「容疑者日本送還」報道一色に頭を痛めるフィリピン政府の「苦悩」
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産経新聞の森浩シンガポール支局長が2月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。広域強盗事件に絡んだ容疑者のフィリピンからの送還について現地の状況を語った。
司法手続きの棄却は認められず、2人が先行送還か
フィリピンのレムリヤ司法大臣は、日本が広域強盗事件に絡み強制送還を求めている4人の容疑者のうち、2人を先行して送還する可能性があると述べた。マニラの裁判所で2月2日午前に開かれた容疑者2人の刑事裁判が即日棄却にならず、7日に再び審理を行うことになったことが影響したとみられる。現地ではどのように報道されているのか、マニラで取材中の産経新聞・森浩シンガポール支局長に話を伺う。
飯田)広域強盗事件に絡み、日本では「2人が先行送還」などと伝わっていますが、現地はどんな状況でしょうか?
森)昨日(2日)、急に「2人」という話になりました。これまでレムリヤ司法大臣は、一貫して「4人同時送還」を主張していたのですが、司法手続きで棄却が認められなかったため、「2人送還」という流れになっています。
裁判の即日棄却が認められなかった理由 ~裁判官の反発の可能性も
飯田)認められなかったのは、何か理由があるのでしょうか?
森)複数の理由が考えられると思いますが、基本的に裁判の取り消しについては、フィリピンの裁判所の裁判長が判断します。
飯田)裁判長が。
森)現在、フィリピン政府は迅速な取り消しを求めています。それに対して裁判官が反発し、証拠や書類を吟味して、「取り消しの判断を慎重に下したい」と考えている可能性があります。
飯田)「法治国家なのだから法に基づかなければならない」と、司法側は考える。
司法省幹部「マルコス大統領の訪日の目的を事件が覆い隠してしまってはならない」 ~マルコス大統領の来日までに引き渡したい
ジャーナリスト・鈴木哲夫)ある種、司法のプライドというか面子もあるのでしょうけれど、そう遠くない時期に全員引き渡しになるのか、逆にかなり時間が掛かるのか。現時点で判断することは難しいかも知れませんが、見通しはいかがでしょうか?
森)フィリピンが繰り返し強調しているのが、「マルコス大統領が日本を訪問する8日までに、何らかの引き渡しをしたい」ということです。
飯田)マルコス大統領の来日までに。
森)フィリピンにとって、今回のマルコス大統領の訪日は重要イベントであり、日本との強固な関係をアピールして投資や支援を引き出したいという思惑があるのです。
飯田)なるほど。
森)そのなかで送還問題が報道の中心になってしまうことは避けたい。司法省幹部は「マルコス大統領が訪日する本来の目的を、事件が覆い隠してしまうことがあってはならない」と繰り返し強調しています。
鈴木)そこが関係しているのですね。
レムリヤ司法大臣の会見では8割がフィリピンメディア
飯田)フィリピン国内では、このニュース一色になってしまっているところもあるのですか?
森)私は毎回、レムリヤ司法大臣の会見を取材していますが、日本メディアもいますけれど、7割以上~8割方がフィリピンメディアという感じです。
飯田)フィリピン国内でも大きなニュースになってしまっているから、このままだと訪日も霞んでしまう。
森)おっしゃる通りです。
日本との親密な関係をアピールして投資や支援を引き出したいというフィリピンの思惑
飯田)フィリピンにとって、今回の来日の目的は何でしょうか?
森)まずは日本との強固な関係を、改めてアピールしたい意向があると思います。というのもマルコス政権は、前の強権的だったドゥテルテ政権とは違い、米国や日本との関係を改善しようとする傾向にあるのです。そうしたなかで、今回はマルコス大統領の初めての訪日ですから、親密な関係をアピールして投資や支援を引き出したいという思惑があります。
日米との関係を修復したいマルコス政権
飯田)地政学的なことや安全保障面で考えると、もともとフィリピンはアメリカに近いとみられていましたが、ドゥテルテ政権では天秤で測るような外交をしていました。マルコス政権になり、それも変わってくるかも知れないのですか?
森)実際、変わってきています。ドゥテルテ政権は、基本的には中国寄りの姿勢を示していました。当時のドゥテルテ大統領は任期期間中、1度もアメリカを訪問しませんでした。
飯田)そうですね。
森)ところがマルコス大統領は、公式訪問ではありませんが、最初にアメリカを訪問しています。そのあとに中国を訪問し、そして日本に来るという順番です。アメリカと日本との関係を修復したい、重く見たいという感じがあります。
「自分たちの国は高く売れる」と考えるマルコス大統領 ~アメリカに近寄り、中国にも秋波を送る
飯田)直前にアメリカとフィリピンの国防大臣同士の会談などもあって、アメリカとしてもフィリピンを陣地として使いつつ、台湾情勢を睨みたいところがあるのですか?
森)おっしゃる通りです。昨日(2日)のニュースになりますけれど、アメリカとフィリピンの間で、フィリピンに米軍が巡回する拠点として使われる場所を4ヵ所増やすことで合意しました。
飯田)4ヵ所。
森)フィリピンは台湾に近いので、米国にとっては重要な足がかりを得ることになります。さっそく昨日、中国政府が反発する声明を出していました。逆に言うとマルコス大統領は、いま「自分たちの国は高く売れる」と思っているわけです。それでアメリカに寄ってみたり、中国にも秋波を送って、利益を最大化したい意向があります。
訪日前にこのような報道一色になる状況は頭が痛い
飯田)森さんはシンガポールを主体にしてASEAN諸国全体もご覧になっていると思いますが、ASEAN諸国全体として、どちらにもいい顔をしつつ、「高く売れるのはどちらだ」というような外交姿勢は共通するところがありますか?
森)大なり小なり共通しています。しかし、フィリピンはマルコス政権以降、特にその傾向を強めているように感じます。
飯田)それを考えると、訪日前にこういうことが起こってしまうのは、少し頭が痛いわけですね。
森)おっしゃる通りです。この報道一色になるのは「よろしくない」という判断があります。
飯田)フィリピンとしても早く解決したいし、日本としても早く審理を進めたいと。
森)そこでフィリピンの司法判断が難しい状況になっているということです。
「ドゥテルテ政権のときのようにはさせないぞ」という司法のプライドも
飯田)逆に言うと、いまはマルコスさんが大統領になり、「ドゥテルテ政権のときのようにはさせないぞ」という司法のプライドもあるのですか?
森)その揺り戻しも多少はあるかも知れません。超法規的な麻薬撲滅戦争など、ドゥテルテさんはいろいろと展開していましたし、司法の矜持のようなものを示しているのかも知れませんね。
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