「CO2の排出」で同じラインに立つインドと中国 日米にとって面倒なことに

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戦略科学者の中川コージが12月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ASEANにおける米中対立について解説した。

中印首脳会談=2019年6月13日 Avalon/時事通信フォト 写真提供:時事通信

中印首脳会談=2019年6月13日 Avalon/時事通信フォト 写真提供:時事通信

南シナ海で中国がアメリカの軍艦を不法侵入と批判

中国軍の南部戦区は12月4日、中国が領有権を主張する南シナ海に米海軍の戦艦「ガブリエル・ギフォーズ」が不法侵入したため、追跡監視を行ったと発表した。

飯田)南シナ海周辺で、さまざまなことが起こっています。5日の新聞によると、フィリピンが排他的経済水域(EEZ)を主張する海域に130隻以上の中国船が集結したということです。フィリピン沿岸警備隊は、これらの中国船は海上民兵であるとして、複数の巡視船艇を派遣しています。どうご覧になりますか?

米中対立のフロントラインであるASEAN

中川)米中対立のいちばんのフロントラインの1つがASEANです。そういう意味では、「フィリピンがアメリカにつく、中国につく」という話ではなく、フィリピンも両方の超大国をにらみながら、なおかつ中国と接しているので、常にASEANのなかで中国に対する疑いの目を向けています。ドゥテルテ政権から現政権になり、対応が変わるところはありますが、いずれにしてもASEANがホットであることは間違いありません。それに対して、日本は介入していくべきです。

飯田)日本が。

中川)もともとアメリカ側には「メコン河下流域開発(LMI)」があり、中国側には「瀾滄江メコン開発協力(LMC)」があったりと、フレームワークとして米中対立はずっとあったわけです。ただ、この辺りはなるようにしかならないと言うか、領海などの話になるので、お互い引くに引けないですよね。

「CO2の排出」で立ち位置が近いインドと中国がつながってしまう

中川)その辺りは我々に見えやすいのですが、対立というところでは、安全保障上の問題が1つある。国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)が開かれましたが、気候変動にはインドも絡んでくるので難しい部分があります。この辺りの動きからすると、フィリピンなどに関してはある意味、流動性が低いわけです。流動性が高いところに注目しておかないと、日本としての戦略を間違えかねないと思います。

飯田)「COP28」で注目されたのは、グローバルサウスと呼ばれる国々との関係性において、先進国がどれだけ支援・技術協力をするかというような話でした。岸田総理は日本国内の話に関し、CO2をたくさん出す石炭火力発電所の新規建設は行わないと発言しましたが、どうアプローチすればいいのでしょうか?

中川)気候変動やエネルギー安全保障に関わるところは、米中対立だけでなく、特にインドが中国側に立ちやすいわけです。

気候変動のラインからインドと中国に同じラインに立たれると面倒なことに

中川)普通であれば米印と、我々のような自由民主主義というイデオロギー的な国と、対中国という構図です。しかし、途上国的な枠組みから言うと、CO2排出に関しては、どちらかと言うとインドと中国の立ち位置が近いので、つながってしまうのです。今回、米中からはトップが出なかったので、モディ首相は首相演説において、アメリカからはハリス副大統領、中国からは丁(テイ)筆頭副首相が出たことを挙げ、「インドは首相が出たのに」と大国を批判しています。

飯田)モディ首相が。

中川)排出に関するスタンスは、インドと中国で近いところがあるのです。我々の枠組みとして、気候変動のラインからインドと中国に同じ立場に立たれると、面倒なことになります。

「これまでCO2を大量に排出していたから発展して先進国になった」という批判を受けてしまう

飯田)そこに楔を打つため、インドに対して技術協力を進めるなど、そういう方向になっていくのでしょうか?

中川)インドのスタンスは、先進国に対してかなり対立的な立場にいるため、原発はフランスやロシアの技術を入れていますが、技術協力は難しいと思います。インドは独立的な動きがあるのです。カーボン・ニュートラルに関してもインドは遅いです。モディさんの宣言では2070年という目標を掲げていますので、先進国の2050年よりも20年くらい遅いのです。中国は「3060」と言っており、2030年までにピークアウト、2060年までにカーボン・ニュートラルとしていますので、途上国の遅れが揃ってしまうのです。

飯田)なるほど。

中川)先進国としてはやりづらいところもありますし、アメリカも大量にCO2を出しており、脛に傷もあります。「CO2を大量に出して発展してきたから先進国の立場になれたのに」という彼らの批判を受けてしまうわけです。

飯田)それには、なかなか反論しづらいですよね。

中川)安全保障よりはハードではないのですが、CO2を基軸としてイデオロギー的な対立につなげられると、自由民主主義との対立とは違う軸での枠組みができてしまいます。その辺りも考えておかないと、誰が敵で誰が仲間かというゼロイチの議論ではなくなるので、難しい計算を迫られると思います。

ASEANの大国として今後キーとなるインドネシア

飯田)中国やインドの次に発展しようとしている国々も、たくさんあるわけですよね。

中川)それらの国々は経済力も弱いので、発言力もまだ強くありません。ただ、その人たちがどこに追随するかと言うと、途上国側ですよね。安全保障や自由民主主義となると、人権などもあり、途上国もついてきているところはあるのですが、CO2に関しては途上国と先進国は立ち位置や利害が完全にバッティングします。途上国の小国はグローバルサウスの盟主を謳うインドにつきやすいですし、中国の立ち位置も比較的近いのです。大変な問題だと思うのですが、COP28の話は、日本ではそこまで大きく話題になっていない気がします。

飯田)インドネシアに関してはどうですか?

中川)インドネシアはASEANの大国なので、アメリカとも中国とも非常に上手くお付き合いをしています。中国もいまインドネシアを巻き込もうとしており、この間もジョコ大統領が行きましたし、外交イベントがある度にジョコ大統領が訪中しています。大統領選を控えていますが、いずれにしてもインドネシアは今後、ASEANでキーとなる大国になっていくと思います。中国も近年は極めて重視しています。

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