交流戦で本領発揮! 投げるユーチューバー DeNA・バウアーの「日本野球愛」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は今年(2023年)の日本生命セ・パ交流戦で3勝を挙げ、DeNAの交流戦初優勝に大きく貢献したトレバー・バウアー投手にまつわるエピソードを紹介する。

交流戦で本領発揮! 投げるユーチューバー DeNA・バウアーの「日本野球愛」

【プロ野球DeNA】投手練習に参加するDeNA・バウアー=2023年5月15日 横浜スタジアム 写真提供:産経新聞社

『自分がいい投球をして、いい試合ができた。(シーズンで)3つ獲れるタイトルの一つを獲れたし、それもとてもうれしい』

~『スポニチアネックス』2023年6月21日配信記事 より(DeNA交流戦優勝決定を受け、バウアーのコメント)

未曾有の大混戦となった、今年の交流戦。DeNA・ソフトバンク・オリックス・巨人の4チームが11勝7敗で並び、最終的にTQB(得失点率)の差でDeNAの初優勝が決まりました。

セ・リーグ2位のDeNAは交流戦開始前、首位の阪神に6ゲーム差をつけられていました。ところが阪神は交流戦で3つ負け越しと失速。一方DeNAは4つ勝ち越したため、ゲーム差は2.5に縮まりました。23日から両者は横浜スタジアムで直接対決。DeNAが3連勝すれば、一気に首位へ躍り出ます。

DeNAにとって今年の交流戦は、まさにペナントレースの流れを変える格好の機会になりました。ちなみに2021年優勝のオリックス、2022年優勝のヤクルトはいずれも勢いに乗ってリーグ優勝しており、DeNAにとっては心強いデータです。

交流戦MVPは、バットでチームを引っ張った牧が有力ですが、ネット上には「交流戦中3試合に先発、3連勝で防御率1.50。交流戦トップの31奪三振をマークしたバウアーにも賞をあげたい」という声が多く上がっています。

バウアーは交流戦中、まず6月3日の西武戦に中6日で登板。8回を投げ3安打2失点。10三振を奪い、来日初登板・初勝利を挙げた5月3日の広島戦以来、1ヵ月ぶりの2勝目を挙げました。

これで本来の調子を取り戻せたのか、中5日で登板した9日のオリックス戦でも7回を投げ5安打2失点(自責点は1)、9奪三振の好投を見せ3勝目。

そのわずか5日後、14日の日本ハム戦に中4日で登板します。かねてから「メジャーと同じ中4日でもいける」とアピール。この日、DeNAはローテーションの谷間だったため、首脳陣はバウアーにマウンドを託しました。

試合は、バウアーと日本ハムの開幕投手・加藤貴之の投手戦になり、5回に2点を先制してもらったバウアーが、9回を3安打1失点で投げ抜き、自身3連勝となる4勝目。中4日で113球、12奪三振の完投勝利は、投手陣を休ませチームを勢いに乗せる大きな白星でした。バウアーの奮闘ぶりを見て野手陣も奮起。チームが上昇ムードに乗ったきっかけは、この試合だったように思います。

バウアーは2015年からMLBで5年連続2ケタ勝利を挙げ、レッズに所属していた2020年、ピッチャー最高の栄誉、サイ・ヤング賞に輝きました。2021年から3年契約でドジャースに移籍しましたが、1年目に女性への暴行疑惑で訴えられました。その件は証拠不十分で不起訴処分になったものの、MLBはDV規定違反で324試合(2シーズン相当)の出場停止処分をバウアーに科しました。

その後、出場停止日数は大幅に短縮されましたが、今年1月、ドジャースはバウアーとの契約を解除。出場停止の効力が及ばないNPBでのプレーは可能なため、3月にDeNAが契約を交わし、3年前のサイ・ヤング賞投手の日本球界入りが決まったのです。

ドジャースと3年総額1億200万ドル(約138億円)の契約を結んでいたバウアーにとって、DeNAと結んだ単年で出来高を含め4億円の契約は微々たるものですが、バウアーが欲しかったのは「登板機会」。単年契約にしたのは、もちろん来季以降のメジャー復帰を睨んでのもので、日本で好成績を残してDeNAの優勝請負人になれば、大きなアピールになります。

また、日本に来たのはもう1つ理由がありました。バウアーはかねてから日本でのプレーを熱望していたのです。なぜかと言えば、バウアーはロサンゼルス出身。少年時代の1996年、地元のドジャースに野茂英雄が入団し「トルネード旋風」を巻き起こします。

