「台湾内部から揺さぶる」戦法に変更した中国
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国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が4月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国が計画する台湾北方の「飛行禁止区域」設定について解説した。
中国、台湾北方に「飛行禁止区域」設定を計画
中国政府が4月16日~18日の3日間、台湾北方に「飛行禁止区域」を設定する計画を発表したと、ロイターが報じた。その後、台湾の交通当局によると、中国側に抗議した結果、飛行禁止期間は4月16日午前9時半からの27分間に短縮された。台湾当局は「中国政府に対し不合理な飛行制限をしないように伝え、交渉した結果だ」と説明した。
飯田)最初にロイターが4人のソースがあるとして一報を報じたときは、3日間という形でしたが、だいぶ短くなりました。
「有事になった場合、どういう設定ができるか」という中国のテスト ~強烈な対立に発展しないよう27分に短縮
神保)飛行禁止区域の設定はかなり強い措置であり、当然、航空の自由を制約することになります。これが続いた場合、アメリカは飛行禁止区域に(戦闘機なりを)飛ばすのでしょう。飛行禁止区域を堂々と飛ばれたら、中国は対応せざるを得ないので、一気に緊張が高まる可能性があります。この問題はウクライナ情勢でも議論されました。
飯田)そうでしたね。
神保)レッドラインを試す動きを助長してしまうので、3日間というのはかなり危ない話だと思います。27分間に短縮されたのは、「もし有事になった場合、どういう設定ができるか」というテストを中国が行っているのでしょう。現段階で米中の強烈な対立に発展しないよう、このような時間に制限したというのが真相ではないでしょうか。
民進党を勝たせてしまった反省から「もし悪いことをしなければ我々は常に優しい存在である」というメッセージを送る中国
飯田)台湾当局が中国に対して抗議したという報道もあります。アメリカも「あまり火遊びをすると本当に燃えてしまうぞ」というプレッシャーが掛かっているのですか?
神保)そうだと思います。そもそも今回の中国軍による軍事演習も、空母から艦載戦闘機などの離発着が約120回あったと言われています。
飯田)防衛省が発表していますね。
神保)空母機動部隊の展開を重視して、航空戦力が台湾を取り囲む作戦ができるということを示したのだと思います。より広い視点から見ると、来年(2024年)には台湾総統選挙がありますが、中国の合理的な戦略としては、そこで国民党に勝って欲しいわけです。
飯田)中国としては。
神保)そうすると昔の「1992年コンセンサス(合意)」、「一つの中国」という解釈の基盤に戻って、両岸関係を交渉によって進められる。そこへ戻すためには、「中国はいい国なのですよ。同胞である台湾を傷つけるようなことはしません」というメッセージを出さなければならないのです。今年(2023年)の全人代も含めて、台湾に優しいメッセージが多かったのはそういうことだと思います。
飯田)なるほど。
神保)ただ、今回の米下院議長と蔡英文総統による面談など、一線を越えた動きに関しては厳しく対応するということです。昨日(12日)、中国の報道官が「この演習は台湾同胞を対象としたものではない」と、わざわざ言っているではないですか。
飯田)台湾同胞を対象としたものではない。
神保)つまり「アメリカのような外部勢力や、台湾内部にいる独立勢力に警告を与えるためのものである」とわざわざ示し、台湾のなかで過度な緊張を高めないようにしているのです。
飯田)過度な緊張を高めないように。
神保)それで民進党を勝たせてしまった教訓が中国国内にはあるので、そこを何とか分断し、「悪いことをしなければ我々は常に優しい存在である」というメッセージを同時に出しているのだと思います。
台湾国内から国内世論を分断するために工作する中国
飯田)総統選まであと半年と少しですが、それに加えて内部での情報戦工作も激しくなっていくのでしょうか?
神保)台湾の人に聞くと、「中国の情報戦の最前線は台湾内部にある」と言います。使っている言葉のキャラクターは違いますが、同じ言語を使っているので動きやすいわけです。
飯田)そうですね。
神保)そのなかで台湾の世論がどう分断されるか。「ずっと緊張ではないでしょう。いま財政を使うべきは、社会福祉や台湾のなかに使うべきでしょう」というような情報戦を仕掛けて、「なぜこんなに緊張してアメリカに付き合っているのだろう?」というイメージを増やそうとしているのだと思います。
飯田)台湾のなかから。
神保)現政権の国内政策への責任を追及し、支持率を落としていけば、先の統一選で民進党が敗北したのと同じような形で総統選に挑める。そのために中国はいろいろと工作しているのだと思います。
「軍事的なプレッシャーを掛け続けて民進党を勝たせてしまった」という反省から、内部から揺さぶりをかける
飯田)いま「キャラクター」という言葉が出ましたが、いわゆる人間のキャラクターではなく、簡体字ですよね。
神保)フィッシングメールに感じるような、「変な日本語だ。おかしいな」という現象が台湾内でもあると思うのですが、いまは精度の高い形でいろいろなことができます。
飯田)中国国内では「簡体字」を使いますが、一方で台湾や香港などでは「繫体字」が使われます。一目瞭然で違いがわかるのだけれど、それでも工作に使われているという話です。
神保)台湾内のSNSやメディアも含めて、中国にシンパシーを持つ人たちや中国本土から入り込んだ人たちによる工作は、間違いなく行われていると思います。
飯田)台湾のなかで。
神保)それがどれぐらい奏功するかはわかりませんが、これまで「軍事的なプレッシャーを掛け続けて民進党を勝たせてしまった」という反省が中国国内にあるのであれば、やはり内部から揺さぶりをかけることの有効性に、現在は賭けているのではないかと思います。
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