黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(10月4日放送)に歌人・エッセイストの上坂あゆ美が出演。第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。10月2日(月)~10月6日(金)のゲストは歌人・エッセイストの上坂あゆ美。3日目は、独特な短歌のつくり方について---
黒木)今回も歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』から一首読んでいただけますか?
上坂)では、「シロナガスクジラのお腹でわたしたち溶けるのを待つみたいに始発」。
黒木)これもいい歌ですね。感性の豊かさと言うか……。でも、そのなかに切なさがある。「クジラのなかに入って行かなければいけないのだ」という世の中の不条理のようなものも感じます。「1回書いたものを寝かせて、それを完成させる」と記事で読みましたけれど、そうなのですか?
上坂)そうですね。短歌になりそうなことをiPhoneにメモして、それを「つくるぞ」となったときにパソコンで31文字にしていくというような感じで普段はやっていますね。黒木さんはどうですか? 詩は書き溜めていらっしゃるのですか?
黒木)去年(2022年)、第四詩集を出したのですけれど、そのときは溜めて出しました。いままでは、推敲に推敲を重ねながら原稿用紙でしか書けなかったのです。それがいまはiPadで書くようになりましたね。
上坂)そうですよね。「短冊に書いているのですか?」と聞かれることもあるのですけれど、「普通にスマホですね」と。
黒木)そうですよね(笑)。「5・7・5・7・7」と指折り数えながらつくっていらっしゃるのですか?
上坂)最近、ようやく数えなくてもわかるようになりました。でも仕上げや推敲の段階では一応、数えていますが。
黒木)この歌集はどのような経緯で1冊になったのですか?
上坂)短歌をつくり始めて、新聞歌壇や雑誌の短歌投稿欄に送っていたのです。それでいくつかとっていただくなかで、この歌集を出していただいた書肆侃侃房という出版社で新人歌人を発掘する企画があり、そこに応募して選んでいただいてというような経緯です。
黒木)なるほど。
上坂)本来、短歌は短歌の結社や学生短歌会などの組織に所属し、そこで磨き上げられて歌集を出すというのが一般的なルートなので、自分はかなりイレギュラーですね。
黒木)そのときは何首くらい応募されたのですか?
上坂)30首あれば応募できるということだったのですが、私はそのとき手持ちが全部で40首しかなくて、そのうちの30首を出しました。でも一般的に歌集を出される方は、500~1000首つくって、そのなかから250~300首を出すという世界なので、私のやっていることは、「もう何やってんだよ」っていうレベルなのですよ。この歌集も280首ぐらい入っていますけれど、何とか300首つくって280首出したぐらいの感じでやっていました。あまりルールも知らずに。
黒木)そのルールを知らないというところが個性になっていらっしゃるし。
上坂)そう言っていただけるとありがたいのですけれども。
黒木)エッセイも読ませていただいたのですが、これまたユニークで赤裸々に書かれていて笑ってしまいました。メイド喫茶のお話を書かれていて「ふざけて書いているのかな?」と思うのだけれども、そうではないですよね。読みやすいし、切ないし……。
上坂)ありがとうございます。黒木さんもエッセイも詩集も出されていますが、エッセイを書くときと詩をつくるときはモードが違うことはありますか?
黒木)まったく違います。
上坂)そうなのですね。
黒木)私は詩から始まったので、最初はエッセイが全然書けなかったのです。エッセイは、朝、目が覚めたら、まずベッドから起き出して……と、読者の方にわかりやすく書くところがありますが、エッセイばかり書いていると詩が書けなくなるのですよね。逆に詩を書いているときはエッセイがしんどいなと思うことがあります。
上坂あゆ美(うえさか・あゆみ)/ 歌人・エッセイスト
■1991年、静岡県沼津市生まれ。
■東京の美術大学へ進学し、その後、会社員として働き始める。
■2017年から短歌をつくりはじめ、新聞歌壇などにも投稿。
■2022年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』を発表。家族や地元への葛藤など、自身のそれまでの辛さを成仏させるかのような作品群と、ユーモアでありながら、心をえぐられるような言葉選びで大きな話題を集めた。
■現在は歌人としてだけでなく、エッセイストなど幅広く活動。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