中国がアステラス社員逮捕 林前外務大臣でも救出できなかった日本政府「最大のミス」

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キヤノングローバル戦略研究所主任研究員でジャーナリストの峯村健司と東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠が10月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国当局に反スパイ法違反容疑で逮捕されたアステラス製薬の日本人男性について解説した。

中国の習近平国家主席(南アフリカのヨハネスブルク)=2023年8月24日 EPA=時事 写真提供:時事通信

中国の習近平国家主席(南アフリカのヨハネスブルク)=2023年8月24日 EPA=時事 写真提供:時事通信

中国がアステラス製薬社員を逮捕、3月に拘束の邦人

飯田)反スパイ法違反容疑で3月に拘束された日本人男性を、中国当局が正式に逮捕しました。アステラス製薬の現地法人役員の方です。9月になって刑事勾留の措置になっていたとも報じられていますが、正式に逮捕されるのは大きいですか?

峯村)ものすごく大きいです。刑事手続きに入る前は、居留監視という中国独特の制度があって、この役員は半年近くその状態でした。助かる可能性があるとしたら、その居留監視の間しかなかったのです。これから刑事手続きに入り、スパイ容疑として起訴されると、懲役10年近くになりかねません。かなりインパクトが大きいですよね。私も個人的に存じ上げている方なので、衝撃です。

飯田)“フルータリアン”さんからもメールをいただいております。「どうしても我慢できずにメッセージを出します。アステラス社員の方の逮捕について。中国で6年にわたって不当に拘束され、先頃刑期を終えて帰国された鈴木英司さんは、『逮捕されてしまったらダメなのです。いますぐ政府は動かなければならない。時間がないのです』と強く話していましたが、間に合いませんでしたね。いつから日本は自国民に対して、こんなに極めて冷たい国になってしまったのでしょうか。怒りを抑えきれません」というご意見です。

当時の林外務大臣が中国に行っても実現できたのは領事面会だけ

峯村)同感です。実は昔からそうなのです。やはり日本政府の邦人拘束への対応は問題があります。今回の件も、拘束の直後の4月1日に当時の林外務大臣が中国を訪問しています。外務大臣が出て行ったので、救出に向けた動きが当然あるのかと思っていたのに、何もありませんでした。

飯田)あのときは李強首相と会っていましたよね。

峯村)会っていますが、そこが日本政府の最大のミスでしょう。救出できる見込みがなければ訪中すべきではない。結局、外相が訪中して実現できたのは領事面会だけでした。なかなか厳しいですよね。

学術目的で行っている研究者も拘束

飯田)海外で仕事をされている方もたくさんいるし、中国だけではなく、リスクを背負いながら動いているところはいろいろあると思います。研究者でも、北海道大学の先生が中国で拘束されたこともありました。

小泉)そうですね。スパイ活動をしているわけではなく、学術研究の目的で行っている研究者まで捕まえ始めたことが衝撃です。私が「当面、ロシアには行かないようにしよう」と思ったのは、その件があったからなのです。中国がやったことを、いずれロシアもやる可能性がある。私は特に安全保障に携わっていますから、ロシアとロシアの息がかかっていそうな国に行くのは危ないだろうと思い、もう5年ぐらいロシアには行っていません。

中国などで日本人が拘束されても大使館が動くことは基本的にない

飯田)大使館や領事館には期待できないところがありますか?

峯村)先ほどの鈴木英司さんは私も存じ上げていますが、当時、面会に来た日本の総領事館員の対応に対して強い憤りを感じていました。北海道大学の先生のときもそうでしたが、「本気で助ける気があるのかな」という感じです。

飯田)日本政府に。

峯村)「あなたも何か悪いことをしたのではないか?」というようなことを言う領事もいるのです。私が北京特派員時代に中国当局に拘束された際も、基本的に何か大使館が動いてくれたことはありません。釈放されるときは「峯村さん」と言って面会に来るのですが、普通なら「大丈夫? 怪我はないですか?」などと言うではないですか。

飯田)普通はそうですね。

峯村)私がいまでも覚えているのは、ステルス戦闘機J20を撮影して捕まったあとのことです。その大使館員は開口いちばん、「どうやってあの情報を取ったのですか?」と言われました。それには少し殺意を覚えましたが、そんなものです。

スパイ関係で拘束されたときは交換しかない ~カナダでファーウェイの副会長が逮捕された件

峯村)外務省に「邦人保護こそ最も重要なミッション」という意識を高めてもらうもらうことが1つ。また、こういうスパイ関係の話では「人質交換」しかないのです。1人逮捕されたら「こちらは2人、当該国の人間を捕まえます」と。まさにカナダでファーウェイの副会長が逮捕された時の中国政府の対応はそうでした。

飯田)そうでしたね。

峯村)ファーウェイの副会長が逮捕されたので、中国側は中国にいたカナダ人を2人拘束しました。そうしなければ救出できないと考えると、日本もその辺りの整備を進めなければいけません。

飯田)ところが、日本にはスパイ防止法がないですよね。

峯村)ないですし、どの機関がやるのか。捕まえようと思ったときに、「誰がスパイ活動をしているのか」をすぐに調査しなければいけません。

飯田)事前に情報として持っていて、「泳がせておく」ようなことが必要なのですね。

峯村)そうですね。

頻繁にスパイ交換や捕虜交換を行っているロシア

飯田)そういうことを、やはり強権国家ロシアは常に見ているのですか?

小泉)実際、ロシアは頻繁にスパイ交換や捕虜交換を行っています。今回の戦争が始まってからで言うと、プーチン大統領といちばん親しかったウクライナの政治家メドベチュク氏がウクライナ政府に捕まったのですが、それをスパイ交換のような形でプーチン氏は取り戻しています。代わりにロシア軍が捕まえていたウクライナの軍人を、何人か釈放するようなことを行っています。

飯田)スパイ交換のような形で。

小泉)もっと言うと、日本でも度々、ロシアのスパイ事件は明らかになっているわけです。大使館の武官と言っていたけれど、実は参謀本部情報総局のスパイで、陸自の元高官に資料を貰っていた。日本の警察は優秀で、そこまでは発見できるのですが、捕まえる根拠がないわけです。そして、だいたいペルソナ・ノン・グラータで逃げてしまうのですけれど、そうなると日本の武官も報復で追放されるわけです。

飯田)ロシア大使館にいる防衛駐在官が退去させられてしまう。

小泉)手札の数で言うと、六本木のロシア大使館には10人くらいいるのですが、モスクワの日本大使館には3人くらいしかいないわけです。お互いに追放合戦をやっていると、どこかで日本の方が必ず息切れしてしまうから、摘発も及び腰になってしまうという事情もあると聞きました。

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