黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(10月3日放送)に歌人・エッセイストの上坂あゆ美が出演。第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。10月2日(月)~10月6日(金)のゲストは歌人・エッセイストの上坂あゆ美。2日目は、短歌を始めたきっかけについて---
黒木)上坂さんにご自分の歌を一首、読んでいただきたいと思います。
上坂)「大体はタンパク質と水なのにどうして君が好きなんだろう」……これは歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』に入っている歌です。
黒木)「タンパク質と水でしかできていない」という例えは、詩ではあるのですけれど、なかなかそれを思いつかないですよね。子どものころからの上坂さんのいろいろな体験や不満や怒りなど、そういったものがこういう言葉を生んでいくのでしょうね。
上坂)そうなっているとしたら、自分の人生を少し肯定できる気がするので、「そうだといいな」と思います。
黒木)私も詩は書いているのですが、短歌や俳句はまったく書けません。でも、上坂さんの歌集を読んで「もしかしたら書けるのではないかな? 詩のように書けばいいのではないかな?」と思ってしまったのですけれど。
上坂)嬉しいです。
黒木)上坂さんの歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』を読みながら思い出したことがあります。三ヶ島葭子さんという人をご存知ですか? 大正時代の歌人なのですけれど、私はこの人の短歌に勇気をもらったのです。「子のために ただ子のためにある母と知らば 子もまた寂しかるらむ」という、子どものためだけに生きること。それがどんなに大切であるとしても、ただそれだけの人生だと知ったら、子どもは悲しむよという。「自分の人生を生きなさい」というようなことも書いている方なのですが、なぜかこの方の短歌を思い出したのですよ。
上坂)へえ。
黒木)ひたむきさや強さなど、見え隠れするものが、不満や怒りとおっしゃっていながらも希望の光を見つけたいのだろうなという。いかがですか?
上坂)自分自身では「強い」とはやはり思っていなくて、「そうだったらいいな」と思いながら生きています。
黒木)赤裸々に書いていらっしゃるから、それが強さにつながっていくのですよね。ご本人が強い人だということではなく、歌のなかから「きっとこうなりたいのだろうな、こういうことなのだろうな」というのが強さにつながっていくのかなと感じました。
上坂)私は詩や短歌や芸術は、自分にとって、理想や美しいと思うことを切り取るものだと思うから、私はいまの歌も美しいと思いますし、「悩みながらも強く生きていく」ということが人生でいちばん美しいなという感覚はあります。
黒木)いつごろから短歌を書き始められたのですか?
上坂)短歌は2017年から書いているので、5~6年ですね。
黒木)子どものころは詩や歌を書かれていたのですか?
上坂)まったく書いていません。学校の授業で俵万智さんを知ったくらいです。
黒木)『サラダ記念日』の。
上坂)(教科書に載っていた)『サラダ記念日』とか。
黒木)「コストが掛からないからいい」と思ったのがきっかけだったと伺いましたが。
上坂)そうなのですよ。もともと幼少期は、絵を描くことがいちばん得意なのかなと思っていたので、美術大学に行ったのです。美術大学で油絵や彫刻や映像をやっていたのですけれど、つくるのが大変ではないですか。大きいし時間も掛かるし。短歌に出会ったときに、「すごくコスパがいいな」と思ったのです。「31文字でいいのですか!?」みたいな(笑)。
黒木)少し安直といえば安直ですけれど、そんなことがきっかけでこんな素晴らしい歌集をつくられたということですね。多くの方に読んでいただきたいなと思います。
上坂あゆ美(うえさか・あゆみ)/ 歌人・エッセイスト
■1991年、静岡県沼津市生まれ。
■東京の美術大学へ進学し、その後、会社員として働き始める。
■2017年から短歌をつくりはじめ、新聞歌壇などにも投稿。
■2022年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』を発表。家族や地元への葛藤など、自身のそれまでの辛さを成仏させるかのような作品群と、ユーモアでありながら、心をえぐられるような言葉選びで大きな話題を集めた。
■現在は歌人としてだけでなく、エッセイストなど幅広く活動。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