野茂のピッチングを観て育ったバウアーは、野茂を生んだ日本の野球にも興味を持ち、2006年の第1回WBC・日米決戦も現地で観戦。松坂大輔のピッチングも生で観ています。そして大学時代の2009年、日米大学野球の代表として、ついに憧れの日本へ行く機会に恵まれます。驚くのは、このころ既に、いつか日本でプレーしたいと考えていたことです。

『カーター・スチュワートがソフトバンクに入りましたけど、ドラフトされるときに色んなチームと話をして、自分がトレーニングをしたいプログラムをそのチームが持っていない場合、日本でプレーすることも考えた』

~『Full-Count』2019年12月4日配信記事 より(バウアーのコメント)

「カーター・スチュワート」は、2018年、MLBのドラフトでブレーブスから1巡目指名を受けながら条件が合わなかったため入団せず、2019年にソフトバンクと6年契約を結んで話題になったスチュワートJr.のことです。バウアーもドラフトの際、MLB球団と条件が合わなければ、もしかすると同じ道を歩んでいたかも知れません。

メジャーの一流投手になってからも、バウアーの日本愛は変わりませんでした。レッズ在籍時の2019年10月、オフにバウアーは再来日を果たします。パCSの西武―ソフトバンクを観戦したり、少年野球の施設も視察したバウアー。このときDeNAの2軍施設「DOCK」を訪れ、室内練習場で今永らと歓談しています。当時の記事には、こうあります。

『現在でも日本でのプレー希望を持っており、「できれば引退する前じゃないどこかの時点で」と話すバウアーは来オフにFAを迎える。長期契約ではなく単年ごとの契約を望んでいるとの報道もあり、そのことについては「どういう形になるかわからない」としたものの、「例えばMLBでストライキが起こったらどうするかと考えることもある」と語った。万が一の場合には近い将来にNPB入りが実現するかもしれない』

~『Full-Count』2019年12月4日配信記事 より(バウアーのコメント)

この夢が、まさかわずか3年3ヵ月後に実現するとは思いませんでしたが、このコメントでもわかるように、バウアーにとってDeNAでプレーする今季は、大好きな日本野球を体感・吸収できる貴重なシーズン。ただの「腰掛け」ではないのです。

また2019の再来日時、バウアーはスポーツ紙のインタビューで、初来日したときに日本の野球を観て受けた衝撃について、こうコメントしています。

『日本ならではのファンの応援スタイル、声を掛け合いながら行うエネルギッシュでスピーディーな内野守備練習、打者のスイングの高い技術など今でもまぶたに焼き付いている。実際のところ、米国の人々は日本の野球のことをよく知らないし、日本の人々がどれだけ野球に情熱的かも知らない。だから今回、私がいろいろなものを見学して、米国の人たちに伝えたい』

~『スポニチアネックス』2019年10月9日配信記事 より(バウアーのコメント)

つまり、バウアーが目指しているのは「日本野球の伝道師」なのです。来日後、ユーチューバーとしても活躍しているバウアー。海外向けと、日本語吹き替えの音声をつけた日本国内向けの2つのチャンネルを持ち、まめに動画を更新しています。

9日、オリックス戦で3勝目を挙げた2日後。11日にバウアーは自軍がオリックスと試合中の京セラドーム大阪のスタンドに突然現れ、カメラを回しました。何と当日券を買って入場したそうで、ファンに見つかり大騒ぎになりましたが、試合を邪魔しないようすぐに退席。その模様は後日、自身のチャンネルにアップされました。

「なんで上がりの日にそんなことしてるの?」「目立ちたがり?」と思った方、バウアーは日本の野球文化を世界に伝えたくて仕方がないのです。日本の野球ファンとしては、何か誇らしい気持ちになるではありませんか。

日本野球を直接吸収して、それを世界に伝え、25年ぶりのリーグ優勝・日本一・ビールかけも体験。さらには「沢村賞」も受賞してメジャーへ戻る……アメリカでの彼を取り巻く状況は依然厳しいものがありますが、果たしてバウアーの夢は叶うのか?

20日の2軍戦で調整登板し、中4日で25日、阪神との首位決戦第3戦に先発する予定のバウアー。優勝を争うチームの主力投手が直接そのウラ側を語る動画の内容も気になります。“本気”のピッチングと動画配信を期待しましょう。

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