果たした。

今回のオールブラックス戦でも、まさにサッカーのドリブルのようなキックでボールを操って日本の初トライを決めると、PGを含むゴールキック3本もすべて成功させ、チーム最多の12得点。まさに大健闘の立役者といえる活躍ぶりながら、後半9分に21歳の李承信(神戸)と交代。李もリーグワン初年度に得点ランキングで4位につけた攻撃力を武器に、この試合でも2本のゴールを決めて代表争いに向けてアピールを果たした。

前回W杯ではレギュラーメンバーが固定され、消耗しきって決勝トーナメントに挑んだため、そこから先に進めなかった。あれから3年。オールブラックスを相手に、若手選手たちのレギュラー争いも激しさをますいまの姿は、チーム全体で強化が進んでいる何よりの証と言える。

11月にもヨーロッパ遠征で世界ランク5位のイングランド代表、そして世界ランク2位のフランス代表との試合が控えている。結果はもちろん、誰がどんなアピールをするのか。ラグビーが楽しい季節はいよいよこれからだ。

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