
本コラムの開幕戦は、やはり〝旬の話題〟からだろうと、ソフトバンクが昨秋のドラフトで1位指名も、最終的にはドラフト8巡目指名を受けたマイアミ・マーリンズへの入団を決めた米スタンフォード大のスラッガー・佐々木麟太郎の話題からスタートしましょう。
ソフトバンクは、今回の〝日米競合〟も覚悟の上で1位指名に踏み切っている。しかも佐々木はかねてから、メジャーのドラフト結果を待つ姿勢も表明していたため、仮に入団にこぎつけられていたとしても、2026年のキャンプ、さらにはシーズン前半戦に「ドラフト1位ルーキー」が不在という、異例の事態も承知で指名を敢行したということだ。
「入札で1位指名に行けるというのは、僕らしかいないと思います」
編成育成本部長兼スカウト部部長、つまりはドラフト戦略の責任者である永井智浩は、昨秋、佐々木の1位指名を決断した会議の席上で、球団幹部を前にこう説明したという。球団会長の王貞治にも「獲得できるとしたら翌年の7月になるんですけど、勝負したいと思っています」と、指名に関するルールの説明を詳細に行ったという。
ドラフト1位といえば、それこそキャンプ中は話題の中心。大学・社会人なら即戦力の期待も高く、高校生も甲子園で活躍するなど人気、実力を兼ね備えたスター候補になる。昨秋のドラフト会議で指名されたソフトバンク以外の11球団の1位選手のうち、7月までに1軍でプレーしたのは、高卒投手を1位指名のオリックス、ロッテ以外の9球団。広島の外野手・平川蓮、西武の捕手・小島大河は開幕スタメン、巨人・竹丸和幸は開幕投手を務めた。
しかも佐々木は、昨秋の指名時点でもメジャーからのドラフト指名が有力視され、史上初の日米W指名となる上、そもそもメジャー志向が強いと見られていた。そうしたリスクを踏まえても、高校通算140本塁打を誇り、米国での大学生活を通してパワー系の投手への対応もできるようになった打撃技術をソフトバンク側は高評価。
柳田悠岐が今年38歳、近藤健介も33歳を迎えることから、次代の『左の大砲候補』を〝スタンバイ〟させておく必要があった。佐々木は、その潜在能力にスター性を加味すれば、今後を睨んだ補強ポイントとしても完全にマッチした存在だったのだ。
渡米しての調査は複数回に及び、「西武とか巨人も、結構来ていらっしゃいました」と永井部長は明かし、最も警戒した日本ハムとは、ここ数年のドラフトで「僕らと似たような、いつも指名したい選手がかぶるんです」。2024年のドラフトでも、ソフトバンクは1位で宗山塁(明大―楽天1位)を入札。日本ハムも宗山入札で、計5球団での抽選で両球団とも外すと、続く外れ1位で、福岡大大濠高の投打の二刀流・柴田獅子の指名が日本ハムと重複して、こちらも交渉権を逃している。
さらに同2位で、日本ハムは東海大相模高の左腕、1メートル98の長身・藤田琉生を指名。2位はウエーバー順での指名で、ソフトバンクは12球団中11番目、日本ハムは同9番目で「藤田君も〝行こう〟と思っていたら、日本ハムさんに直前で持っていかれた」と永井部長はその内幕を明かしている。
またソフトバンクは、35歳・今宮健太のショートの後継者探しも急務で、昨秋、沖縄で開催されたU―18のワールドカップで最優秀守備賞に輝いたキューバ代表の18歳、ジョナサン・モレノを育成選手として獲得したのは、近未来を見据えた補強でもある。だから2025年のドラフトでも、当初は創価大・立石正弘(現阪神)に1位入札、抽選で外れた場合に佐々木というプランも真剣に検討したという。
「立石君にしろ、誰かを入札して外れたら、麟太郎君に行って7月まで待つ。そのプランを考えていたんですが、ちょっと待てよと。これ、同じことを考えている球団があって、またそこで麟太郎選手でかぶって外れてしまったら、もうヤバいドラフトになってしまうだろうと」と永井部長。
予想外だったのはDeNAの佐々木1位指名だったそうで「僕らもどよめいたんですけど、DeNAが指名してきたとき、日本ハムのテーブルから『嘘やろ!』って。立石君を外したら、麟太郎君を行くつもりだったんだろうと。すごく悔しがっていたんです。行ける、と思っていたんでしょうね」
想定外の2球団競合となったが、城島健司CBOの〝強運〟で佐々木の交渉権を引き当てると、ソフトバンクは万全の〝受け入れ体制〟を敷いた。城島CBOの表現を借りれば「タウンページ(※かつての電話帳)の30分の1くらい」という分厚い資料をもとに育成方針を説明。
メジャーでも使用されている最新鋭の測定機器などをずらりと揃えた福岡・筑後のファーム施設にも案内。背番号「1」も提示するなど、永井部長も「やれることは全部やった」。その誠意には、佐々木も「高校時代から熱心に花巻まで足を運んでいただき、思いを寄せていただいた球団。申し訳なさと感謝の思いがある」とマーリンズ入団表明の会見で涙を流す一幕もあった。
ただ、これでソフトバンクの2026年は〝ドラ1不在〟のまま、後半戦に突入することになる。それでも現状、リーグ3連覇に向かって首位を走り、2位以下とのゲーム差も7月に入ってじわじわと広がり、混戦から抜け出す気配も漂い始めている。
4番・山川穂高は不振で2軍調整中、昨季の防御率1位、リバン・モイネロも左肩の不調で、復帰は早くても球宴後。万全の戦力が整わない中、支配下66、育成51の計117人・4軍制という、他球団を圧倒する分厚い戦力層をフル活用。
今季もここまで9勝を挙げた右腕・大津亮介は2022年ドラフト2位。佐々木麟太郎の同級生で、大阪桐蔭高2年春に選抜制覇の左腕・前田悠伍もプロ3年目で開幕ローテに定着して無傷の7連勝。今季1番打者に定着、12本塁打をマークしている正木智也は2021年ドラフト2位と、新たな戦力も続々と登場。指名戦略と育成の結果がしっかりとかみ合っている。
ソフトバンクのドラフトといえば、周東佑京(2017年育成2位指名)や牧原大成(2010年育成5位指名)に代表されるように、育成指名の選手が主力級に成長するケースが目立つ。
その一方で、2016年1位・田中正義(創価大)は日本ハムへ、2018年1位・甲斐野央は西武へ、それぞれFA選手獲得に伴う人的補償で移籍。2019年1位・佐藤直樹は現役ドラフトで楽天へ、2020年1位・井上朋也も交換トレードでDeNAへ移籍している。
ドラフト1位指名の選手が伸び悩み、チームに定着できていないという「その〝世間の評〟っていうのは、ちゃんと受け止めつつも」と永井部長は前置きした上で「要は何が大事かと言えば、チームが勝つこと。これでチームがBクラスで低迷しているなら、おっしゃる通りですとなりますけど」。
その言葉通り、3軍制を発足させた2011年以降、昨季までの15シーズンで、日本一8度、リーグV7度、Bクラスは2度だけ。ドラフト1位の補強が白紙になっても、チームの強さは揺るがないというソフトバンクの〝強さの裏付け〟があるからこその、佐々木の1位指名だった、ともいえるのだ。(※なお選手の今季成績は7月20日現在)