慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が10月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。今後の米中関係について解説した。
APECがサンフランシスコで行われる理由 ~ワシントンに比べ、「中国と協力するべきだ」と言う声が大きい
飯田)サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)がフォーリン・アフェアーズ電子版のなかで、中東などいろいろあるけれど、「中国との間の抑止関係もそのままいく」というニュアンスの寄稿があったと報じられています。長期的な目で見ると、やはり米中間の緊張関係は変わらないのでしょうか?
細谷)今回のAPECで注目すべき点は、東海岸ではなく、西海岸のサンフランシスコで行われることです。サンフランシスコはシリコンバレーが近いですし、ワシントンD.C.とはまったく空気が違います。
大統領選に向け、「中国との関係改善が進んでいる」というメッセージを党内向け、国内向けに出したい
細谷)基本的に西海岸はビジネス中心ですし、中国系の住民の方もたくさんいますから、選挙のことを考えると、西海岸は地方自治体を含めて中国系・韓国系がたくさんいます。この地域においては、主にビジネスが理由だと思うのですが、「中国と協力しなければならない」という声が大きいのです。いまワシントンD.C.に行くと、中国に対してかなり厳しい空気を感じます。議会でも共和・民主関係なく、超党派的に対中強硬論があります。
飯田)ワシントンでは。
細谷)政治や軍事の世界と、一方ではビジネスの世界とで相当の温度差があるなか、今回のAPECはサンフランシスコで行われる。カリフォルニアは民主党内でも左派の影響が強い地域です。「中国と気候変動やビジネスで協力するべきだ」という声を反映させて、バイデン大統領としても、「中国との関係改善が進んでいる」というメッセージを党内向け、国内向けに出したいのだと思います。
危機が起きた際、日中に比べて、はるかに米中の方がコミュニケーションが強い ~「表面における過激な対立」と「水面下での調節」がある米中対立
飯田)ある意味、ジャンルごとに分けて、「協力できるところはしていく」という形になるのでしょうか?
細谷)逆に言うと、東シナ海近辺では、中国軍機が米軍機の数メートル先まで接近した事件もありました。また最近も、フィリピンとの間では領土問題をめぐり、強硬なハラスメントがあります。これに対してペンタゴンのなかでは、中国に対する警戒感は間違いなく強まっていると思います。一方、ビジネスの世界では中国との提携を求める声が強い。この2つの間でバイデン大統領は、「どうバランスを取るか」で常に悩んでいるのではないでしょうか。
飯田)フィリピンの物資運搬中の船が体当たりされたり、ギリギリまで接近されたこともありましたからね。
細谷)言い換えると、かつては日本との間にも尖閣沖の中国漁船衝突事件がありましたが、同じような事件が米中で起きると思うのです。それが起きたとき、マネージメントできるかどうか。よく言われるのは「日中に比べて、はるかに米中の方がコミュニケーションは強い」ということです。危機が起きたとき、米中の間でかなり迅速にコミュニケーションを取り、危機を回避するメカニズムがあると言われています。
飯田)米中の間には。
細谷)米中対立において、「表面における過激な対立」と「水面下での調節」があるという点では、日本よりも2国間関係が安定しているという側面もあります。
中国が李尚福国防部長を解任させたもう1つの狙い
飯田)軍、安全保障サイドの対話における1つの窓口として、国防省の国防部長がいますが、李尚福さんが正式に解任されました。後任はまだ決まっていませんよね?
細谷)中国政府は公表していませんが、いろいろな可能性があると思います。1つは李尚福さんがロシアに対する軍事的な武器供与・支援も含め、パイプ役になっていたのではないかということです。そういったことからアメリカが制裁対象にして、米中の国防相会談を行うにもさまざまな支障があった。これに対して中国側も強く反発していました。そういった意味では今回、違った理由で解任されたのだと思いますが……。
飯田)汚職関係ですか?
細谷)そうですね。しかしながら同時に、それによってアメリカと国防相会談を行う道が開けたという見方もあります。何らかの形で障害を取り除きたいという意向も、習近平政権にはあったかも知れません。
飯田)アメリカ側が制裁解除に応じないという流れが見えるなかで、まったく別の、面子を保てる形での取り除き方があった。
細谷)いろいろな考慮もあって、このような判断をしたのだと思いますね。
日本が中国に強い姿勢を取るためには、米中並みに危機回避するメカニズムを整えていく必要がある
飯田)後任はアメリカとの間で話ができる人になる可能性もありますか?
細谷)先ほども申し上げた通り、米中間で偶発的な事故、軍事的な衝突が起きたときに、それを一定程度解決するメカニズムが必要になると思います。中心になるのは当然ながら国防相会談になるでしょう。
飯田)日本としても、中国と対峙はしますが、あまり勇ましいことを言ってアメリカの梯子が外されるようなことは避けるべきですか?
細谷)危機管理ができているからこそ、逆に米中で激しく言葉の応酬ができる部分があるのだと思います。逆に日本はそのメカニズムがないので、危機が高いレベルのエスカレーションに発展しないよう、中国に対して警戒感を持たなければならない。日本が中国に強い姿勢を取るためには、危機が起きたときに回避するメカニズムを米中並みに整える必要があると思います。
飯田)現場レベルでも、政治レベルでも必要ですか?
細谷)おっしゃる通りです。
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