Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね【第1235回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
今回は、全国の映画館にて上映中の『ゆきてかへらぬ』と『デュオ 1/2のピアニスト』をご紹介します。
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画像を見る(全13枚) (C)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
『ゆきてかへらぬ』女優、詩人、批評家。三者三様の愛と熱情
実在した女優・長谷川泰子、天才詩人・中原中也、そして目利きの文芸評論家・小林秀雄。“文化の百花繚乱”と謳われる大正時代を舞台に、才能あふれる三人の若者たちの恋愛と青春を鮮やかに映し出した映画『ゆきてかへらぬ』。
脚本を手がけたのは、『ツィゴイネルワイゼン』『セーラー服と機関銃』など、日本映画史に残る名脚本を世に送り出してきた田中洋造。このオリジナル脚本は、多くの監督やプロデューサーに熱望されながらも、長きにわたり映画化を実現することが出来ませんでした。
そんな“幻の企画”が、令和の時代に、名匠・根岸吉太郎監督の手で花開きました。
『ゆきてかへらぬ』のあらすじ
大正時代、京都。20歳の新進女優・長谷川泰子は、17歳の学生・中原中也と出会い、一緒に暮らし始める。
やがて東京へと引っ越した二人の元に、ある人物が訪ねてくるようになる。その人物の名は、小林秀雄。中也の詩人としての才能を誰よりも評価しており、中也自身も批評の達人である小林から一目置かれていることに誇りを感じていた。
中也と小林。才気あるクリエイターたちの仲睦まじい様子に、泰子は置いてきぼりにされたような寂しさを覚える。しかし、小林もまた、泰子の魅力に惹かれてしまい……。
『ゆきてかへらぬ』のみどころ
主人公・長谷川泰子を演じたのは、日本映画界を代表する女優・広瀬すず。大きな柄が特徴的な着物やクラシカルな洋装。和洋折衷の華やかな衣装を艶やかに着こなし、トップ女優の貫禄さえ感じられます。2人の男との愛に翻弄されながらも、自分の夢に向かって奮闘する女性の胸の内を情感たっぷりに表現しています。
そして、後に“不世出の天才詩人”と呼ばれることになる中原中也役は、木戸大聖。『ゆきてかへらぬ』の脚本が高い評価を受けながらも映画化に至らなかった理由のひとつに、中原中也役に適した俳優が登場しなかったことが挙げられていますが、そんな難役を木戸大聖は鮮やかに体現。今後の活躍が楽しみな逸材です。
また岡田将生が、中也に惹かれ、泰子に恋する小林秀雄を熱演する緩急自在な演技からも目が離せません。三者三様、刹那的な青春を謳歌する姿に魅了されてしまう人も多いことでしょう。
無邪気に、ある種の無敵さを纏いながら、感情のおもむくままに時を楽しむ京都での生活。そして、ひとりの男の出現により、奇妙な三角関係へとなだれ込んでいく東京での日々。
どのシーンからも文学の香りが漂い、登場人物が話すセリフからは日本語の持つ言葉の美しさが感じられるのも、本作の魅力のひとつです。愛して愛されて、傷ついて、それでも生きていく。刹那な物語をじっくりと堪能して。
『デュオ 1/2のピアニスト』双子の天才ピアニスト、苦悩と覚醒の物語
双子の天才ピアニスト、プレネ姉妹の人生をモデルにした『デュオ 1/2のピアニスト』。幼い頃からピアノに情熱を注いできた双子の姉妹、クレールとジャンヌ。2人は父親からアスリートのような指導を受け、名門カールスルーエ音楽院に入学する。ソリストを目指して邁進する中、彼女たちはピアノが弾けなくなる難病を患っていることを知り……。
一見すると難病モノの映画のようですが、これが実に奥が深い。夢を叶えたいという情熱と、ほんの少し発想の転換があるだけで、人生はまったく別のものになる。クラシック音楽の魅力を伝えると同時に、“人生との向き合い方”について私たちに問いかけるヒューマンドラマとしても見応えのある一作となっています。
クライマックスの演奏シーンは優しさと力強さが満ちており、圧巻の一言。是非、映画館で美しい音色を味わい尽くして。
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(C)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
<作品情報>
ゆきてかへらぬ
TOHO シネマズ 日比谷ほか全国上映中
出演:
広瀬すず 木戸大聖 岡田将生
田中俊介 トータス松本 瀧内公美 草刈民代 カトウシンスケ 藤間爽子 柄本佑
監督:根岸吉太郎
脚本:田中陽造
音楽:岩城太郎
主題歌:キタニタツヤ「ユーモア」(ソニー・ミュージック エンタテインメント)
配給:キノフィルムズ
(C)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
公式サイト https://www.yukitekaheranu.jp/
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(C)2024 / JERICO - ONE WORLD FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 3 CINEMA
<作品情報>
デュオ 1/2のピアニスト
2025年2月28日(金)から新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
出演:カミーユ・ラザ ラニー・ロベール フランク・デュボスク イザベル・カレ エリザ・ダウティ ほか
監督:フレデリック・ポティエ&ヴァランタン・ポティエ
製作:フィリップ・ルスレ
脚本:フレデリック・ポティエ ヴァランタン・ポティエ サビーヌ・ダバティ
音楽:ダン・レヴィ
原題:Prodigieuses 英題:Prodigies
配給:シンカ/フラッグ
(C)2024 / JERICO - ONE WORLD FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 3 CINEMA
公式サイト https://www.flag-pictures.co.jp/duo-pianist/
連載情報
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Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/