日韓首脳会談「実現」はアメリカを「仲介しなかった」から?

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が3月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。4年ぶりとなる韓国・尹錫悦大統領の来日について解説した。

日韓首脳会談「実現」はアメリカを「仲介しなかった」から?

2022年11月13日、日韓首脳会談~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202211/13asean.html)

韓国の尹大統領が3月16日から来日 ~首脳会談開催へ

韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が3月16日から来日し、岸田総理大臣との日韓首脳会談が行われることになった。韓国の大統領が来日するのは2019年以来、約4年ぶりとなる。

飯田)4年ぶりの来日ということは、コロナ禍の前になります。

宮家)いつも言うことですが、長い日韓の歴史を振り返れば、外交関係や国際関係は動画であり、静止画ではないということです。流れがあるのです。1965年の基本条約から始まって、請求権の問題はずっと議論されてきました。

日韓の外交官が粘り強く話を詰めた結果としての首脳会談の実現 ~G7までのプロセスを動画として見るべき

宮家)今回は3つのポイントがあります。まず、静止画として見ると「また韓国の大統領が来るのか」という感じですけれども、尹大統領が就任してから相当の時間を掛け、水面下で日韓の外交当局が議論してきました。しかも私の知る限り、日韓とも最高レベルの外交官を投入しているのです。

飯田)日韓ともに。

宮家)最高レベルと言っても中国の戦狼外交のように、強面の圧力を掛けるという意味ではありません。プロの外交官が粘り強く、しかも誠意を持って、情報が外に出ないように話を詰めていき、今回それがうまくいったのだろうと思います。

飯田)誠意を持って。

宮家)韓国側の国内にいろいろな意見があるのは当然です。当然なのだけれども、今回は長い外交努力の結果として出てきたということを、皆さん理解してあげて欲しいと思います。

飯田)長い外交努力の結果。

宮家)そうでなければここまで来なかった。逆に言うと、おそらく日韓の関係者たちは大統領の来日からG7までを、1つの流れとして議論しているはずなのです。突発事故がなければ徐々に動いていく、そのプロセスを動画として見ていただきたい。

うまくいったのはアメリカを仲介せず、日韓の当事者で行ったから

宮家)第2点は、「なぜうまくいったのか」ということです。今回、関心が高かったのが、アメリカはどの程度周りにいたのか、介入したのか等々があるわけです。

飯田)アメリカが。

宮家)例えば、いわゆる慰安婦合意のなかでも、アメリカは相当、動いた形跡があるのです。しかし、今回は私の知る限り、日本側はもちろんのこと、韓国側もアメリカに対して「静かにしてください」と言ったのでしょう。

飯田)日韓が。

宮家)そう思います。少なくともアメリカが何か落としどころを持って、韓国と日本に「圧力あるいは働きかけをした結果がこれだ」とは思いません。むしろ日韓とも「我々に任せてくれ」と。

飯田)当事者でやるのだと。

宮家)「当事者でやる」という話があったと言われています。いまのような状況で、慰安婦合意のときのように、「アメリカは入ってはいけない」と言っているわけではないのです。しかし、結局は二国間の問題ですから、日韓でとことん議論し、当事者である二国間で落としどころを見つけなければ長続きしないのです。

飯田)日韓で見つけなければ。

宮家)アメリカが圧力を掛けてどこかを動かすと、「不自然な結果になる」可能性があります。アメリカは今回、日韓の要望を受け入れて、あまり大きく入ってこなかったのでしょう。静かなチアリーダーだったと思います。

飯田)外から「頑張れ」と。

宮家)もちろん非常に関心を持って見ていたし、いろいろなジェスチャーもあったかも知れませんが、彼らが介入してきたという感じはないですね。

飯田)当事者自身が腹落ちしないことには、国内で反対があったときにもしっかり抑えられない。

宮家)アメリカが不必要に動けば当然、人工的な力が掛かってきて、逆効果になるとまでは言わないけれども、不安定になる可能性があります。とことん日韓で話し合わせるというのは、結果的によかったのではないかという気がします。

韓国にとっての日韓関係は90%が国内問題 ~「国内を説得しなければならない」外交

宮家)3番目に、やはり尹大統領は勇気のある政治家だと思います。日韓関係というのは国内で決して人気のある仕事ではないですよね。誰がやっても難しいわけです。

飯田)日本相手に妥協すれば、それだけで「国賊だ」と言われてしまう。

宮家)そうです。我々からすれば「自然な流れだ」と思いますが、我々がそう思うということは、韓国の一部の人は「不自然だ」と思うかも知れない。その部分を考えながら、ある程度リスクを取って進める。いつも申し上げている通り、日韓関係は90%が国内問題ですから、「国内を説得しなければならない外交」という宿命があります。その宿命に勝てなかった人たちは、対日強硬に向かうわけです。

