上坂あゆ美は「短歌」と「エッセイ」の表現をどう分けているのか?

By -  公開:  更新:

黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(10月5日放送)に歌人・エッセイストの上坂あゆ美が出演。第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』について語った。

上坂あゆ美は「短歌」と「エッセイ」の表現をどう分けているのか?

※画像はイメージです

黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。10月2日(月)~10月6日(金)のゲストは歌人・エッセイストの上坂あゆ美。4日目は、短歌とエッセイの書き方の違いについて---

黒木)今回も歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』から一首お願いします。

上坂)「風呂の水が凍らなくなり猫が啼き東京行きの切符を買った」。

黒木)この歌も好きです。情景が浮かびますね。

上坂)ありがとうございます。

黒木)春になったのですね。

上坂)静岡出身なので、本当は水は凍っていないのですが。

黒木)でも、そう見えたのですよね。

上坂)そうですね。心持ちの……。

黒木)心が凍っていたのか、そこには出て行く寂しさもあるし、出て行きたい希望もあるし。それがたった31文字のなかで表現されているのがすごいですね。上坂さんはエッセイも書かれていますが、エッセイを書くときと短歌を書くときでは違いますか?

上坂)詩というのは、現実を超越している存在であって、エッセイの方が現実に即したものになりやすいと思うのですけれど、私の場合、短歌も現実に起きたことを詠んでいるので、現実を超えた詩や創作ができる人に憧れるところがあります。「31文字で表現した方が美しいもの」か、「長く書いた方が美しいものか」というところで判断しています。

黒木)短歌とエッセイを。

上坂)同じ素材でどちらの料理にするかを判断しているような感覚でやっているので、ご意見が聞けて新鮮でした。

黒木)私は詩を書くとき、10代のころから主語が“僕”だったのです。

上坂)そうなのですね。

黒木)心のなかにある挫折や、夢と現実の狭間で、詩を書くことでバランスを取っていたようなところがあったのですけれど、“僕”でしか書けなかったのです。

上坂)なるほど。

上坂あゆ美は「短歌」と「エッセイ」の表現をどう分けているのか?

第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』

黒木)なぜ“僕”で書くかというのを、有名な作家の方々がある雑誌で書いてくださったのですが、「どれも合っていて、どれも違う」という感じだったのです。

上坂)どれも合っていて、どれも違う。

黒木)それが最近、リアリティを持って“私”で書けるようになったのです。上坂さんは既にそれができてしまっているわけではないですか。

上坂)まあ、はい。そうですね。

黒木)これからどんな歌を書かれるのでしょうか? 期待も込めて尋ねていますが。

上坂)この第一歌集を出したあと、「もう、書きたいことは書いてしまったな」という脱力感のようなものがありました。短歌が自分にとって大事なものだからこそ、黒木さんが“僕”と言わなくてもよくなったような感じで、短歌にせざるを得ないときがくると思うので、それをしっかり待ちたいと思っています。だから、どうなるか自分でもわかりません。

黒木)いまも書いていらっしゃるのでしょう?

上坂)短歌はつくっていますし、エッセイも書いています。

黒木)作風は変わりましたか?

上坂)変わりましたね。第一歌集を書いたら、いろいろなものに対する怒りがなくなってしまって、「ああ、成仏したな」と思うのですが、次はやはり嬉しさ楽しさだったり、それこそ現実以外だったり、そういう歌作をしてみたいなと思い、いま取り組んではいますね。

黒木)自分でもどんな言葉やどんなテーマが飛び出してくるか、わからないところが魅力的ですね。

上坂)うまくいくといいなという感じでやっています。

黒木)あとがきも少し笑ってしまったのだけれど、ひろゆき君でしたっけ?

上坂)そうですね。ひろゆき君と和民君が。

黒木)ひろゆき君と和民君に例えて、ご自分のなかの気持ちを表現していらっしゃるのですよね?

上坂)そうですね。

黒木)おかしいですね。「感性が豊か」と言うかもう……。

上坂)でも、それこそ、黒木さんが詩を書くときに“僕”が出てくるようなことなのかなと勝手にさっき共感していたのですけれど、違いますか? 人格がまた別にあるような。

黒木)うーん、どうだろう。私も振り返って考えてみます。

上坂あゆ美/ 歌人・エッセイスト

上坂あゆ美/ 歌人・エッセイスト

上坂あゆ美(うえさか・あゆみ)/ 歌人・エッセイスト

■1991年、静岡県沼津市生まれ。
■東京の美術大学へ進学し、その後、会社員として働き始める。
■2017年から短歌をつくりはじめ、新聞歌壇などにも投稿。
■2022年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』を発表。家族や地元への葛藤など、自身のそれまでの辛さを成仏させるかのような作品群と、ユーモアでありながら、心をえぐられるような言葉選びで大きな話題を集めた。
■現在は歌人としてだけでなく、エッセイストなど幅広く活動。

番組情報

黒木瞳のあさナビ

毎週月曜〜金曜 6:41 - 6:47

番組HP

毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳

Page top