【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第1166回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
3月8日、グランドプリンスホテル新高輪国際館パミールにて「第47回日本アカデミー賞」授賞式が開催。映画『PERFECT DAYS』主演の役所広司が、最優秀男優賞に輝きました。
日本アカデミー賞最優秀主演男優賞は、「第42回日本アカデミー賞」での『孤狼の血』以来、5年ぶり4度目の受賞。『三度目の殺人』(第41回)での最優秀助演男優賞を合わせると、5度の最優秀賞受賞となります。
そこで今回は、俳優・役所広司をクローズアップ。その魅力に迫ります。
まさにパーフェクトな演技で観客を魅了
映画『PERFECT DAYS』は、巨匠ヴィム・ヴェンダース監督が日本を舞台に描いた人間ドラマ。
公共トイレの清掃員として働く、平山。彼の生活は、いたってシンプルだ。同じ時間に目覚め、同じ時間に仕事に出かける。東京・渋谷区にある複数の公共トイレを、手づくりの掃除道具を使って清掃する。
仕事が終わるといつもの店で酒を飲み、好きな小説を読んで眠りにつく。それは味気ない生活を繰り返しているように見えるかも知れないが、彼にとって同じ日は1日としてなく、毎日を“新しい日”として生きていた……。
無口で無骨な主人公・平山は、なぜいまの生活に至ったのか。そのプロセスをヴェンダース監督が記した「Who is Hirayama?」というメモを頼りに、平山という男を演じきった役所広司。粛々としたなかにも生命力に満ちたその演技は、世界中を感動で包み込みました。
そんな本作について「この映画は、これまでに関わってきたどの映画とも違っていて……」と、役所さんは話します。
映画『PERFECT DAYS』の始まりは、東京・渋谷区内17ヵ所にある公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」。プロジェクトオーナーである柳井康治氏が、ジェンダーを問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレを目指して、2020年にスタートさせたプロジェクトに、ヴィム・ヴェンダース監督が賛同したことから映画製作が実現しました。
本作が世界各国で公開されてから、実在する公共トイレを訪れる外国からの旅行者が増えたこと。そして、清掃員の方々に対してフレンドリーに対応する利用者が増えたことなど、授賞式の場で、本作が社会にもたらした影響力についても言及した役所広司。
映画興行としての成功だけでなく、「アートの力で世の中を変えていく」という当初思い描いていたプロジェクトの指針をも実現させていることに、役所さんご自身も手応えを感じていらっしゃるようにお見受けしました。
また外国籍の映画監督として初めて日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞したヴィム・ヴェンダース監督について「日本が大好きで、日本の文化や人を誰よりも愛している監督」と語る役所広司。
米・アカデミー賞における国際長編映画賞の日本代表選定時、「自分はドイツ国籍だから日本代表の作品に選ばれないのではないか」と、ヴィム・ヴェンダース監督が真剣に悩んでいたというエピソードも披露。敬愛するヴェンダース監督と共に最優秀賞を受賞したことを、我がことのように喜んでいる役所さんの姿が印象的でした。
プレゼンターの妻夫木聡から名前を読み上げられた瞬間、満面の笑みを浮かべた役所広司。受賞スピーチでは本作に携わった人々への謝意を述べたあと、トロフィーをしみじみと見つめながら「(受賞って)いいもんですね。嬉しい、本当にすごく嬉しい」と、一言。
「ゴジラの牙をちょっと抜いた感じがします」という茶目っ気あふれるコメントには、会場から大きな笑いが巻き起こりました。
受賞作である『PERFECT DAYS』では、「第76回カンヌ国際映画祭」でも最優秀主演男優賞を受賞。さらに、アメリカで現地時間3月10日に発表される「第96回アカデミー賞」では、国際長編映画賞にノミネートされている本作。
「俳優の人生は1作で変化する」というような言葉を聞いたことがありますが、どのような企画と出会い、その出演作がどのような運命を辿っていくか。こればかりは、神のみぞ知る領域。そんな天運さえも手繰り寄せた『PERFECT DAYS』という映画は、役所広司という俳優を語るにおいて外せない、そして今後の俳優人生をより豊かなものへと導いていくであろう重要なファクターとなることは間違いないでしょう。
勢いが加速するベテラン俳優の活躍に、ますます期待が高まるところです。
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『PERFECT DAYS』
大ヒット上映中
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬
製作:柳井康治
エグゼクティブ・プロデューサー:役所広司
プロデュース:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬、國枝礼子、矢花宏太、ケイコ・オリビア・トミナガ、大桑仁、小林祐介
撮影:フランツ・ラスティグ
インスタレーション:ドナータ・ヴェンダース
編集:トニ・フロシュハマー
美術:桑島十和子
キャスティング・ディレクター:元川益暢
ロケーション:高橋亨
スタイリング:伊賀大介
ヘアメイク:勇見勝彦
制作プロダクション:Wenders Images Wenders Foundation Spoon
配給: ビターズ・エンド
(C)2023 MASTER MIND Ltd.
第76回カンヌ国際映画祭 最優秀男優賞受賞 役所広司
第36回東京国際映画祭オープニング作品
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/