広島・床田寛樹とDeNA・東克樹 ケガを乗り越えた“志願のエース”同士のタイトル争い

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、プロ野球セ・リーグの投手タイトル争いを繰り広げる広島東洋カープの床田寛樹と横浜DeNAベイスターズの東克樹にまつわるエピソードを紹介する。

広島・床田寛樹とDeNA・東克樹 ケガを乗り越えた“志願のエース”同士のタイトル争い

【プロ野球DeNA対阪神】7回 ミエセスを併殺に仕留め、ガッツポーズのDeNA・東克樹=2023年8月18日 横浜スタジアム 写真提供:産経新聞社

8月17日、広島カープの床田寛樹が自身初の10勝目を達成。すると翌18日、今度はDeNAの東克樹も自身2度目となる10勝目をマーク。巨人・戸郷翔征とともにセ・リーグの最多勝争いで1位タイに立った。

まさに競い合う2人のサウスポーにはいくつかの共通点がある。ともにトミー・ジョン手術を経験し、苦しみの縁から駆け上がって掴んだ節目の10勝目であること。そして、その10勝目に、志願の続投を選んだ心意気だ。

7月末に9勝目を上げ、先に10勝にリーチをかけていたのは床田。だが、8月3日のDeNA戦は9回無失点の素晴らしい投球を見せたものの、この日投げ合ったDeNAバウアーも譲らず10回無失点で勝ち負けつかず。

そして、次の登板では3回7失点と今季ワーストの炎上。初の2桁勝利がまたお預けになっただけでなく、試合前時点で1.70だった防御率は2点台に急落してしまう。ただ、広島・新井監督の信頼は揺らがなかった。

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『トコ(床田)にはいつも助けてもらっている。今日はトコの日じゃなかったということ。また次の登板で頑張ってもらいたい』

~『スポニチアネックス』2023年8月11日配信記事 より(新井監督の言葉)

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その「次の登板」こそ、10勝目を挙げた8月17日、首位阪神との一戦だ。緩急自在の「らしい」投球で8回まで無失点。この時点で115球。既に6点リードし、本来であれば交代するのがセオリー。だが、床田はマウンドを降りなかった。

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『絶対に勝とうという思いでマウンドに上がった。ずっと(10勝を)したいと思っていた』

『球数も多かったので、代わるのもありかなと思ったが、こんなチャンスはなかなかないと思うので、無理を言って行かせてもらった』

~『スポニチアネックス』2023年8月18日配信記事 より(床田の言葉)

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結果的に、今季最多122球の力投での完封勝利を果たし、プロ7年目にして初の2桁勝利にも到達した。振り返れば、プロ1年目から開幕ローテを勝ち取り、早々にプロ初勝利を飾りながら、その年の夏にトミー・ジョン手術を経験。昨季(2022年)は7月までに8勝を挙げたものの、8月3日に右足関節を骨折し、10勝に届かなかった。

トミー・ジョン手術を乗り越えた左肘も2~3年前から骨棘の症状があり、今季5月には一度炎症で登録抹消。決して万全の状態ではないなか、それでもマウンドに立てば抜群の安定感を見せている。

シーズン開幕前、床田の今季成績について「18勝3敗、防御率1.20」と予想(希望)数字をあげたのは新井監督。今回の完封劇で防御率は再び1点台(1.90)になり、勝敗は10勝3敗。「18勝」はさすがに厳しいかも知れないが、最多勝と防御率の2冠は現実的に狙えるタイトルと言える。

そのタイトル争いで最大のライバルとなりそうなのがDeNAの東だ。現在10勝2敗。防御率は2.14。勝利数、勝率ではリーグ1位。防御率でも3位につけている。

1年目の2018年には11勝5敗の活躍で新人王のタイトルを獲得した東がトミー・ジョン手術を受けたのは2020年の2月。以降、復帰した2021年は1勝2敗。開幕投手を務めた2022年も1勝6敗。苦しい結果が続いたが、三浦監督からの信頼は変わらなかった。

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『東らしいボールが投げられれば間違いなく通用するので、自分のボールを取り戻せるようにやってもらいたい』

~『ベースボールキング』2022年5月15日配信記事 より(三浦監督の言葉)

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その「東らしいボール」を取り戻すために必要だったのは、ケガと手術を経験したいまの体に合った投球フォーム。今季キャンプ中の2月、ヤクルトとの練習試合で2イニングを投げ5失点と炎上したことをきっかけに、それまでのオーバースローから、スリークォーター気味のアングルへと急遽フォーム改造に着手したのだ。

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『具体的には、右足を(上げてから)踏み込むまでの時間を長くしたことで体の開きが少なくなり、パワーをためた状態で打者に向かって投げられるようになりました。あとリリースポイントを下げたことも、手術後の自分の体に合っている気がします。監督やコーチから指摘されたのではなく、自分で気づけたことがより結果につながっていると思います』

~『日本経済新聞』2023年6月17日配信記事 より(東の言葉)

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迎えた8月18日の阪神戦。10勝目をかけたマウンドは1対1の同点で、7回に一死満塁の大ピンチ。代打・ミエセスに粘られた場面で、暑さも影響してか左ふくらはぎがつり出してしまう。せめてベンチに戻っての治療を勧めるコーチに、東はこう切り返した。

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『ベンチに下がったらリズムが悪くなる。このままいかせてください』

~『日刊スポーツ』2023年8月18日配信記事 より

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果たして、次に投じたこの日の101球目は味方の好守備もあってダブルプレー。ピンチを脱出し、その直後にDeNAが勝ち越したことで10勝目を手にしたのだ。

早め早めの継投が近年のプロ野球では当たり前。そんななか、志願してマウンドに立ち続けることを選び、ケガを乗り越えたことを証明する「2桁勝利」を手にした床田と東。むしろ、投げられない時期を過ごした2人だからこそ、投げられる喜びと責任を噛みしめながらのマウンドのようにも思えてくる。

そんな2人がここから先、残りのペナントレースでどんなタイトル争いを繰り広げてくれるのか。男たちの意地とプロ意識を最後まで見守っていきたい。

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