東大先端科学技術研究センター准教授で軍事評論家の小泉悠が1月16日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。北朝鮮・崔善姫外相のロシア訪問について解説した。
北朝鮮の外相がモスクワ入り ロシアとの関係発展か
北朝鮮の朝鮮中央通信は、崔善姫外相が現地時間1月14日、ロシアを公式訪問するためモスクワの空港に到着したと伝えた。16日にロシアのラブロフ外相と会談を行う予定。
飯田)北朝鮮の外相がモスクワに入りました。ウクライナをめぐっても協力関係にありますが、それらも背景にあるのでしょうか?
小泉)ありそうですよね。ウクライナ戦争が始まってからのロシアと北朝鮮の接近の仕方は、かつて見られなかったものだと思います。
北朝鮮外相がロシアで何の話をするのか
小泉)北朝鮮はもともとロシアがつくったような国ですが、関係には波がありました。北朝鮮にはもう1つ、中国という大きな後ろ盾があるので、2国の間を行ったり来たりしながら振幅してきたのです。冷戦が終わってからは中国が圧倒的に強いので、どちらかと言うと中国寄りでしたが、24年前にプーチン政権ができたころは、ロシアと北朝鮮が接近する契機がありました。
飯田)プーチン政権ができて。
小泉)今回はそれに次ぐ、四半世紀ぶりのロシアと北朝鮮の接近期と言っていいと思います。引き金を引いたのは明らかにウクライナでの戦争です。ロシアには仲間が必要ですし、北朝鮮はこれを機にロシアにすり寄り、いろいろなものが得られるかも知れない。お互いの思惑が一致しているのだと思います。そのような状況で、今回は外相がわざわざモスクワまで行き、何の話をするのか。そこがまず注目されます。
徐々にロシアから「ウィッシュリスト」を手に入れようとする北朝鮮
飯田)ロシアとしては、武器が欲しいところはありそうですね。前回はロシアの宇宙基地に行きましたが、そういうところが北朝鮮としてのメリットなのでしょうか?
小泉)2023年9月に金正恩氏がボストーチヌイ宇宙基地へ行っています。そのあとはハバロフスク地方コムソモリスク・ナ・アムーレという町に行っていますが、ここは極東の軍需産業の集積地で、スホイ社の主力戦闘機工場が置かれている場所でもあります。それからアムール造船所という、極東で唯一、潜水艦を建造できる造船所もあります。そこへわざわざ金正恩氏が陸海空軍の総司令官を連れて行ったのですから、どう考えても軍事技術の話をしたのでしょう。すぐに決まることはなかったはずですが、今後、徐々に北朝鮮はそのとき出したウィッシュリストを手に入れようとするのだと思います。
極東で唯一潜水艦を造船できるアムール造船所を訪れた金正恩氏
飯田)ボストーチヌイの話は注目されていますが、潜水艦もとなると、インパクトが大きいですね。
小泉)しかし、公式に「金正恩氏がアムール造船所に行った」とは出ていません。ただ、現状は北朝鮮が出した国防5ヵ年計画の後半に入っており、そのなかで唯一、具体的な形が見えていないのは原子力潜水艦なのです。なおかつ、アムール造船所は極東で唯一、原子力潜水艦をつくることができた造船所でもあるのです。
飯田)アムール造船所が。
小泉)いかにも北朝鮮が欲しいものがありそうですよね。あるいは、アメリカのカービー報道官が言うように、戦闘機や防空システムなども北朝鮮が望んでいるのだとすると、コムソモリスク・ナ・アムーレにあるスホイ社の工場などにも、欲しいものがたくさんあったのだろうと思います。
安保理常任理事国として公式には「北朝鮮に制裁している」とするため、完成品は渡せないロシア
小泉)同時に、ロシアは公式には北朝鮮への制裁を維持しているわけです。国連の安保理常任理事国から追い出されたくなければ、「公式には制裁している」という顔だけはする必要があるので、完品は渡せません。それがどんな形になっていくのかも気になりますね。
飯田)コムソモリスク・ナ・アムーレという町は、日本では知られていないですよね。
小泉)そうですね。逆に言うと、極東は人口もとても少なく、大きな産業もないので、極東で唯一まともな製造業がある町だと言ってもいいと思います。最低限、極東ソ連軍を維持するためのさまざまな軍需産業をつくっており、それがまだかなりの程度残っているのです。
飯田)北朝鮮が欲しい技術である潜水艦などが、そこへ集積しているのですね。
小泉)そのような場所に行っているわけですから、おそらく表に出ないところでは、金正恩氏や随行した軍の幹部から「このようなものが欲しい」とか、「いまこういうものをつくっているけれど、ロシアに同じような技術はないか?」などの話を必ずしていると思います。
ウクライナ戦争が我々の安全保障に跳ね返ってきている
小泉)プーチン大統領は、対外的には「ボストーチヌイ宇宙基地で衛星の開発支援を約束した」と言っていますが、実際は隠されたものがたくさんあると思います。これまでも技術者が向こうへ行ったり、技術資料が渡ったことも非公式にはあったと言われていますし、実際に北朝鮮のミサイルのエンジン部分などは、ソ連製技術の影響が大きく見られるわけです。あるいはウクライナからも流れていると思います。
飯田)非公式の形で。
小泉)これまではお目こぼしする形で行われていたことが、もしかすると政府マターとして、公式に人や技術資料が送られるようになるかも知れない。場合によっては、北朝鮮の技術者がロシアに来て勉強するなど、ますます活発に行われるとすると、回り回ってウクライナ戦争が我々の安全保障に跳ね返ってきたとも言えると思います。
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