飯田)最後にちゃぶ台返しをしますね。

宮家)尹さんは勇気ある決断をしたのではないでしょうか。

政権が交代すればゴールポストを動かすことがある韓国 ~だからこそ慎重であった日本

飯田)90%が国内問題だからこそ、特にいままでの流れを見ると、韓国が政権交代した際にはゴールポストを動かすようなことが起こる。

宮家)いままで何度もありました。だからこそ今回、日本側は慎重だったわけです。妥協するというのも1つのオプションとしてあったわけですが、それをやったら結局、また隙を与えてゴールポストが動いてしまう。

飯田)妥協すれば。

宮家)それを永遠にやるのか、いい加減に今までとは違う時代に入らなければいけないのではないかという議論が、おそらく日本側にあったはずです。私もそう思います。その意味では、動くべきものが動いたという感じですね。

日韓首脳会談「実現」はアメリカを「仲介しなかった」から?

2022年11月13日、日韓首脳会談~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202211/13asean.html)

「386世代」を中心としたグループと保守系が常に政権交代する韓国

飯田)先の大戦中における朝鮮半島出身の労働者の方々、いわゆる元徴用工の訴訟について、日本企業が韓国最高裁に命じられた賠償金を、韓国の財団が肩代わりするという解決策を韓国政府が発表しました。この件に関する韓国国内の世論調査を見ると、世代によって受け止め方に差があるようですね。

宮家)「386世代」と言われる、80年代に厳しい軍政のもとで民主化運動を行い、弾圧された人たちがいます。これは私が勝手に思っていることで、失礼かも知れませんが、彼らは日本で言うところの「全共闘」世代、もしくは学生運動の世代です。この方々のなかには反米、容共、親中国、親北朝鮮だった人もかなりいたと思います。

飯田)そういう特徴を挙げて、80年代に軍政に対して反対していた。前の文在寅政権がまさにそうですよね。

宮家)あの人たちが代表のようなものです。日本では少し違うのですけれど、韓国の場合は民主化したあと、いわゆる保守系の人たちと386世代の人たちを中心とするグループが、常に政権交代してきたわけです。

飯田)民主化のあと。

宮家)経験則で言えば、どうも386世代の人たちが出てくると話がややこしくなる。保守の人たちのなかでは話が通じるのだけれど、大統領が代わった途端に「同じ国なのか?」と思ったこともあります。

飯田)政権が交代すると。

韓国国内を説得するには世代が代わるのを待つしかない部分がある

宮家)……ということが何度かあって、ゴールポストが動かされてきたと私は思っているのですが、その悪循環をどうやって食い止めるのかが、先ほどから議論されていることだと思うのです。「説得できるのか」と考えると、最終的には世代が移っていくのをある程度待つしかない部分がある。

飯田)新しい世代に。

宮家)日本もそうです。いまの全共闘世代は、70代後期になりつつあるわけです。

飯田)後期高齢者ですね。

宮家)徐々に引退が始まっている。新しい世代、学生運動の洗礼を受けていない人たちは、保守的な部分が多いですよね。「韓国でも同じようなことが起きつつある」というのが、いまの世論調査の結果ではないかと推測しています。

若い世代は韓国政府の「解決策」に賛成が多い ~現実路線の若い世代

飯田)今回のいわゆる徴用工問題の韓国政府の解決策には、反対の方が多いという世論調査が出ていますが、それでも賛成の割合が10代~20代で4割余りあったと言われています。

宮家)韓国経済も先進国化していて、成長率が伸びない。韓国は財閥経済ですから、大企業はよいのだけれども、そうでない人たちの生活はそれほど楽ではありません。

飯田)格差が激しい。

宮家)当然のことながら若い人たちにすれば、「北朝鮮との統一などという話をしても、私たちは食べられないではないか」という意見が出てきているのでしょう。保守化するというよりも、現実的になっているということです。

飯田)やはり理想を掲げるよりも、現実路線で考える。

宮家)まずは食べたい、結婚したい、家を買いたい、子どもをつくりたいという気持ちがあるはずです。でもしれには「時間が解決する」という部分があるのかも知れませんね。

日本が十分に時間を掛けて「待った」ことが要因

飯田)今回の合意のパッケージのなかには、未来の若い人たちに向けて日韓でお金を出していきましょうという話や、日本政府が「歴代内閣のお詫びと反省」という言葉を使いましたけれども、例えば戦後70年談話などでは、「未来に向けて背負わせ続けてよいのか」という問題提起もありました。

宮家)そもそも我々の方は「合意」と呼んでいるかも知れませんが、アメリカ人の友人は「これは合意ではない」と言っています。

飯田)合意ではない。

宮家)「韓国政府の一方的な声明発表だ」と。「日本側は十分に応えていない」と言うわけです。彼に言わせると、「岸田さんが決断しないから韓国の大統領が動いたのだ」と言うのだけれど、そうでしょうか。私は日韓のプロが議論した結果だと思うので、岸田さんは決して優柔不断だとは思いません。十分に時間を掛けて待ったことがこうした決着の要因だろうと思います。

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